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第八 引き分け



 下の子は、負けそうになると、自分の王を動けないところへ連れて行こうとする。王手を受けていないのに動かせる駒が一枚もない形を作れば、その局は引き分けになって、負けにならないからだ。初めてそれをやったとき、あの子は私の顔を見ずに盤だけを見ていて、私は何も言わずに駒を箱に戻したのだが、それでいい。引き分けは昔からの申し合わせのうちで、申し合わせのうちにあるものを使って負けを逃れるのは、盤の上では恥でも何でもない。


 引き分けになる形は、三つある。一つ目は、いま言った手詰まりで、手番が来たのに王手は受けておらず、指せる手が一つもないという形だ。王だけが動けなくても、ほかに動かせる駒があるなら手詰まりではなく、その駒を動かして続ける。手詰まりになるのは、王のほかに駒が残っていないか、残っている駒がすべて正面を塞がれるなどして動けないときで、そういうときに王の周りの八マスすべてに相手の利きが届いていれば、その局は終わり、どちらの勝ちでもない。


 盤で見てみよう。神側の王が十十にいて、神側にはほかに駒がなく、万夜側の狂叡将が八九にいる。狂叡将の利きは、縦に九十へ、横に十九へ、斜めに九九へ届いていて、王はどこへも動けない。ところが、八九から十十へは縦でも横でも斜めでもないから、王は王手を受けていない。王手を受けていないのに指せる手がない、これが手詰まりで、万夜側がどれほど駒を残していても、引き分けだ。狂叡将を八九に置いた側は、勝ちを自分の手で引き分けにしたのであって、集いではこれを、お客を閉じ込めすぎた、と言う。


 二つ目は、同じ局面が三度現れることだ。同じ局面というのは、盤の上の駒の種類と居場所がすべて同じで、一般兵と英雄兵は別の種類として数え、次に動く陣営が同じで、どちらの陣営も王護を使ったかどうかが同じ、この三つが揃った局面のことだ。三度は続いていなくてもよく、間に別の形を挟んでも、三度目が現れたときに引き分けになる。並べたばかりの盤も一度と数えるが、そこへ戻ることはまずないから、気にしなくていい。実際によくあるのは、王手を繰り返して逃げ、追い、また逃げる形で、互いに同じ手を繰り返して三度目に至る。


 三度目をどう数えるかについて、申し合わせは数のことしか言っていない。集いでは、どちらかが気づいて言い出し、二人で手を戻して数え直すのが習いで、手控えをつけている人がいれば早い。私は若いころから自分の対局を手控えに書き留めていて、三度目を言い出すのはたいてい私のほうだったのだが、年をとってからは、言い出す前に相手が頷くことが増えた。繰り返しに入ったと互いに分かっているとき、三度目を待つかどうかは、その場の二人が決めることだ。


 三つ目は、駒が足りないことだ。王だけと王だけ、王だけと王と門守神か破境将の一枚、王だけと王と聖母神か堕命将の一枚、この三つの形のどれかになったときは、その場で引き分けになる。門守神一枚でも聖母神一枚でも、お客をどう追っても詰みの形が作れないからで、これは私が確かめたことではなくて、昔からの申し合わせとして集いに伝わっている。それ以外の駒が一枚でも盤に残っていれば局は続き、王と堅磐神一枚、王と叡智神一枚は、お客を端へ追えば詰む。


 ここで、英雄兵について言っておきたいことがある。王と英雄兵一枚に対して王だけ、という形は、駒が足りない形には入らず、局は続く。英雄兵は八つの方向へ二マスまで動けるから、王と二枚で、お客を隅へ追い詰められる。盤で見ると、十十にお客がいて、神側の王が八九、神側の英雄兵が十八にいれば、英雄兵は十九を越えて十十まで縦に利いていて、王手になっている。お客の逃げ場は、九十と九九が王の利きの中で、十九が英雄兵の利きの中だから、どこにもない。十八の英雄兵はお客から二マス離れているから取ることもできず、これで詰みだ。名を得た兵は、神と同じ働きを王のためにするのであって、兵のまま端に届かずに終わった兵とは、ここで差がつく。


 手数について言っておく。何手指しても、どれほど長く駒が取られずに進まなくても、それだけで引き分けになることはない。集いにはそういう申し合わせはなく、手詰まりも三度目も駒不足も来ないなら、局はどこまでも続く。二人が顔を見合わせて、もういいだろうと駒を片付けることは集いでもあるが、それを決めるのは申し合わせでなしに、たいていは夕餉の時刻だ。片付けた局は勝ちでも負けでも引き分けでもなく、ただ終わらなかった局として、手控えに残る。


 二十二の年、集いで、私は王と叡智神を残し、相手は王だけになった。詰むまであと三手というところで、お客は十十にいて、私は叡智神を八九に置いた。王手にはなっておらず、お客の逃げ場をすべて叡智神一枚で塞ぐ形になっていて、置いた瞬間に自分で気づいた。相手は何も言わずに手を膝に置き、私は、片付けましょう、と言われるまで盤を見ていた。勝ちを引き分けにしたその局は、いまも手控えの中にあって、私はときどき開いては、八九に置いた叡智神を眺める。お客を閉じ込めるのは詰みではないということを、私はその一局で、十手分の勝ちと引き換えに覚えた。


 さて、今日の宿題だ。盤に駒を三枚置いてほしい。十十に万夜側の王を、八九に神側の王を、十八に神側の英雄兵をだ。手番は万夜側として、これが詰みであることを、九十と十九と九九を指で押さえて確かめてほしい。確かめたら、英雄兵を十八から九八へ移してみるといい。王手は消え、お客の逃げ場も消えて、同じ三枚のまま、勝ちが引き分けに変わる。


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