第2話・御前会議も佳境に入り ~揺らがぬ守護と本能の~
第3章 闇に差し込む光のごとく
第2話・御前会議も佳境に入り ~揺らがぬ守護と本能の~
最上層部が集まる特別室で、神官呪師学校の校長ヴィロバ=エルマーニに対しての聞き取りが進んでいた。
アインは一応、公的には『神官呪師見習い』とされてはいるが、実態としては『保護監視中の見者』でしかない。
ただ、保有する魔力量が莫大であり、かつ魔力を魔力のまま使えてしまうがゆえに、その『魔力の制御の方法』を学ばせる必要があっただけ。
当然、将来的には呪師として育てる予定もあったため、適性を調べた結果、神官呪師としても皇宮呪師としても優秀な呪師になると示した。
だからこそ、より『安全管理』が望めると判断されたがゆえに『神殿側』で保護・教育することになっただけ。
「……制度上、アインは『神官呪師見習い』であると同時に『皇宮呪師見習い』であり、また、皇女殿下の護衛騎士団にも籍を置く『護衛騎士見習い』でもありますが……」
「それはおかしいでしょう」
進行を任されている判別神官長ラティスの言葉を、ヴィロバが途中で遮った。
「アインは神殿に所属し、神がお与えくださった奇跡の力である白魔法を学ぶ神官呪師見習いであるべきなのです。皇宮呪師の使う穢れた闇の魔法である黒魔法や、いかに女神の巫女であらせられる皇女殿下の、とはいえ、騎士団などという血生臭く野蛮な集団などに接触を許すべきではないのです」
憮然として、己の正義を熱く語るヴィロバに神官長らが唖然とする。
「……エルマーニ校長……」
ただ一人、一切表情を変えないラティスが、それまでと同じ淡々とした声音でヴィロバを呼ぶ。
「はい。何か?」
自分の正しさを信じて疑ってもいない男は、ごく当たり前のように呼ばれたことに返事をした。
「人の話は、最後まで聞くようにと教えられてはいらっしゃらないようですね?」
「……っ!? それは……!! 大変、失礼いたしました……」
何の感慨も、怒りも侮辱もなく、ただ事実を告げるラティスに、さっと顔を赤くして、ヴィロバは素直に非礼を詫びる。
周囲の神官長らの眼差しが冷たさを帯びていることにヴィロバも漸く気付いた。
「……ラティスちゃん。気にしなくていいから。続けてくれる?」
そこに、再び教皇の明るい声が仲裁に入り、ラティスは「かしこまりました。」と一礼し、ヴィロバも黙って頭を下げる。
これ以上、下手に口を開くと、今度こそ教皇猊下にも見限られるのでは? と背筋が冷えた。
(……いえ。猊下は先ほどから私を擁護して下さっている……それだけご期待下さっているのでしょう……!)
どこまでも自分に都合よく考える人間というものは、反省をしない。
まさにヴィロバの思考はそうなっていたが、幸か不幸か口には出していなかったので、これまで問題になることはなかった。
けれど……
(……こいつ。全然わかってないな……?)
じっと見つめる神官長たちの見解は、もう既に一致している。
シリウムが申請した段階では、まだ擁護の余地を考えていた神官長たちも、この度重なるヴィロバの言動に考えを改めていた。
「……アインの教育に、多く関わっていたエルマーニ校長の指導に問題がなかったかどうかを、神前裁判にて女神様に審判して頂いてはどうか? という提案がなされました」
「っ!? どなたか、私の指導に疑問でも?」
ただ職務に忠実に、なされた提案を告げたラティスに対し、ヴィロバは不快感を隠しもせずに問いかける。
「疑問ではありません。ですが、エルマーニ校長が潔白であるのなら、何ら問題はないはずです」
むしろ、己の正しさを証明できるのだ。
やましいことが何もないと、胸を張って言えるのであれば、受けることに否やはないはず。
「……それとも、何か問題でも……?」
「まさか! 私は常に、正しくアインを導いてきたと自負しております。あの子が道を踏みはずし、堕落することがないようにと心を配ってまいりました。どなたかが疑念を感じておられるのでしたら、ぜひとも私の潔白を確かめて頂きたい」
ラティスに確認されて、ヴィロバは若干大仰に……本人にはそのつもりはなく、ごく普通に話しているつもりで……むしろ望むところであると答える。
スッと、ラティスの瞳が細められた。
「……よろしいのですね……?」
「もちろんです」
再度の確認に、ヴィロバは自信を持って頷いた。
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その頃、神官呪師学校の校長室前では――
教皇猊下のご下命により校長室に居たと告げたクロードの言葉に、何人かの教師が驚きのあまり後ずさっていた。
そこに、ペルフィーが追加で爆弾を落とす。
「……どういう訳か、仮眠室にアインが寝かされていた……」
更に驚きの声が上がり、顔を青ざめさせる者が出た。
全員の視線が、校長室の中に、その隣接する仮眠室の方へと向く。
いまだ、激しい衝撃音と、恐ろしいほど濃密な魔力が荒れ狂う気配にゾッと背筋を凍らせた。
「……アインが、魔力暴走を……?」
「「違う」」
護衛官の一人が問いかけた言葉には、ペルフィーもクロードも同時に否定する。
「……先生方には感じ取れるでしょうが、アインのものに似てはいますが、別の魔力です……」
ペルフィーの説明に、呪師である教員らは皆一様に頷き、神殿護衛官らも一応は納得する。
けれど……
「……では、一体何が起こっていると……?」
アインではないという。
けれど、魔力暴走としか思えない現象は起きている。
なら、一体誰の……何の魔力で、何が起きているのか……
呟きに、ペルフィーは重い溜め息を吐く。
「……それが分かっていれば、こんなに困っていません……」
この現象が、アインを傷つけるものなのか、それとも助けるものなのか。
何とか介入して止めるべきなのか。それとも様子を見るべきなのか。
何も判断のしようがない。
一つだけ言えることとすれば……
「それでも、神殿の結界が揺らいでいないということは、猊下はすべてをご存じのはず……」
教頭の呟きに、全員が深く頷く。
教皇の役割は『結界維持』。
だから、結界維持を専門とする神官呪師の中から、もっとも魔力が強く、実力に長けた者が選出される。
他の専門の神官長らがその道の最高実力者であるのに対し、結界維持の神官長だけは教皇の次となる実力者が神官長である理由。
「……神殿の守護結界に一切の揺らぎはないんだ……猊下は静観しておられる……つまり、危険はない……はず……」
呟くように言ったペルフィーは、だが不安そうに眉を寄せ、仮眠室の様子に視線を凝らす。
そのはずなのに、あまりに激しい魔力のぶつかり合いに、不安が胸を押しつぶす。
それは、この場に集まった他の者たちも同様に感じているものだった。
第3章第2話をお読みいただきありがとうございます。
自分の思い込みだけで世界を見ていると、ここまで現実が見えなくなるのか……という、ある意味で恐ろしい(滑稽な)お話です。
冷ややかな神官長たちの態度にも気づかず、教皇猊下の前で特大の勘違いを披露した彼が選んだ道は、神に審判を委ねる「神前裁判」です。
彼が絶対の自信を持って踏み出したその先には、果たして何が待っているのか!?
また、 時を同じくして、校長室前では圧倒的な魔力の奔流に教職員たちが震え上がります。
静かなる包囲網と、荒れ狂う嵐の行方は!?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【第7弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト
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