第27話「少しだけ違う」
秋の風が吹き始めた。
昼休み。
校庭では運動部が元気に走り回っている。
図書室はいつも通り静かだった。
湊は返却された本を棚へ戻している。
陽菜は貸し出しカードを整理していた。
「終わった?」
「うん。」
「こっちも。」
自然と目が合う。
自然と笑う。
それだけで、なんとなく嬉しい。
午後の授業。
先生がプリントを配る。
「後ろに回してください。」
湊はプリントを受け取り、後ろへ回す。
その途中、陽菜と目が合う。
「ありがとう。」
小さく笑って受け取る。
たったそれだけ。
なのに、心が少し温かくなる。
(……ん?)
自分でも不思議だった。
放課後。
健太と帰り道が一緒になる。
「朝比奈。」
「ん?」
「この前さ。」
「白石さん休んだ日、なんか元気なかったよな。」
「そうだった?」
「うん。」
「今日もさ。」
「白石さんと話した後、めっちゃ機嫌いいし。」
湊は笑う。
「気のせいだよ。」
「かなあ。」
健太は空を見上げる。
「まあ、そのうち分かるか。」
駅まで歩く。
一人になる。
健太の言葉が、また頭に浮かぶ。
(そんなに分かりやすいのかな。)
少し考えてみる。
今日。
一番楽しかったこと。
図書室。
陽菜と笑ったこと。
「ありがとう。」
と言われたこと。
(……あれ。)
まただ。
思い返す出来事の中に、
陽菜が自然といる。
家へ帰る。
夕食のあと、自室で本を読む。
でも内容が頭に入ってこない。
代わりに、今日のことを思い返してしまう。
(どうしてだろう。)
考えながら、ふと窓を見る。
秋の虫が鳴いていた。
静かな夜。
その静けさの中で、ようやく一つの言葉が浮かぶ。
(白石さんは。)
少し間を置く。
(……少しだけ、違う。)
その瞬間。
自分の言葉に、自分で驚く。
違う?
何が?
みんな大切だ。
困っている人は助けたい。
それは変わらない。
でも。
陽菜が笑うと、安心する。
陽菜が落ち込んでいると、気になる。
陽菜が休むと、図書室が静かすぎる。
陽菜に「ありがとう」と言われると、少し嬉しい。
(なんでだろう。)
答えはまだ出ない。
翌日。
朝。
昇降口。
「おはよう。」
陽菜が笑う。
「おはよう。」
湊も笑う。
その瞬間。
昨日感じた「少しだけ違う」が、また胸の奥で小さく動いた。
でも、それは嫌な違和感ではなかった。
むしろ、
大切にしたいと思える感覚だった。
放課後。
帰り道。
「今日、何かいいことあった?」
陽菜が聞く。
湊は少し考えてから笑う。
「うん。」
「白石さんと、おはようって言えたこと。」
陽菜は一瞬だけ目を丸くする。
そして、ふわっと笑った。
「それなら。」
「私も。」
「朝比奈くんと、おはようって言えたこと。」
二人は顔を見合わせる。
どちらからともなく笑い合う。
夕暮れの道に、その笑い声だけが静かに響いた。




