第2話「大丈夫」
数学の小テスト。
返却された答案を見て、教室のあちこちからため息が漏れる。
「やば……三十八点。」
「終わった……。」
休み時間になっても、点数の話は続いていた。
窓際の席で、一人の男子生徒が答案を机に伏せる。
「親に怒られるな……。」
その声は独り言のようだった。
近くを通りかかった湊は、足を止める。
答案を覗き込むことはしない。
ただ、笑って言った。
「次で取り返せばいいよ。」
「……そんな簡単に言うなよ。」
男子生徒は苦笑する。
「朝比奈はどうせ点数良かったんだろ?」
「まあ、それなり。」
「ほら。」
「でも。」
湊は自分の席へ向かいながら続ける。
「俺も中学の頃、数学は何回も赤点ギリギリだったし。」
「えっ、本当に?」
「うん。先生に『計算を最後まで見直しなさい』って何回言われたか。」
男子生徒は少し笑う。
「じゃあ、まだ希望あるか。」
「あるある。」
「次、一緒に頑張ろう。」
それだけ言って席に着いた。
その様子を、陽菜は本を閉じながら見ていた。
(慰めるんじゃないんだ。)
(『大丈夫』って、ちゃんと信じて言ってる。)
放課後。
落ち込んでいた男子生徒は、友達に笑いながら話していた。
「今日は帰って勉強するわ。」
「珍しいな。」
「なんか……次はできそうな気がしてきた。」
陽菜はその会話を聞いて、小さく笑う。
(また一人、元気になってる。)
帰り道。
夕日が校舎をオレンジ色に染めていた。
陽菜はふと思う。
(あの人が話したのは、ほんの一分くらいだった。)
(でも、その一分で、人の一日って変わるんだ。)




