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第九 序盤の型



 千年盤の序盤は短い。最初の駒が取られるのはたいてい七手目で、十手目から三十手目までのあいだに駒の半分がなくなる。だから序盤というのは、初めの十手ほどで、何を出し、何を出さないかを決める時間のことだ。この十手で決めることは三つしかない。跳ぶ駒をどれだけ早く壁の向こうへ出すのか、兵をどの列で進めるのか、王をどこに置いておくのか、この三つだ。これまでの章で申し合わせを一つずつ教えてきたが、ここから先は申し合わせの話を離れて、集いで長く指されてきた型の話になる。型には名があり、集いの者はたいていその名で呼ぶ。


 一つ目は門開きで、万夜側なら破境将を四二から五四へ、滅法将を八二から七四へ、不転将を十二から九四へ跳ばせる三手、神側なら門守神を四九から五七へ、律天神を八九から七七へ、流転神を十九から九七へ跳ばせる三手だ。並べたばかりの盤で兵の壁を越えられるのは跳ぶ駒だけで、三枚の跳ぶ駒を三手で壁の向こうへ出してしまうのがこの型の眼目になる。六手目の盤を眺めると、四の段と七の段に六枚の跳ぶ駒が向かい合って立っていて、兵はまだ一枚も動いていない。集いでいちばん多く指されている型で、師が私に最初に教えた型でもあり、古い棋譜を繰ると、二百年前の御前対局もこの三手で始まっている。初めての人が覚える型は、まずこれでよい。


 門開きには、七の列の取り合いがつきものだ。万夜側の滅法将が七四に、神側の律天神が七七に出ると、七五と七六が空いているから、二枚は七の列で向かい合い、手番の側がもう一方を取れる。滅法将が七四から七七の律天神を取り、兵が八八から七七の滅法将を取り返して、互いに一枚ずつ減らして序盤が終わる。これは集いの対局の四つに一つで起きる取り合いで、同じ働きの駒どうしだから損も得もなく、怖がらなくてよい。ただし取り合いを避けたいなら、律天神は七七ではなく七九へ横に出し、滅法将の筋を外しておく。七九からでも跳び先の六七と八七は変わらず、七の列に並ばずに済むからだ。


 二つ目は端走りで、一の列の兵を一三から一五へ進めるところから始まる。隣の二三が支えになって兵は二マス進み、次に隣の兵を二三から二五へ追いつかせ、二五を支えに一五から一七へと、また二マス進む。三手で兵は一七に着き、そこで向かいの一八の兵と鼻を突き合わせる。端の兵が名を得るのは端ではない。一七の兵は二八の兵を斜めに取って二の列へ移り、二の列の九の段は初めから空いているから、二九へ、二十へと進んで名を得る。二と七と九の列の二の段と九の段が初めから空いていることは、並べ方を教えた日に言った。その空きは、兵が名を得るための門でもある。


 端走りの強さは、走る兵の後ろに崩壊将が立っていることにある。一の列の兵が進むほど一の列は空いて、一二の崩壊将の利きが兵の背中まで届くようになり、端の兵を取りに来た駒は、取った次の手で崩壊将に取られる。相手の跳ぶ駒の利きが盤の端までは届きにくいことも、端を走る兵の味方になる。先に英雄兵を作った側は十局のうち七局を勝ち、負けるのは十局に一局もない。これは集いの手控えが揃って言っていることで、端走りは、その英雄兵を最も早く作る型だ。弱みは、兵に三手を使うあいだ跳ぶ駒が一枚も出ないことで、兵が一七に着いたとき、相手の跳ぶ駒は三枚とも壁の向こうに出ている。


 三つ目は中取りで、兵を五三から五五へ、六三から六五へと、王の隣と前の兵を二枚出して盤の真ん中を取る古い型だ。師から譲られた古い棋譜にはこの型が多く、百年前の集いでは誰もがこれで始めたらしい。いまこの型を指す人は少なく、それは神側が兵を五八から五六へ出して受け、六五へ来た兵を五六の兵で必ず取ってくるからだ。取り返すには、四三の兵を四五へ進めてから堕命将を三二から六五へ斜めに走らせるか、滅法将を八二から六三へ跳ばせてから六五へ上げるかで、どちらにしても二手かかる。その二手のあいだに神側は跳ぶ駒を二枚出し、取り返した駒は真ん中で的になるのであって、兵を一枚と二手を渡して真ん中を取る、というのが中取りの実際だ。初めての人に、私はこれを勧めない。


 中取りについては、一つ付け加えておく。集いに、並べながら駒の由来を語る兵法家気取りの対局者がいたことは前に書いたが、あの人はこの型を好み、真ん中を取る者が盤を取るのだと、一手ごとに向かいに聞かせた。真ん中を取ったあの人の兵は、たいてい五六の兵に取られて盤を去り、盤を取ったのは、黙って跳ぶ駒を出していた向かいのほうだった。型は手で確かめるもので、口で語るものではない。


 神側の受けについても言っておく。神側は後手だから、万夜側の初手を見てから自分の型を決められるのだが、どの型に対しても、門守神を五七へ、律天神を七七へ、流転神を九七へ跳ばせる三手で受けて困ることはない。万夜側が門開きなら写せばよく、端走りなら三枚の跳ぶ駒が兵より先に壁の向こうへ出るから、走ってくる兵を跳ぶ駒で迎えられる。中取りなら五八の兵を五六へ一枚だけ出し、六五へ来た兵を取ってから、残りの手で跳ぶ駒を出す。先に動く側の得は初めの一手の分だけで、十手目には消えている。百局指せば万夜側も神側もほぼ同じだけ勝つのであって、万夜側に座るのを嫌がる人は、このことを知っておくといい。


 序盤の目安を数で言っておく。十手目までに跳ぶ駒を三枚出し、進める兵は二列までにして、王は動かさず、王護も三十手目ごろまで取っておく。最初の駒取りが七手目ごろに来るから、七手目までに出した駒の数が、十手目からの取り合いで、そのままこちらの取り分になる。兵は一局が終わるころには片側に三枚も残らないから、序盤で惜しんでも仕方がなく、どの兵を走らせてどの兵を壁に残すかを決めるほうが先だ。


 二十五の年の集いで、私は端走りに溺れた。一の列の兵を六手で二十に届かせ、裏返して英雄兵にしたのだが、その手が指し終わるまで、私は自分の二の段を一度も見ていなかった。相手は門開きの三手を指し終えたあと、律天神と流転神を七の段から四の段へ下ろしていた。私が兵を裏返した次の手で、流転神が六四から七二へ跳んで王手をかけ、逃げ場はどれも律天神と門守神の利きの中にあって、六二の王は動けなかった。英雄兵が生まれた手の次の手で詰まされた局は、手控えのその頁だけ、墨が薄い。あの日から私は、端走りを指すときは三手目に不転将を十二から九四へ跳ばせる手を挟むことにしている。兵が一手遅れるが、跳ぶ駒が一枚、王のそばに出る。


 さて、今日の宿題だ。並べた盤で、万夜側の門開きの三手と神側の門開きの三手を交互に指し、六手目の盤を眺めて、壁の向こうに出た六枚の駒がどこへ跳べるかを一枚ずつ指で押さえてほしい。それが終わったら駒を並べ直し、今度は神側の手を指さずに、一三から一五へ、二三から二五へ、一五から一七へ、一七から二八の兵を取って、二九へ、二十へと、六手で兵を名のある駒に変えてみるといい。六手のうち二マス進んだ手が二つあることと、二の列の九の段が空いていたことを、手で覚えておいてほしい。


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