第6話「図書委員」
六月中旬。
昼休み。
教室の後ろに一枚の紙が貼られた。
『図書委員 欠員募集』
委員の一人が転校し、一人だけ募集するらしい。
「誰かやる?」
担任が聞く。
教室は静まり返る。
「放課後残るんでしょ?」
「めんどくさいなぁ。」
誰も手を挙げない。
その時だった。
「じゃあ、やります。」
湊だった。
「助かるよ、朝比奈。」
先生がほっとしたように笑う。
教室も「ああ、朝比奈なら」と納得した空気になる。
放課後。
図書室。
司書の先生が説明を始める。
「実はもう一人いるの。」
本棚の向こうから現れたのは、
白石陽菜だった。
「あ。」
「……あ。」
二人同時に声を漏らす。
「よろしく。」
湊が笑う。
「よろしく。」
陽菜も笑い返した。
返却された本を書棚へ戻す作業。
静かな図書室には、本を戻す音だけが響く。
「朝比奈くんって、本好きなんだ。」
「うん。」
「どんな本読むの?」
「何でも読むけど……。」
少し考えてから答える。
「読んだあと、ちょっと元気になれる話が好きかな。」
陽菜は少し意外そうな顔をする。
「そうなんだ。」
「悲しい話は?」
「嫌いじゃないけど。」
湊は一冊の本を棚へ戻しながら笑う。
「読み終わったあとに、誰かに優しくしたくなる話の方が好き。」
陽菜は思わず手を止める。
(だからなんだ。)
(この人が優しい理由。)
作業が終わる。
司書の先生が言う。
「二人ともありがとう。」
「これからよろしくね。」
帰り道。
陽菜は図書室で聞いた言葉を思い返していた。
「誰かに優しくしたくなる話。」
(そんなこと考えて本を読む人、初めて会った。)
自然と口元が緩む。
翌日。
昼休み。
陽菜が図書室へ向かうと、
湊は本棚の前で立ち止まっていた。
「どうしたの?」
「一年生が探してた本が見つからなくて。」
「これかな?」
陽菜が一冊抜き出す。
「あ、それだ。」
「ありがとう。」
「役に立ててよかった。」
二人は顔を見合わせて笑う。
その様子を、司書の先生が静かに見守っていた。




