表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日、何かいいことあった?  作者: なごやかたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/31

第19話「はぐれないように」

夏休み。

商店街の夏祭り。

提灯が並び、屋台からは焼きそばやたこ焼きの香りが漂っている。


「こっちこっち!」


クラスメイト数人で待ち合わせをし、みんなで祭りを歩く。

陽菜も、湊も、その輪の中にいた。


「まず何食べる?」

「かき氷!」

「いや、焼きそば!」


笑い声が夜に溶けていく。



しばらく歩いていると、人の流れが急に増えた。


「すごい人……。」


陽菜が小さくつぶやく。

その瞬間。

後ろから人が押し寄せ、少しよろけた。


「あ……。」


転びそうになった、その時。


「大丈夫?」


振り返ると、湊がいた。

腕をつかんだわけでもない。

支えたわけでもない。

ただ、人とぶつからない位置に立っていただけだった。


「ありがとう。」

「人、多いね。」

「うん。」


それだけの会話。



少し歩くと、クラスのみんなが見えなくなっていた。


「みんな、どっち行った?」

「たぶん金魚すくいの方かな。」

「行こう。」


湊が歩き出す。

でも、少しだけ歩幅をゆっくりにした。

陽菜も自然とその横を歩く。

急ぐでもなく、離れるでもなく。

ちょうど歩きやすい速さだった。



金魚すくいの屋台。


「あ、いたいた!」


友達が手を振る。


「二人ともどこ行ってたの?」

「ちょっと人が多くて。」


湊が笑って答える。

誰も気にしない。

祭りはまた賑やかさを取り戻した。



花火が始まる。

夜空いっぱいに、大きな花が咲く。


「きれい……。」


みんなが空を見上げる。

陽菜も見上げる。

でも。

ほんの一瞬だけ隣を見る。

湊も花火を見ていた。

楽しそうに笑っている。

その横顔を見て、胸が少しだけ温かくなる。

(この人が楽しそうだと。)

(私も嬉しい。)

その気持ちに、もう名前をつけなくても分かっていた。



帰り道。

駅へ向かう途中。

湊が笑って聞く。


「今日、何かいいことあった?」


陽菜も笑う。


「うん。」

「いっぱい。」

「例えば?」


少し考える。

焼きそばも、お化け屋敷も、花火も楽しかった。

でも。

一番最初に浮かんだのは。

人混みの中で、


「大丈夫?」


と声をかけてくれたことだった。

もちろん、それは言わない。


「秘密。」


そう言って笑う。

湊も笑う。


「そっか。」

「秘密なら仕方ない。」



その夜。

浴衣を脱ぎながら、鏡の前で立ち止まる。

今日を思い返す。

(今日、一番嬉しかったこと。)

もう迷わない。

(朝比奈くんと、一緒に歩けたこと。)

その瞬間、胸の奥がふわっと熱くなった。

「……好きなんだ。」

静かな部屋で、小さくつぶやく。

驚きはなかった。

むしろ、

「ああ、やっぱり。」

そんな気持ちだった。

窓の外では、遠くで花火の最後の音が聞こえていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ