表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日、何かいいことあった?  作者: なごやかたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/31

最終話「今日を少し、いい日に。」

文化祭が終わった。

校舎には、祭りの賑わいが少しだけ残っている。

教室では片付けをする生徒たちの笑い声。

廊下には、まだ色紙や飾りの名残があった。

夕方。

図書室だけは、いつも通り静かだった。



「終わったね。」


陽菜が本を棚へ戻しながら笑う。


「うん。」


湊も最後の一冊を並べる。

カタン、と本が棚に収まる。

その音で、今日の仕事も終わった。

司書の先生が微笑む。


「二人とも、お疲れさま。」

「ありがとうございました。」


二人は頭を下げる。

図書室の照明が一つずつ消えていく。



廊下へ出る。

窓の外は、茜色に染まっていた。

秋の風が、ゆっくり吹き抜ける。

いつもの帰り道。

何度も歩いた道。

今日は少しだけ足取りがゆっくりだった。



駅へ向かう途中。

並木道で、湊が立ち止まる。


「白石さん。」


陽菜も立ち止まる。


「ん?」


少しだけ緊張した空気。

でも、不思議と怖くはなかった。



湊は小さく息を吸う。


「白石さん。」

「今日、何かいいことあった?」


陽菜は少し笑う。


「うん。」

「文化祭が終わったこと。」

「みんなで頑張れたこと。」

「図書室で本を片付けたこと。」


少し考えてから、

優しく続ける。


「あと。」

「朝比奈くんと、一緒に帰れること。」



湊は静かに笑った。


「俺も。」


その一言だけで、陽菜は少し照れたように笑う。

秋風が二人の間を通り過ぎる。



少しだけ沈黙が続く。

湊は空を見上げる。

夕焼けは、初めて一緒に帰った日と同じ色だった。


「白石さん。」

「うん。」

「俺ね。」

「今まで、誰かの今日が少しでもいい日になったら嬉しいって思ってた。」


陽菜は静かに頷く。


「でも。」

「最近気づいた。」

「白石さんが笑ってると。」

「俺も嬉しい。」

「白石さんが元気だと安心する。」

「会えない日は、少し寂しい。」


一つ一つ、確かめるように言葉を紡ぐ。



「だから。」


少し照れくさそうに笑う。


「これからも。」

「白石さんの今日を。」

「少しだけ、いい日にしたい。」


その言葉には、飾りがなかった。

かっこいい台詞でもなかった。

でも、積み重ねてきた想いが全部詰まっていた。



陽菜は、少しだけ目を潤ませる。

泣いてはいない。

でも、とても嬉しそうだった。


「朝比奈くん。」

「私ね。」

「ずっと前から。」

「朝比奈くんが笑ってると。」

「今日がいい日だったって思えるの。」


少し笑う。


「だから。」

「私も。」

「朝比奈くんの今日を。」

「少しだけ、いい日にしたい。」



二人は顔を見合わせる。

どちらからともなく笑った。

その笑顔は、今までで一番自然だった。



「よろしくお願いします。」


湊が少し照れながら言う。


「こちらこそ。」


陽菜も笑う。

その返事だけで十分だった。

湊がそっと手を差し出す。

陽菜も自然にその手を重ねる。

ぎゅっと握るわけでもない。

指を絡めるわけでもない。

ただ、並んで歩けるくらいの、やさしいつなぎ方だった。



駅までの道。

二人は手をつないだまま歩く。

特別な話はしない。

今日あった出来事。

文化祭で笑ったこと。

司書の先生が差し入れてくれたお菓子のこと。

そんな、いつも通りの話。

でも、その「いつも」が少しだけ変わった。



改札が見えてくる。

陽菜が笑う。


「ねえ。」

「ん?」

「今日、何かいいことあった?」


湊は少しも迷わなかった。


「いっぱい。」


陽菜も笑う。


「私も。」


夕焼けの空の下。

二人の笑い声が、秋の風に溶けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ