第4話「覚えていてくれた」
六月。
昼休み。
教室では、それぞれがお弁当を広げていた。
「朝比奈。」
クラスメイトの山本が声をかける。
「これ、この前貸してくれた小説。」
文庫本を差し出す。
「ありがとう。」
「面白かったよ。」
湊は本を受け取りながら笑う。
「続きもあるけど読む?」
「え?」
「主人公の妹が出てくるところから、もっと面白くなるよ。」
「借りる!」
そのやり取りを見ていた陽菜は、少し驚く。
(本の続きを覚えてるんだ。)
放課後。
図書室。
陽菜は本を返しに来ていた。
すると、本棚の前で湊と司書の先生が話している。
「朝比奈くん、この前おすすめしてくれた本、読んだよ。」
「どうでした?」
「最後、泣いちゃった。」
「ですよね。」
先生は笑う。
「次もおすすめある?」
湊は少し考えてから、一冊の本を抜き取る。
「前に先生、『家でゆっくり読めるのが好き』って言ってたので。」
「覚えてたの?」
「なんとなく。」
先生は嬉しそうに本を受け取る。
その様子を、本棚の陰から陽菜が見ていた。
("なんとなく"じゃないよ。)
(ちゃんと覚えてるんだ。)
帰り道。
校門を出たところで、陽菜は偶然湊と並ぶ。
「朝比奈くん。」
「ん?」
「人のこと、よく覚えてるよね。」
湊は少し首をかしげる。
「そうかな。」
「うん。」
少し考えてから、湊は笑う。
「好きなものを覚えてると、次に話すとき楽しいじゃん。」
「え?」
「『この前好きって言ってたやつ、どうだった?』って聞けるし。」
「それだけで結構盛り上がるから。」
まるで当たり前のことのように言う。
陽菜は少しだけ立ち止まる。
(そういうことだったんだ。)
その夜。
陽菜は自分の机で本を開く。
ふと、今日のことを思い出す。
(私は……。)
(クラスメイトの好きなもの、ちゃんと覚えてるかな。)
ページをめくる手が止まる。
そして、小さく笑った。
「少し、見習ってみようかな。」




