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第六 王護



 王護は、盤の上でただ一つ、二枚の駒が一度に動く手だ。自分の王と、堅磐神か門守神のどちらか一枚とを、互いの居場所ごと入れ替える。万夜側なら反逆神と、崩壊将か破境将のどちらか一枚だ。王は駒の居場所へ移り、駒は王の居場所へ移って、ほかの駒は一枚も動かず、敵の駒を取ることもない。これで一手を使い、使えるのは、一局のうちに一度だけだ。堅磐神と一度、門守神と一度、というふうに二度使えるのではなく、どちらか一枚と一度きりで、陣営のうちで一度きりと覚えてほしい。


 入れ替えられる形は、駒ごとに違う。堅磐神との王護は、王と堅磐神が同じ列か同じ段にいて、二枚のあいだに何もないときに使える。門守神との王護は、王が門守神の跳び先にいるとき、言い換えれば、門守神が一手で王の居場所へ跳べる位置にいるときに使える。盤で見てみよう。並べたばかりの盤では、六九の王と一九の堅磐神のあいだに聖母神と門守神と叡智神がいるから、堅磐神との王護はまだできない。門守神は四九にいて、六九は跳び先ではないから、こちらもまだできない。門守神が四九から五七へ跳んだあとなら、五七から六九は跳び先だから、次の神側の手で王護ができて、王は五七へ、門守神は六九へ移る。


 使うための条件は三つある。まだ王護を使っていないこと、いま王手を受けていないこと、入れ替えたあとの盤で自分の王が相手の利きに入っていないことだ。王手を受けている間は使えないのであって、王手から逃げるために王護を使う、という手はない。王や堅磐神が前に動いたことがあっても構わず、一度動いて戻ってきた堅磐神とでも王護はできる。王は入れ替えで移るだけで途中のマスを通らないから、王と堅磐神のあいだのマスに相手の利きがあっても、着いた先の王が安全なら使える。入れ替えたあとの駒が相手の王に王手をかけることは、あってよい。


 万夜側でも見ておこう。破境将が四二から五四へ跳ぶと、五四から六二は跳び先になるから、次の万夜側の手で反逆神と破境将を入れ替えて、王を五四へ、破境将を六二へ移せる。ただし、そのとき神側の流転神が八七にいて、七六と六五が空いていれば、流転神の斜めの利きは五四まで届いているのであって、入れ替えたあとの王が利きの中に立つことになるから、この王護は成り立たず、手として指せない。入れ替える前に、王が着く先に相手の駒が届いていないかを見るのは、王護を使う者の仕事であって、相手が教えてくれることではない。集いでは、着いた先が利きの中だったと気づいた者は、黙って駒を戻して別の手を指すのが昔からの習いで、誰も咎めないが、誰も見逃しもしない。


 相手にならない駒も言っておく。叡智神と聖母神はならない。律天神と流転神は、堅磐神や門守神と同じ動きを半分ずつ持っているが、王護の相手にはならない。英雄兵もならない。万夜側では、崩壊将と破境将のほかは、どれも相手にならない。相手になる駒が取られてしまえば、その駒との王護はもうできず、二枚とも取られれば、王護は使わないまま終わる。


 堅磐神と門守神がこの役を負っているわけについて、師から聞いた話を書いておく。第十の巻の終わりで、兄神が弟神を大扉の内に封じたとき、扉に錠をかけたのは堅磐神で、鍵を預かったのは門守神だった。王を守る手を持つのが錠の神と鍵の神だというのは、だからなのだと師は言い、私もそう思っている。万夜側で同じ役を持つのが、長城を一夜で崩した崩壊将と、どこへも通じない門を開いた破境将だということについては、師は何も言わなかったし、私にも分からない。盤は神書の筋書きをそのまま写すわけではなく、向かい合う駒が同じ動きをする、という申し合わせのほうが先に立つのだろう。


 王護は王を守る定めのように見えるが、私は、これは王のためではなく、君のためにある定めだと思っている。これがなければ、王は一マスずつしか動けず、兵の後ろから出るにも、隅へ寄るにも、何手もかかる。王護があるから、君は一手で王の居場所を決められるのであって、堅磐神を先にどこへ置くかで、王がどこへ移るかも決まる。堅磐神を二九に置いてから王護をすれば王は二九へ、堅磐神を九九に置いてからなら王は九九へ行く。門守神との王護は、王が跳び先へ移るから、兵の壁の向こうへ王が出てしまうこともあって、使う前に、着いた先の周りを一度見ておいたほうがいい。


 十五の年の冬、父の館で、私は一局のうちに王護を二度使おうとした。初めに門守神と入れ替えて王を七七へ移し、しばらくたってから、堅磐神と王が同じ段に並んだので、もう一度入れ替えようと手を伸ばした。相手は館の従者で、私より盤に詳しく、黙って首を横に振った。一局に一度、というのは駒ごとではなく陣営で一度なのだと、私はそのとき初めて知ったのであって、二度目の王護を当てにして組んでいた手は、すべて組み直しになった。その局は落とし、以来、王護を使った局では、使ったあとで二枚の駒を見るたびに、もう一度はないのだと自分に言う。


 使わずに終わった局の話もしておく。三十を過ぎたころ、集いで、年長の人と長い一局を指した。互いに堅磐神も門守神も残っていて、どちらも王護を使える形が何度も来たのに、どちらも使わず、百手を越えたところで同じ形が三度現れて引き分けになった。終わってから、その人は駒を箱に戻しながら、今日は錠も鍵も要らなかったな、と言った。使えるのに使わない、というのは、使わなければならないと思い込んでいる若い人には分かりにくいことだが、王護は一局に一度しか使えない代わりに、使わなくても何も失わない。


 さて、今日の宿題だ。並べた盤で、門守神を四九から五七へ跳ばせ、次の神側の手で王護をして、王を五七へ、門守神を六九へ移してみてほしい。それから駒を並べ直し、今度は聖母神と門守神と叡智神を一枚ずつ盤の外へ出して、一九の堅磐神と六九の王のあいだを空け、堅磐神との王護もしてみればいい。相手の手番は数えなくていいから、二つの入れ替えを、手で一度ずつ覚えておいてほしい。


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