第5話「ありがとうの連鎖」
金曜日。
五時間目。
授業開始まであと五分。
教室ではみんなが思い思いに過ごしていた。
廊下を歩いていた湊は、一枚のプリントが落ちていることに気づく。
何気なく拾い上げる。
見ると、
「来週 校外学習 最終確認」
と書かれていた。
(誰か落としたのかな。)
教室を見回す。
誰も探している様子はない。
職員室へ届けよう。
そう思って歩き出す。
職員室。
「失礼します。」
「朝比奈、どうした?」
「廊下に落ちてました。」
担任の先生はプリントを見るなり、
「あっ!」
と声を上げた。
「これ、なくしたと思って探してたんだ!」
「来週配る予定だった資料なんだよ。」
「助かった……。」
先生は胸をなで下ろす。
湊は少し笑う。
「よかったです。」
それだけ言って教室へ戻る。
翌週。
ホームルーム。
「今日は校外学習の説明をします。」
資料が全員に配られる。
説明は予定通り終わった。
クラスのみんなも安心した表情だ。
昼休み。
先生が職員室で別の先生に話している。
「朝比奈が拾ってくれて助かったよ。」
「なくしてたの?」
「いやあ、焦った焦った。」
その会話を、たまたま書類を取りに来た陽菜が耳にする。
(あれ……。)
(あのプリントだったんだ。)
放課後。
クラスでは校外学習の話題で盛り上がっていた。
「班決め楽しみ!」
「お弁当どうする?」
みんな笑っている。
陽菜はその様子を眺めながら思う。
(もし、あのプリントが見つかっていなかったら。)
(先生はもっと大変だったかもしれない。)
(説明も遅れてたかもしれない。)
(みんなが今日こんなに楽しそうに話せているのも……。)
視線の先では、湊が友達と他愛ない話をして笑っていた。
本人は何も知らない。
帰り道。
陽菜はふと空を見上げる。
(あの人は、一人を助けているつもりなんだろうな。)
(でも、本当は。)
(その優しさは、もっと遠くまで届いてる。)
夕焼けに染まる校舎を振り返りながら、小さくつぶやく。
「……今日も、いい日だった。」




