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溶ける

 校外学習と言う名の遠足。

 本日の朝食はパンだった。

 月曜日は決まってパンが朝食でサラダにスクランブルエッグなどお洒落な朝食が出る。パンに何を塗るかは自由で各テーブルにバターやジャムなど並べられている。

「和彦ジャム取って」

「…ん」

「和彦お前、何塗って食べるんだ?」

「…うん」

「…何も塗らないと味しないだろ?」

 弘忠が怪訝そうな顔でそう言っているが何と言われているのかいまいち理解できない。聞こえているのに理解が出来ない。頭が働いていない。

 自分の周りの同級生がしっかり朝食を取る最中、何も聞こえず何も味がしない。


 一体何があったのか。


 大型連休から帰って来た夕飯前の遅い時間。帰省での事を話しながら亜季にお土産でも渡そうとした時だった。亜季の様子がおかしかったのだ。誰かから貰ったのか既にどこかのお土産を一つ手にしながら表情が暗かったため尋ねると拒絶された。

 一人になろうと避けていた部分はあったが明確に言葉で拒絶されたのは初めてで呆気に取られていると亜季は吐いた言葉に何の訂正も入れずに部屋へと逃げるように入ってしまった。

(え?何で?)

 何かしてしまったのか。

 いや何もしていない。

 どうするべきか放って置くべきか?しかし明らかにひどい表情をしていたと亜季の顔を思い出して部屋の扉を叩いてしまった。

『亜季?』

『…ごめん、放って置いてくれ』

『いや、でも……なあ俺が何かしたのか?』

『何もしてない。俺の問題だから』

『何?俺の問題って?それって俺には言えないのか?』

『和彦には関係無い事だから』

『俺には関係無いって…』

 友達の俺には無関係か?

 少なくとも自分はそう思っていたが亜季は違ったのだろうか。それとも自分はそんな頼りにならない人間に見えるだろうか。

 拒絶された衝撃と頼りにされないその不甲斐なさと何も言ってくれない亜季に少し苛立ちを感じてしまい彼の部屋の扉の前で立ったままうつむいた後に何も言わずに自分の部屋へと戻って行った。


 一体何があったのか。亜季は一番お前と話しているように見えたが喧嘩でもしてしまったのか。

 お前が亜季を怒らせたのかそうしたら許さんぞ。

 二人の間に流れている空気が気まずくてすごく嫌だ。

 亜季と自分の雰囲気の変化を感じ取った同級生は一体何をしたのかと自分に問いかけてくる。

「何で俺にだけ聞くんだよ」

「亜季と和彦だと白状しやすいのはお前だろ」

 遼一の言葉に皆が頷いていた。

「別に…お前らには…」

 “関係無い”の言葉が出て来そうになり直前で止める。

 亜季と同じ言葉を吐こうとしておりここで拒絶をしたらどうなるか。心配をしているのは分かっているため突き放せば気分を悪くするだろう。

「……」

「どうした?どうした?」

「吐けやおい」

「カツ丼食べるか?」

「取り調べしてんのかよ」

 心配して尋ねている様子から段々と面白がって刑事ドラマさながらの取り調べに変わっていく。忍は筆箱に付けたミニライトのキーホルダーを自分に照らしている。遼一はカツ丼ではなく寮の自販機で買ったであろうお菓子を出している。

「そんな事言われても…」

「亜季が変だしお前は落ち込んでるし」

「そうだよね」

「分からん…分からんのよ」

「……ええ」

「俺は、亜季がひどい顔してたから心配して」

「……」

 何が原因か分からない。自分の言動の何が気に障ったか理解が出来ない。部屋にこもる亜季に聞いても答えてはくれないし自分の問題だとして何も教えてはくれない。

 そこまで思い出して結局自分はまだ亜季にしてみたら暗い事情を話せる程の深い仲ではないのだと実感して気持ちが重くなっていく。

 出来る事は何もない。

(ただ側にいるだけ…でも側にいる事すら断れたら結局俺の存在は何も意味がない)

 亜季にとって自分がどういう存在でありたいか、様々な事情を経てここに来た仲間や同級生、友達であると思っているがそれはあくまで相互の意思が同じ方向に向く事によって完成されるものであり、片方がどこか違う方向へ向いてしまったり何も見ないようになってしまうと結局は成立しないのだ。

「…亜季にも問題ありか」

「にしてもこのままだとなあ…孤立するのは見たくないしな」

 自分との小さな亀裂が生まれてから亜季はまた積極的に一人になろうとしている。自分の話を聞いて亜季にも問題ありと掲げたがそれをさてどうするか。

「遼一お前、同じ部活だろ?それとなく聞いてくれよ」

「それとなく聞いたわ。そしたら“関係無い”だぞ」

「…あちゃー」

「忍。お前が行けよ」

「もう俺も“悪いけどしばらく構わないでくれ”って」

 忍がそう言われた事を思い出したのか静かに涙を浮かべている。何て可哀想なんだろうか。

 まだ残っている地元のお土産を彼の口に捩じ込みながら慰める友達達を横目に亜季の姿を視界に捉えてその背中に向けて溜め息を吐いた。

「…もうすぐ遠足なのに」

「亜季と俺達の班同じだしな」

「サボったりいつの間にか消えたりはしないだろうな」

 そう。もうすぐ校外学習と言う名の遠足があるのだ。

 バスで向かい現地に着いたら博物館を見学し他にも歴史的建造物があるため班を作り各々見たい場所を巡ると言うものだった。

 大型連休前にその班を決めて回る場所も決まっているが大丈夫だろうか。


 気が重い。

 態度が悪かった。冷たい言葉を吐いたと言う事は自覚がある。だからと言って謝りそしてその後にじゃああの時どうしてあんな言葉を吐いたのかと問われて両親に受け入れられている同級生に嫉妬をしたと答えればその後自分はそうでない、こいつは両親に愛されていないんだと知られて同情されるのはもっと嫌なのだ。

 自分で招いた状況ではあるが、これをどうするのかさて何も解決策が浮かばない。ずるいやり方ではあると思うがまた周囲を避けてあの時の事などどうでもよくなるような程に時間が経ってはくれないだろうか。

「ええなあ一年生」

「え?」

 部活中。同じ部活で同級生の遼一を避けていると事情を知らない先輩が話しかけてくる。関西弁を話す二年生の中條夕夜先輩だ。

「何がです?」

「遠足やろ?ええなあ」

「あぁ…そうでした」

「何や楽しみやないの?」

「いやその…」

 班を作って行動をするので今現在気まずい状況の彼等と一緒になるわけでしてとは言えずに誤魔化す。

「授業無しで楽しい遠足。去年楽しかったわ」

「楽しかったんですね」

「まあ輝が迷子になって大変やったけど。分かる?髪結んだ二年の男子」

「え?迷子に?」

 髪を結ぶ程に長い二年生の男子は一人しかいない。あの不思議な雰囲気の先輩だ。

「元々変な奴やけどあっちにふらふらこっちにふらふら」

 班を作りこう言う風に回ろうと予定を立てたのに気が付けば消えていて慌てて探し回ったらしい。

 見つけたと思うと消えて消えたと思うと後ろにおり仕方無しに手を繋いでいたと言う。

「右手は俺が、左手はせっちゃんが」

「せっちゃん?」

「ヘアピン付けた二年の男子」

 真面目な性格で片方を繋いでくれたらしい。

 想像をするとおかしな光景だ。男子高校生が三人並んで手を繋いでいるのだから。

「まあそれ含めて楽しかったわ」

「そうなんですか」

「それまでそこまで仲良ようなかったのに、輝があんまりおかしいから急激に仲良しになってん」

「迷子になったのをきっかけに?」

「絆が深まるとはこの事?なーんて」

 中條先輩はそうして過去の事を思い出してけらけら笑う。遠足先の場所にはそこでしか買えない限定品のお菓子があるから買って来てくれと最後にお金を渡された。

「奢りますよ!別にお金なんて」

「後輩に奢って貰う程小さい先輩やないもん」

 あ、でもお釣りはあげへんよ?とそんな事はしませんと返していると部活は終わり帰り支度を始めると中條先輩を呼ぶ声がする。

 去年の遠足で迷子になったと言う輝先輩だ。

「すぐに行くから待っててやー!」

 そんな輝先輩に中條先輩は投げキッスをして輝先輩はそれを無表情で受け止めるような仕草をした。

「あー…」

 急激に仲良しになったとはそう言う意味か。


 バスに揺られて着いた目的地は毎年薊学園の一年生が訪れている博物館らしい。その博物館の関係者に案内されて厚いガラスの向こうにある発掘された歴史的に価値があると言う物を一つ一つ説明された。

 この遠足が終わったら何を学んだかまとめて提出するように言われているため皆が頷きながら提出する時に困らないようにメモをしていた。

 博物館や美術館など殆ど興味が無いため退屈に感じ欠伸が出るのを堪えながら何とかメモに取っていた。

「こう言う古い記録が残っているのは素晴らしい事なんですよ」

 館内を案内してくれている初老の男性が唐突に話す。その言葉に顔を上げてメモをする手を止めながら聞く姿勢を取る。

「今あなた達が生活に使っている物もいずれは古くなります。新しい物がどんどん出て今手元にある古い物は不要になり手から離れるでしょう」

 確かに購入した時は最新機種だと言われた携帯電話もどんどん形を変えて新しい色が出て自分の最新機種だったはずの携帯電話は古くなっていく。

「しかし新しい物が生まれるのは過去がある故です。学びはいつも古いものから進化して新しいものへと変わります。しかし進化したからと言って古きものをいらない情報として捨てるのは駄目です」

 今あなた達が現代社会で生きているのは過去の人間が血を流し学び進化させたからです。

 それを知らずにただただ目の前の進化のみを便利のみを見ないようにしましょう。過去があっての現代そして未来です。

「過去を学ばない人間は愚かですよ」

 だから退屈と思わずにしっかりと学びましょうねと男性は微笑んだ。聞くとあの男性は薊学園の事をどんな生徒が集まるか知っておりいつも校外学習のために積極的に受け入れているらしい。

「いい人ですね」

 そう話してくれた新島先生に話すと少し暗い顔をして新島先生は話した。

「あの人な、同級生にお前や先生みたいに同性愛の子がいたんだと」

「へぇ」

「病気扱いされてクラスから迫害されて亡くなったらしい」

「……は?」

「あの人が学園の生徒を積極的に受け入れてるのは死んだクラスメイトへの償いもあるらしい」

「あ…そうなん、ですね」

「…他の生徒には言うなよ?」

「なら何で俺に言ったんですか?」

「一人ぐらいいてもいいだろ?知ってる奴が」

 新島先生はそう言って博物館は自由に見ていいとなるとさっさと煙草を吸いに行ってしまった。

 説明が面白かったために同級生から展示物について質問をされている博物館の男性を好奇心に溢れた目で見つめる同級生とは違う視線で見つめてしまった。


「それじゃあそれぞれ事前に班で決めた通りに行くように。四時にはここに集合しておくように」

 昼食を食べた後予定通りに班行動が始まった。

 自分と弘忠も月人、そして亜季。

 忍も亜季と組みたがっていたがうるさくなると言う理由で遼一が引き取ったが今となってはそっちの方が良かったかもしれない。

「それじゃ行くか。地図は俺が持つから俺に着いて来てくれ」

「よろしくね委員長」

「委員長止めろ」

「…よろしく委員長」

「おう…」

「……よろしく委員長」

「……任せろ」

 弘忠の顔が引きつっていた。

 博物館のある町には歴史的建造物が残っている。当時の生活がそのまま分かるような家が残されていて見学が可能らしい。

 自由に見たい所から周り、集合時間をきちんと守るようにと伝えられて出発する。弘忠が班長になり地図を広げて迷わないように確認しながら先頭を歩いている。その隣を月人が同じ様に地図を見ながら弘忠と共に歩いている。

 その後ろを歩く亜季と自分。

「……」

「……」

 横目で見ると亜季と目が合う。向こうもこちらを見ていたのかと気付きお互いに目を逸らす。その前で弘忠と月人が地図を見ながら話しているのを上の空で聞いていた。

「二人とも」

「…ん?」

「まだ歩くけど…平気?」

 それは何にたいしての平気だろうか。

「大丈夫だよ」

「俺も平気だよ」

 そう言って首を振る。知らない町の景色を今度はバスからではなく自分達の足で歩く。もし迷った時は班長の携帯電話に連絡するように、どうしようとなくなってしまったら先生に電話をする。迷子になって寮に帰れなくなってしまっては困るから。

「二人とも、まだ歩くよ」

「うん」

「まだ着かないよ」

「うん」

「……話ちゃんと聞いてなよ?」

 月人が呆れたように言ったのが聞こえた。


 前を歩いていた二人を見失ったのは月人が呆れた顔を見せてから少し後の事だった。

 隣を歩く亜季を気にしながら歩いているとものの見事に前を歩いていた地図を持つ二人を見失い知らない町に置き去りだった。

『で?今どこ?』

「…コンビニが見える」

『今時コンビニなんて何処でもあるんだよ!場所!電信柱とかねぇのか?』

 電話の向こうで怒る弘忠の声が一緒に迷子になった亜季にもよく聞こえていた。言われた通りに電信柱を探して見ると今自分がいる場所の住所が書かれていた。

『…場所は何となく分かった。そしたら…迎えに、行きたいけど戻ると元々行く予定だった場所を見学する時間が無くなるんだよ』

「え?じゃあ俺達は」

 どうしたらいいのかと尋ねると電話の向こうで大きな溜め息が聞こえて言われる。

『そこから少し歩けば別の見学施設があるからそこに行ってろ。俺と月人は予定通りの場所に行って帰りに拾ってやるから』

「委員長…」

『やかましいわ』

 そう言う事だからしっかり学習しろ。

 そう言われて切られた携帯電話からは無機質な音だけが響く。

(そしたら…)

「亜季」

 今日の遠足で午前中に見た博物館とこの町にある歴史的建造物を一つでも見ないといけない。何も見ないで終わらせるのはさすがに気が引ける。そうして久し振りに亜季の名前を呼んだ。

「…うん」

「そう言う訳だから…こっから少し歩いて行けば…」

「……」

「行こうぜ」

「…分かった」

 亜季は真面目だ。授業もきちんと起きて聞いていてノートも綺麗に取っている。

 だから自分といるのを避けてここで嫌だとは答えるとは思っていなかった。

「……」

「……」

 ただ道中は何も喋る事が出来ずにいた。

 着いた先は小さな洋風のお屋敷でずっと昔、この町に貿易に来た外国人が住んでいた屋敷らしい。他にも一家で住んでいたと言うこのお屋敷よりももっと大きなお屋敷があり殆どの同級生はそこへ向かっている。

「すいません」

 お屋敷の見学に入る前にまずは受付に声をかける。ありがたい事に学生は見学をするのに無料だが学生だと証明するために生徒手帳を見せると頷いて「どうぞ」と案内される。

 扉を開けて中へと入ると洋風の古いお屋敷だ。スリッパに履き替える必要があるらしく履いて来た靴を脱いでスリッパを履きペタペタと音を立てて見ていくときっとこのお屋敷が現役で使われていた頃は取り寄せるのが大変だったであろうテーブルや椅子がある。

 棚には陶器の器や動物の置物。

 綺麗な食器が並べられていた。

 椅子の上にはかつてここに住んでいた人物の紹介と彼が何をしたかが綴られていた。

「…亜季、これ読む?」

 棚の中を見ていた亜季に声をかけると頷いて椅子の上にある資料を見つめた。

 それと入れ替わるように今度はこちらが棚の中を見ると亜季が紙を捲る音だけが聞こえる。お互いに背中を向けて他には誰も見ない二人きり。

(……あ)

 この状態なら話せるんじゃないか。

 お互いに顔を合わせないしどこかに逃げれるような場所もない。今なら声をかけても話しかけても亜季は答えてくれるかもしれない。

(あ、いや…)

 どう話しかけようか。先日何故冷たく拒絶しましたか?何か違う。俺が何か気に障った事を言ったのか?こっちの方が良いだろうか。それともそれとも。

「…悪いのは俺だって」

「え?」

「和彦、声に出てた」

 難しく考えていたのが口から漏れ出ていたのかと手を当てる。

「……嘘」

「本当…ぶつぶつ言ってるのが聞こえた」

「…それならその…悪いのは俺って」

「……」

「…言いたくないなら言いたくないで俺の話だけ聞いてほしいんだ」

 洋風の古いお屋敷にある椅子は当時の椅子に座ってみようと銘打っており遠慮無くその椅子に座り話しをする。

「亜季が言いたくない事、知られたくない事があるなら俺はそれを聞かないし聞いたとしても何も言わない」

「…気にはならないのか?」

「気にはなるよ。でもそれは…結局俺の好奇心だ。知られたくない亜季の気持ちを無視してる」

「…俺の気持ち」

「だから言わなくていい。それでいい。でも…それを理由に俺や月人…弘忠」

「…忍に遼一」

「…そいつらから離れるのは…うん。寂しいし悲しいし…俺はお前とそこそこ仲良くしてる方だと思ったから関係無いって言われたのはショックだったよ」

「…それは、うん…悪かったよ」

「謝れんじゃん」

「気分悪くするような事言った自覚はあるから」

「…そうかよ」

「うん…」

「……その」

 自分は座って話していたが亜季は立ったままの状況に目線を合わせるために椅子から立ち上がる。背中を向けていたままであったが亜季の方へ振り向くと彼も背中を向けるのを止めて向き合っていた。

「俺は亜季の事を何も知らない」

「…俺も和彦の事を何も知らないよ」

「本当は知りたいよ。でも言いたくない事は…答えなくていい。だけど…亜季が一体どんな言葉に傷付けられるのかを知りたい」

「……」

「亜季が踏み込ませてくれない以上。俺はいつ亜季を傷付けるか分からないし…それは亜季も同じだ」

「俺が無意識に和彦を傷付ける可能性があるって?…もうしてるだろ」

「だから、その…だからお互いにどうされるのが嫌なのか改めて歩み寄ろうと……俺は思うんだが」

 中学の頃の話しは聞かれたくないとは知っている。それ以外に何かお互いが知らない部分が山のようにあるに違いない。

 それをその山を登るのを許されるように少しずつ言葉で行動で知っていくのは悪いことだろうか。

「…面倒くさいぞ俺」

 亜季が明るい茶髪の髪をかき上げながら言う。

「それはそれも…知らないと判断出来ねぇだろ」

「…それもそうか」

「歩み寄り、出来るか?」

「……俺さ」

 中断されていたお屋敷の見学を再開させながら亜季は話す。

 両親との仲が良くないために自分と違い無償で愛されている同級生の姿に苛立ち嫉妬をしたと。

 亜季の両親がどんな人なのか詳しくは言わなかったが帰省から戻り自分を気にかける両親がいる同級生、自分の姿に嫉妬をして突き放したのだと自分達以外誰もいないお屋敷で話してくれた。

「…んじゃ俺は…親の話とかしない方がいい?」

「いや…それは悪いから。俺がこれから気にしないようにする」

「まあ無理しなさんな」

「…そうだな」

「……家族は皆亜季の事気にしてないのか?」

「いや。兄貴が良くしてくれてる」

「んじゃもうお兄さんだけでいいじゃん」

「そんな簡単な」

「話そうとしても無視してくる奴に支配されるよかは…ちゃんと見てくれる人だけ見たら楽だよ」

 自分を排除しようとした中学の頃の同級生など無視して自分をそのまま受け入れる人間に目を向けて大丈夫だと思い聞かせていた方がずっと楽だった。

 亜季の場合は両親もその受け入れない人間のようで自分のようにはいかくてもお兄さんはいるのだ。

「お兄さんいるじゃん。俺達もいるじゃん。今は…それでいいだろ?」

「…どうにか…事情を知らない奴に苛立ったりしないように出来るかな」

「そしたら深呼吸でもしろよ。それか…俺が隣にいるから大丈夫だよ」

「……」

「……」

「深い意味は無い」

「分かってるわ」

「人は簡単に自分のために誰かを平気で傷付けるけど…」

「うん。知ってる」

「それでも庇う人間やら助けてくれる奴もいるからな」

「……それも知ってる」

「だからまあ…大丈夫だよ」

 心配するな。気楽に行けよ。

 亜季にそう言うと驚いた顔をした。首を傾げると「柊先輩と同じ事言ってる」と言うのだ。

「誰?」

「二年のジャージ着た先輩」

「知らんなあ…」

「…あ、てか今何時?」

「え?」

 携帯を取り出して確かめる。それを見て青ざめるて亜季と顔を合わせる。

 集合時間に間に合わないと慌てて飛び出し受付の人に怪訝な顔で見られたが時間に遅れると皆に迷惑がかかる。寮の夕飯の時間に間に合わないと走ると自分よりも亜季が足が遅い事に気付いて手を差し出す。

 手を引いて走る速度が変わるのか、殆ど変わらないと思うがとにかくこの手を離さないように。


 入学式の時みたいだな。


 集合時間をやや過ぎて到着すると新島先生から少し怒られたがそれ以上はお咎め無しだった。

 同じ班の遼一と月人が駆け寄り何をしていたのかた尋ねるが全力で駆けたためなかなか喋れないでいた。

「…いや、その…」

「ごめん…俺のせい」

 亜季が息を切らしながらそう謝ると遼一と月人は少し驚いた顔をして目を合わせる。

「…ごめん、色々と」

「……いいよもう」

「さっさと帰るぞ」

 顔に笑みを浮かべて帰る場所である寮へと向かうバスに向かって乗り込んだ。


 乗り込む前に亜季とお互いに汗を流す顔を見て思わず笑ってしまった。

 薊学園九期生、冴木響子(さえき きょうこ)

 兵庫県出身。標準語を話す関西人。ショートヘアーで長身の女子生徒。宝塚の男役を思わせるようなイケメンの女子。身長170センチ前半。普通体型。

 誕生日9月10日。

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