第4話・荒れ狂うは感情か ~執念《おもい》の重《ふか》さを思い知れ~
第2章 混沌に沈む絶望の
第4話・荒れ狂うは感情か ~執念の重さを思い知れ~
インスはこれまで、怒りで我を忘れると言った経験はなかった。
けれど、今――
ソファに押さえつけたアインの首に手をかけ、必死に抵抗している幼子を気絶させた神官呪師の姿に一瞬、思考が途切れた。
直後に渦巻いて放たれた自身の魔力の気配に気づくが、押さえる必要性を感じない。
「……ヴィロバ、エルマーニ……でしたか……」
自分でも思わぬほど硬質な声音がその男の名を刻む。
これがただの幻なのか。それとも本当にあったことなのかは関係ない。
少なくとも、アインがこんな風に夢に見るほどのことを、この男はしたのだろう。
なら、それだけで万死に値する。
「……許しませんよ……」
気を失ったアインに回復魔法をかけて、ヴィロバが自分でつけた傷を癒して、痕跡を消している様を見て――ますます怒りが募る。
どうして、その可能性を、考えなかった?
(初級や中級の範囲での怪我なら、回復魔法で簡単に痕跡なんて消せる……分かり切っていたのに……!)
別段、アインを殺すつもりがあったわけではないのだから、隠蔽はそれで十分だったはず。
そのまま、ヴィロバがアインを抱き上げ、隣室へと続く扉に向かう。
「……いい加減……」
それ以上は我慢できなくて、低い、唸るような声と同時にヴィロバに手を伸ばす。
掴みかかった手は、やはりすり抜けてしまって、ヴィロバにも、アインにも触れることはできなかったが関係ない。
感情のままに荒れる魔力を、その塊を叩きつける。
二人の姿が消え去って、残ったのは閉ざされた扉だけ。
暗い闇の世界に、たった一枚の扉。
「……アイン君……」
その扉の向こう側にアインの気配を確かに感じ取って、インスはその名を祈りを込めて呼ぶ。
どうか、今度こそ……
「……君は、私のものです……」
この闇の世界に、一筋の光を――
「……私は、君のものですよ……」
忘れないで……そのことを……
闇を払いのけるように、全力で魔力を解き放つ。
固く閉ざされた扉をこじ開けるようにして、隙間から無理やり中に入り込む。
「…………っ!?」
どこかの室内で、ベッドに寝かされたアインを、その場に縫い留めるように、全身に絡む魔力の鎖。
それが、ギリギリと締め上げるように蠢いていて……
「っ。アイン君!!」
悲鳴のような声が迸り、駆け寄ったインスが手を伸ばす。
けれど……
「……っ!?」
バチっと凄まじい衝撃と共に弾かれて、背中側から壁に叩きつけられてしまう。
それでも、これまでになかったアインの呼気を感じた。
(……今度こそ、実体がある……!)
それが分かって、すぐに立ち上がる。
「……邪魔は……」
させません――!!
部屋中に己の魔力を満たし、自分自身を包み込む。
「……アイン君……っ」
火花が散って、アインの全身に絡む魔力が抵抗を示す。
魔力と魔力がぶつかり合って、跳ねる魔力が傷を刻む。
それを無視して、インスはアインに手を伸ばす。
ただ、アインを抱きしめるためだけに。
第2章第4話をお読みいただきありがとうございます。
闇の底でインスが目撃したのは、決して許すことのできない「悪夢」の正体でした。
アインを痛めつけ、都合よく痕跡を隠蔽するような身勝手な悪意に対し、インスの冷ややかな、しかし明確な殺意が爆発します。
「許しませんよ」 その一言と共にすべてを力技でこじ開け、真っ向から障害に立ち向かうインス。
彼が本気で怒り、我を忘れて魔力を解き放つ時の圧倒的な恐ろしさと頼もしさ!
果たして、 激しくぶつかり合う魔力の嵐の中で、インスはアインを救い出せるのか!?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【第7弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト
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