第5話・踏んではならない虎の尾を ~踏んだが最期の末路を匂わせ~
第3章 闇に差し込む光のごとく
第5話・踏んではならない虎の尾を ~踏んだが最期の末路を匂わせ~
神剣という、恐ろしいほど巨大な力を前に、一切譲歩する様子を見せない……言うならば不敬で不遜、あるいは無礼とも取れる態度のインスに青ざめて、アインは必死に袖を引く。
そんなアインをやさしい眼差しで見て、頭を撫でて、まるで何も心配いらないとでも言いたげなインスは、神剣の意思に視線を戻す。
途端にインスの眼差しの奥から温度が消えて、氷の狼であるネオよりもなお冷たい魔力を叩きつけた。
「……一つだけ、お礼を言いましょう。魔族に殺されかけたアイン君を生かしてくれてありがとうございます。例え、その理由があなたたちの勝手な都合だとしても、この子が今も生きて、ちゃんと心を保っていられるのは、あなたたちが守ったからでしょうから……」
「……ぇ……?」
お礼と言いながら、インスの声音は感謝しているようには聞こえない。
けれど、その話の内容に驚いて、アインも神剣の意思に視線を戻す。
今も、怖いけれど、それでもちょっとだけ、先ほどまでよりもまともに二つを見た。
『……なら……』
「けれど! これ以上、好き勝手されるのは許せません」
口を開きかけたネオを遮って、きっぱりと言い切ったインスにまた沈黙する。
『……我らに、どうしろと……?』
ややあって、どこか諦めたようにオーバーが問いかけた。
にっこりと、それはそれは人の悪い笑みを浮かべたインスが唇を開く。
「これから先も、必ずアイン君を守りなさい。あなたたちの個人的な都合でこの子を苦しめ、傷つけることは絶対に許しません。……分かりましたか?」
『『……………』』
言われて、顔を引きつらせるような気配を漂わせ、絶句する二つの意思に対して……
「……お返事は……?」
笑顔で迫るインスに、彼らは小さく『……はい……』と返した。
「よろしい」
「……インスさま……すごい……」
にっこり笑うインスを見上げて、ボーっとした様子で呟くアインに微笑みかける。
そのやさしくてあたたかい微笑に、アインも嬉しそうにはにかんで……
((……この男……危険すぎる……))
様子に、神剣の意思たちは背筋が冷えるのを感じていた。
「……ここから先は、アイン君が好きに決めて下さい……」
「……え……?」
クスリと小さく笑ったインスに言われて、アインは小さく息を飲む。
「……僕が……?」
目を丸くして、こてりと首を傾げたアインを撫でながら、インスは話を続けた。
「はい。神剣を使うか、使わないか、決めていいです。アイン君が嫌がっているのにもかかわらず、ずうずうしく居座っているのですし、この手の輩は勝手に自己主張してきますからね……水や氷の魔法を使う時に干渉される可能性が高いです」
「えっ!?」
『『…………………』』
インスの言い方にギョッとしてアインは意思を見上げ、オーバーとネオは沈黙して顔を逸らす。
「……心当たりがあるから、ああやって顔を背けて、まともに目も合わせられない態度になるのですよ」
その様子に、ますます冷たくなったインスの声が斬りつけて、オーバーもネオも流れてもいない冷や汗を感じていた。
「だから、アイン君がちゃんと主導権を握ってください」
「……でも、僕……怖い……です……」
にっこり笑うインスに、不安げに視線を揺らしたアインが俯く。
その様子に「大丈夫ですよ。」と宥めて、インスはまた冷たい視線を意思に向けた。
「そもそも、神剣はただの道具です。使い手の意に染まない道具など……」
皆まで言わずにうっそり微笑む。
ぞくうっと悪寒が走るのを感じて、水でできた体を龍は小刻みに揺らして震え、氷でできた狼の尻尾が股の下で縮こまる。
「……無用の長物は、始末するに限ります……やりようは、いくらでもありますし……ね」
ぽそりと呟くインスにさすがに焦って意思たちも声を上げる。
『待て待て待て待て!』
『先ほど言っただろう! 我らはかの地の封じを……!』
「だから?」
ネオとオーバーが騒ぐのをインスは一言で切り捨てる。
「そちらの都合、と、アイン君を苦しめるの、は別のお話しだと……」
言いましたよね?
にこやかに微笑むインスの言葉に、今度こそ完全に絶句して……
『……わか……った……』
『……すべて、子に従おう……』
神剣の意思は声に怯えを滲ませて、アインの意に従うことを宣言した。
「はい。よろしい」
にっこりと、全く笑っていない笑顔で頷いたインスがアインを見る。
アインに視線が移った途端にやわらかなあたたかさが表情にも眼差しにも戻って、傍から見ているオーバーとネオはその二面性に戦慄を禁じ得ない。
「アイン君は、どうしますか?」
「……僕、は……」
優しく確認されて、ぎゅっとインスに抱き着いたアインは首だけ振り返って神剣の意思を、オーバーとネオをちらりと見る。
「……いやなことや、こわいことは……やめて欲しい、です……」
小さく、呟くようにそれだけ言って、ぐりぐりと顔をインスの胸に押し付けるようにして埋めた。
「……だ、そうですよ……?」
アインの意志を確認したインスがオーバーとネオに氷の笑みを向ければ……
『『……心得た……』』
ピっと背筋を伸ばした二つの意思はカクカクと必死に頷いた。
第3章第5話をお読みいただきありがとうございます。
巨大な力を持つ意思たちを前に、一切怯むことなく冷ややかに「始末する」と微笑むインス。
相手がどれほど恐ろしい力を持っていようとも、インスにとって「アインを苦しめるもの」は排除対象でしかありません。
「ただの道具」と言い放ち、一切の妥協も許さず冷徹に相手を追い詰めていくインスの圧倒的な強者感と、そこまでしてアインの心を守り抜こうとする執念。
アインに向ける底なしの慈愛とあたたかさに対し、神剣に向ける絶対零度の殺気と氷の笑顔……。
そのあまりにも激しい二面性に、人智を超えた存在である彼らですら戦慄を禁じ得ません。
闇を晴らし、一つの決着を見た二人。
長い夜の果てに待つものとは……!?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【第7弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト
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