第22話「いつからだろう」
昼休み。
窓から吹き込む風が、カーテンをゆっくり揺らしていた。
「朝比奈ー。」
パンを食べ終えた健太が、机に肘をつく。
「今日、購買行く?」
「行くよ。」
「じゃ、一緒に。」
「いいよ。」
二人で廊下を歩く。
他愛もない話をしながら、購買へ向かう途中だった。
「そういえばさ。」
健太が何気なく口を開く。
「最近、白石さんとよくいるよな。」
湊は笑う。
「図書委員だからね。」
「それだけ?」
「うん。」
迷いなく答える。
健太は少し笑って、
「ふーん。」
とだけ言った。
購買を出ると、向こうから陽菜が歩いてきた。
「あ、朝比奈くん。」
「お昼買えた?」
「うん。」
「今日はメロンパン残ってたよ。」
「ほんと?」
「よかった。」
ほんの数十秒の会話。
「じゃあ、また放課後。」
「うん。」
陽菜は教室へ戻っていった。
健太はその背中を見送りながら、小さく笑う。
「……なあ。」
「ん?」
「お前さ。」
「白石さんには、笑い方違うよ。」
「え?」
「いや。」
「なんか柔らかい。」
湊はきょとんとする。
「みんなにも同じだけど。」
「そう思ってるの、お前だけ。」
健太は笑ってメロンパンをかじった。
午後の授業。
先生の声を聞きながら、湊はさっきの言葉を思い返していた。
(笑い方……?)
そんなこと、あるだろうか。
考えてみても分からない。
結局、
(健太の気のせいかな。)
そう結論づけた。
放課後。
図書室。
返却された本を棚へ戻していると、一冊だけ背表紙が逆になっている本があった。
「あ。」
手を伸ばそうとした瞬間。
反対側から、もう一つの手が伸びる。
「あ、ごめん。」
「ううん。」
二人の手が同じ本に触れる。
思わず笑ってしまう。
「同じこと考えてたね。」
陽菜が言う。
「ほんとだ。」
湊も笑う。
「気になるよね。」
「うん。」
二人で本を正しい向きに戻す。
たったそれだけ。
でも、司書の先生はその様子を見て、少しだけ微笑んでいた。
帰り道。
「今日、何かいいことあった?」
陽菜が聞く。
湊は少し考える。
「うーん。」
「メロンパン買えたこと。」
「ふふ。」
「あと。」
少し考えて笑う。
「本が一冊、ちゃんと並んだこと。」
「それ、朝比奈くんらしい。」
二人で笑う。
別れたあと。
湊は一人で駅へ向かう。
ふと、健太の言葉を思い出す。
「白石さんには、笑い方違うよ。」
(そんなことないと思うんだけどな。)
そう思いながらも、心のどこかに小さく引っかかっていた。
その理由は、まだ分からない。
一方、その頃。
健太は教室で別の友達に笑って言う。
「朝比奈さ。」
「まだ気づいてない。」
「何が?」
「いや。」
健太は窓の外を見ながら笑う。
「本人が一番最後なんだよな。」
その言葉は、誰にも聞こえなかった。




