第七 王手と詰み
王手というのは、相手の駒の利きが君の王のいるマスに届いている形のことだ。兵の利きを教えたときに言ったとおり、利きとは駒が次の手で取れるマスのことで、その中に王が立っていれば、それが王手になる。王は取られない駒だと前に言ったが、それは取られる前に必ず何かが起きるからであって、王手を受けた側は、次の手で必ずそれを解かなければならない。王手を放っておく手は指せず、自分で自分の王を利きの中へ入れる手も指せないのであって、指せない手は手として成り立たず、集いでは駒を戻して別の手を指す。
王の安全をどう見るかについて、昔からの申し合わせを三つ書いておく。一つ、王の安全は、動かし終えた盤で見る。駒を動かし、取るなら取り、兵が端に着けば英雄兵にし、王護なら入れ替えを済ませて、そのあとの盤で自分の王が利きの中にいなければよい。二つ、相手の駒が自分の王を守るために動けない形であっても、その駒の利きは利きとして数えるのであって、動けない駒でも王は取れると思っておけば間違いがない。三つ、王が相手の駒を取るときは、その駒を盤から除いたあとの盤で、着いたマスに別の利きが届いていないことを確かめる。取った駒の後ろに同じ筋の駒が控えていれば、取った途端にその利きが王に届くのであって、これは初めての人がいちばんよく引っかかるところだ。
もう一つ、王どうしについての定めがある。両方の王が縦横斜めに隣り合う形は、どちらの手でも作れない。王の利きは周りの八マスだから、隣に立てば互いに取れる形になり、それはどちらの王にとっても王手を自分から受けに行くことになるからだ。お客を追い詰めるときに自分の王を近づけたくなる場面は必ず来るが、隣までは行けない、ということを覚えておいてほしい。それから、王護は駒の入れ替えであって取る動きではないから、王護そのものが王手になることはなく、入れ替えたあとの駒の利きが王手になるだけだ。
王手を受けたら、解き方は三つしかない。王を利きの外へ逃がすか、王手をかけている駒を取るか、王手をかけている駒と王のあいだに自分の駒を入れるかだ。三つ目は、堅磐神や聖母神や叡智神のように直線で王手をかけてくる駒にしか効かず、門守神の跳躍による王手は間というものがないから入れられず、王のすぐ隣にいる駒からの王手も同じで、逃げるか取るかしかない。盤で見てみよう。六九に神側の王がいて、万夜側の崩壊将が六四から六の列を走って王手をかけているなら、六五から六八のどこかに自分の駒を入れれば解けるが、万夜側の破境将が五七から跳んで王手をかけているなら、入れる場所はどこにもない。
王手は、声に出しても出さなくてもよい。集いでは言う人も言わない人もいて、どちらも咎められない。自分の王に利きが届いているかどうかは自分で見るものであって、相手が教えてくれるものではないからだ。師は一度も王手と言わない人で、私はそれで何度も王を取られそうになり、取られそうになるたびに盤を見る癖がついたのだが、あの人が言わなかったのは、たぶん、私に自分で見させるためだったのだろうと、いまになって思う。
十四の年、父の館で、私は王手をかけてきた相手の兵を、王で取った。斜め前から兵に王手をかけられ、取れるのだから取ればいいと思って取ったのだが、その兵の後ろの斜めの筋には、相手の堕命将が控えていた。兵を除いた盤では、堕命将の利きがまっすぐ私の王に届いていて、私の手は成り立たなかった。相手は従者で、何も言わずに兵と王を元の場所へ戻し、私は別の手を探して、見つからなくて、王を一つ逃がした。取った駒の後ろを見ないで取る癖は、そのあとも長く残って、大人になってからも何度か私の足をすくった。
詰みの話に移ろう。王手を受けていて、それを解く手が一つもなければ、その局はそこで終わり、王手をかけた側の勝ちになる。これを詰みと呼ぶ。王を取ることはしないのであって、王手を解く手がないと分かった時点で終わりになり、次の手で取ってみせる必要はないし、取ってはいけない。盤の上の王は、終わりの日に封じられた弟神と同じで、動けなくなるところまでは追われるが、盤から取り上げられはしない。
詰みの形を一つ、盤で作ってみよう。十十の隅に神側の王がいて、九九に万夜側の狂叡将が、七八に万夜側の破境将がいる。狂叡将は王の隣にいて斜めの筋で王手をかけていて、王が逃げられるのは九十と十九だが、九十は狂叡将の縦の利きの中で、十九は狂叡将の横の利きの中だ。狂叡将は王のすぐ隣にいるから間に駒は入れられず、残るのは狂叡将を取ることだが、破境将が七八から九九へ跳べる位置にいて、狂叡将を守っているから、王で取れば取った途端に破境将の利きが王に届く。逃げられず、取れず、入れられず、これが詰みだ。ほかに神側の駒が何枚残っていても、その駒が九九の狂叡将を取れないなら、局はここで終わる。
この形は、集いでは隅の詰みと呼ばれていて、初めての人が初めて作る詰みはたいていこれだ。お客を隅へ追い、隣に叡智神か狂叡将を置き、その駒を別の駒で守る。守る駒は破境将でなくてもよく、崩壊将でも堕命将でも、利きが九九に届いていればよい。覚えておくべきは、王手をかける駒ではなく、それを守る駒のほうで、守る駒がなければ、お客は王手の駒を取って逃げてしまう。私の見た限りでは、初めての人の詰みは十のうち九まで、隅か端で、守られた駒が隣に立つ形だ。
最後に、投了について言っておく。詰みを待たずに、負けを自分で認めて局を終えることを投了といい、投了した側の負けになるのであって、口で言えばよく、集いでは自分の王を手で横に倒す人もいる。詰みが避けられないと分かったとき、投了するか、詰まされるまで指すかは、本人が決めることで、どちらが正しいということはない。私は若いころ、投了を恥だと思って、詰まされるまで指し続けていたが、いまは詰みの形が見えた時点で王を倒す。見えたものを見えないふりをして指し続けるのは、相手の時間を使うことだと思うようになったからだ。
さて、今日の宿題だ。盤に駒を三枚だけ置いてほしい。十十に神側の王を、九九に万夜側の狂叡将を、七八に万夜側の破境将をだ。手番は神側として、王が指せる手が一つもないことを、九十と十九と九九の三つを順に指で押さえて確かめてほしい。確かめたら、破境将を盤から外してみるといい。それだけで、王は狂叡将を取れるようになり、詰みは詰みでなくなる。




