第3話・校長室での緊急手術 ~魂魄《たましい》結ぶ敬慕《あい》の一片~
第4章 明けない夜がないように
第3話・校長室での緊急手術 ~魂魄結ぶ敬慕の一片~
アインの緊急手術をこの場で始めると宣言したシリウムは、まず最初に失血による体温低下を防ぐために毛布を掛けさせ、室温も上げさせる。
それから水魔法の使い手には傷口を確認するために血を洗い流し、拭い続けるように命じた。
呼吸を補助させている風魔法の使い手には、アインの胸の動きに合わせてゆっくりと風を送り込むように指示し、同時に反射で舌を噛んだりしないように注意をさせる。
さらにクロードには身体を押さえさせて動かないように固定させた。
補助に付かせたペルフィーには手術器具の管理を任せ、指示に従って次々と取り換えられる器具が赤く汚れていくのを、医呪神官と言う訳ではない神官呪師の二人は顔を青ざめさせながら必死に魔法を維持していた。
「……ゾナール神官長、回復魔法は……?」
「無理だ。体力がもたない。何より……傷口に残ってる魔力が魔法を弾く……感知はできてるんだろう?」
そろそろと、水魔法で血を洗い流している神官呪師が問いかけるが、ばっさり切り捨てたシリウムの言う通りだというのは分かっている。
けれど、緊急で、きちんとした設備も、薬もそろっていない中での手術に、悲鳴を上げ、身体を跳ねさせる幼子を前に、一刻も早くその痛みを取り除いてやりたいと思ってしまう。
「……ここでできるのはせいぜい応急処置だ。一旦仮縫いして、出血を押さえ、医務殿に搬送する」
話しながらもシリウムは手を止めない。
顔色を悪くしながらも、神官呪師二人も指示に従って正確に魔法を維持し続け、医呪神官見習いであるペルフィーは必死に手術に付いていく。
丁寧な縫合ではなく、荒いものではあったが、無理やりに傷口を締め、出血量を減らさせる。
更に包帯を巻いて、一度はだけた上衣を簡単に被せると毛布にその体を包んだ。
「医務殿に伝令を出せ! 到着次第、手術を再開する!! 準備させておけ!!」
スッと、アインを抱いて体を起こしたシリウムの声に、慌ただしく神殿護衛官が一人走っていく。
「ペルフィー。呼吸補助を代われ。搬送する」
「分かりました!」
呼吸補助を任せていた神官呪師とペルフィーが慎重に入れ替わり、患者の呼吸に乱れを生じさせないように魔法を引き継いだ。
「よし。行くぞ」
「はい」
確認して、移動を告げたシリウムに返事をしたペルフィーが魔法を維持しながら後に続く。
「この後のことは他の神官長が伝達に来るだろう。一旦、現場はこのまま保存しておくように。あとは任せる」
廊下に出たところでシリウムは、事の成り行きを青ざめて見守る教職員の中から、教頭に声をかける。
「分かりました……」
言われて、声に出して返事をしたのは直接言われた教頭だけだったが、他の教職員も、神殿護衛官らも頷く。
全員の視線が真っ白い顔をしたアインに集まり、痛まし気に眉を顰めていた。
そんな教職員らの様子を見て、それからシリウムは、ちらりとクロードに視線を投げる。
「……………」
寡黙な神殿護衛官は、無言でこの場に残ることを伝えてきた。
確認したシリウムはペルフィーだけを連れて医務殿に急ぐ。
外は既に冬の夜。
冷え切った外気に、アインの体が冷えないように保温の魔法をかけて、ぐったりとして力の抜けた小さな体を抱き直す。
「……ぃ……ん……す……さ、ま……」
その瞬間、アインの唇が、微かな吐息を漏らし、その名を刻んだことにシリウムだけが気が付いた。
(……っ!?)
一瞬息を飲むが、足は止めない。
医務殿に急ぎつつ、けれど思考は目まぐるしく動く。
(……インスとアイン、完全に共依存の状態に陥ってやがる……!)
日中、皇宮医務殿に授業という名目でアインを連れ出し、そこで二人の……恋人同士のようなやりとりを見せられたことを思いだす。
(インスの方は大丈夫なのか? 皇宮医務殿でも問題起きてたりしないだろうな!?)
教義上、同性愛は禁じられているし、そもそもこの二人の間に恋愛感情は皆無であることは分かっているのだが……
(……魂魄が混じり合ってたりとかしないか?)
そんな、浮ついた物以上の繋がりというか、融合というかを感じて戦慄する。
(魔力はもともと少し似た感じがしていたが、今は感じ分けができないくらいに似ているぞ……)
この時点で、シリウムはまだ、自分たちが帰った後にインスが倒れたことを知らない。
報告自体は皇宮医務殿から送られてきていたのだが、あいにく神前裁判のために医務殿を離れていたので、それが来ていることすらまだ知らなかった。
だから……
(……どちらにしろ、アインを死なせるわけにはいかない……)
今は、アインのことに集中し、その命を繋ぎ止めることに尽力するしかなかった。
第4章第3話をお読みいただきありがとうございます。
ボロボロになったアインを救うため、校長室で強行される「緊急手術」のお話です。
まともな設備も薬もなく、頼みの回復魔法すら使えないという絶望的な状況下で、その場にいる人員を的確に動かし、命を繋ぎ止めようとするシリウムの手腕と現場の教職員たちの必死の連携。
一刻を争う搬送の中、気を失っているはずのアインが微かに零したのは、やはり「あの人」の名前でした。
二人の重すぎる関係性に気づいてしまったシリウムの運命やいかに(笑)!?
次回もお楽しみに!
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【第7弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト
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