第1話・神前裁判 ~裁きの天使が下す審判~
第4章 明けない夜がないように
第1話・神前裁判 ~裁きの天使が下す審判~
主神殿・特別室。
神官呪師学校の校長であるヴィロバが同意をしたことで、その場で神前裁判が行われることになった。
(……ヴィロバ君。本当に、分かっているのかしら……?)
同意を示すどころか、むしろ自信満々なヴィロバの様子に、教皇・ステラ=シアスは内心で少し首を傾げる。
裁判と呼ばれてはいるが、実体は『審判』という白魔法を用いて神族に対象者……被告人の行いの正しさを裁いてもらうだけ。
なので、人の法を犯した者のように証拠や証言を重ね、それに対する反論やらを論じ、法の範囲での罰……判決が下される、などと言うこともないので、何処でもいつでもできるともいえる。
そうは言っても、使い手は『判別』を専門とする神官呪師だけなので、殆どがこの主神殿に、後は大きな都市の大神殿などに一人か二人が配属されているだけだ。
(……確かに、神前裁判で神によって潔白が証明されることは最大の名誉だけれど……)
ラティスがこれまでのやり取りの確認をステラに仰ぎ、同意があったことを確かに承認したステラは、判別神官長であるラティスに『審判』による神前裁判の執行を許可する。
許可を出しながら、薄く笑みを浮かべたステラの内心は、既に不穏の気配を捉えていた。
(……校長室の辺りでの騒ぎも気になるし……アレ、間違いなくインス君の魔力よね? 主神殿に居ないはずなのに、どうやって干渉しているのか……)
面倒ごとはごめんだけれど……
そんなステラの思考など知らず、ヴィロバとラティス双方がステラに対して一礼する。
合意が示されたことを確認して、見届け人となる集まっている神官長らも一礼した。
「……これより、『神前裁判』を挙行いたします」
一言宣言した後、ラティスが朗々と祈りの呪文を唱え始める。
まず、円卓の中央に白い光が円を描き出し、次々と文字や図形が刻み込まれ、複雑で高度な……召喚魔法の魔法陣が創り出された。
更に呪印を結び、切り、しなやかな指先が四方を示してそこにも魔法陣が発生する。
そして、椅子から立ち上がり、その場に跪いて己の正しさを神に主張するヴィロバの足元にも白く輝く魔法陣が生まれた。
様子を見守る神官長たちの内心も複雑。
確かに、神前裁判で潔白が証明されることもある。
けれど、場合によっては神官位を剝奪されるどころでは済まない可能性すらあるのだ。
罪の重さによっては最悪……
そこで一度、言葉を切るようにラティスの声が途切れた。
室内に漂う緊張感が最大級に高まって……
「審判」
何の感情も宿らない、硬質で職務に忠実な判別神官長の声が、合図の言葉を刻む。
「…………っ!?」
眩い光と、輝く魔力の圧が生じて、円卓に描かれた魔法陣から、鎧を纏い、右手に剣、左手に天秤を持った真っ白な天使が姿を現す。
そして、手にした天秤が左に大きく傾く。
直後――
ヒュッと振るわれた剣がヴィロバを両断するように動いた。
声を上げるどころか反応する間もなく、その姿が白い光の粒子となって崩れ去る。
女性の神官長が数名、微かに悲鳴を飲み込み、咄嗟に十字を切る。
流石に想定外過ぎて、見守る全員が目を見張り、絶句していた。
時間にしてほんの数秒。
現れた天使は神の裁きを下すとすぐに姿を消し、生じた順に魔法陣も消え去って、円卓の中央に白い水晶球が一つ。
そして、静まり返った室内には、青ざめた神官長らと、その様子を何の感慨もなく……一切表情を変えることなく見守っていた教皇だけが残っていた。
「……あ~あ。魂魄まで完全に消されちゃった……相当だったようね……」
それまでと変わらない、明るい声で告げたステラの言葉に……遅れて理解した神官長らは、ゾッと悪寒を感じてヴィロバがいた場所を見つめる。
「……ラティスちゃん。報告を……」
「かしこまりました」
何もなかったかのようなステラの問いかけに、やはり感情の見えない表情と声のままラティスが一礼する。
「……審判の結果、元・神官呪師学校校長、ヴィロバ=エルマーニは、幼児に対する不適切な行い、その他、非人道的で狂信的欺瞞の罪により……救いようのない魂魄として消滅刑に処されました」
彼の行いのすべて、思考のすべてはこの水晶球に証拠として記録されています。
淡々と報告するラティスが示したのは円卓に残された白い水晶球。
審判の魔法を使った神官呪師は、裁きを下した天使からその理由を説明される。
だから、ラティスはヴィロバが神からどのような罪に問われ、どのような裁きを受けたのかを知っていた。
その客観的証拠として裁きの天使によって残された水晶球には、言動だけではなく、口に出されてはいない思考の数々までもが、しっかりと記録されている。
必要に応じて複製することさえ可能な神からの証明。
これがあるからこそ、神前裁判で潔白を証明されることは最高の名誉に、裁きを下されることは最大の不名誉になるのだ。
「……ご覧になりたい方は、どうぞ、ご覧下さい……あまり、見て気分の良いものではないでしょうけれど……」
最後にそう締めくくったラティスの言う通り、伝えられた罪状だけで、中身の想像がつくと言うもの。
「そう。ご苦労様……ごめんなさいね? 気分の悪い仕事を頼んでしまって……」
「いえ。これがわたくしの職務ですので……。確かに、今回はあまり気分の良いものではありませんでしたが、これほどの悪を見逃していたことを、反省し、改善していかなければなりません……」
頷いたステラに返礼したラティスの言う通り、消滅刑に処されるほどの存在を野放しにしていたのは自分たちなのだ。
そして、その最大の被害者となってしまったのは、まだ幼い少年。
これ以上の被害が続かなくなったことを一旦は喜ぶべきだろう。
「……そうねぇ。でも、アイン君。ちょっと危ないかもしれないわ……」
形の良い指を口元に当て、首を傾げたステラが少し、どこか離れた場所を確認するかのように視線を空に飛ばす。
スッと、細められた眼差しが、結界の向こうで揺れる魔力を透かして見るように動いた。
「シリウム君。悪いけど、校長室に急いでくれる? 容体を詳細に確認してあげて」
「っ!? 校長室? なぜアインがそこに……いえ。急行いたします」
一拍置いて出されたステラの依頼に、ギョッとした医呪神官長のシリウムは思わず色々聞き出しかけて……けれど「急いで。」という指示に真意の確認は後にして部屋を出た。
第4章第1話をお読みいただきありがとうございます。
神殿の最深部にて、厳かに執行される神前裁判。
己の色眼鏡でしか世界を見られなかった男の迎えた結末は、残された者たちに重い教訓を突きつけるものでした。
そんな張り詰めた空気の中にあっても、一人だけ全くペースを崩さない教皇ステラ猊下の底知れない恐ろしさと大物感……。
一方、裁判の裏で異常を察知した教皇猊下により、事態は新たな局面へと動きます。
急行を命じられたシリウムが目にするものとは!?
次回もお楽しみに!
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【第7弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト
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