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今日、何かいいことあった?  作者: なごやかたろう


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18/31

第18話「名前を呼ぶ人」

夏休み直前。

終業式の日。

午前中で学校は終わり、生徒たちは開放感に包まれていた。


「じゃあ、よい夏休みを!」


先生の声に教室が沸く。

友達同士で予定を話しながら、みんな帰っていく。



図書室の片付けも終わり、陽菜は駅まで歩いていた。

商店街を抜けようとした、その時。


「湊くん!」


元気な声が聞こえる。

振り向くと、小学一年生くらいの男の子が駆け寄ってきた。

その先には、湊がいた。


「あれ、そうた。」


湊は自然にしゃがみ込む。


「こんにちは。」

「こんにちは!」


男の子は満面の笑みだ。


「この前、公園でキャッチボールしてくれた!」

「うん。楽しかったね。」

「またやろうね!」

「もちろん。」


お母さんらしき女性が少し申し訳なさそうに頭を下げる。


「いつもありがとうございます。」

「いえ。」

「僕も楽しかったので。」



その様子を、陽菜は少し離れた場所から見ていた。

(知り合いだったんだ。)

でも、不思議だった。

湊はその親子と別れたあとも、しばらく笑顔のままだった。



「白石さん?」

「あ……。」


気づかれてしまった。


「偶然。」

「帰り道?」

「うん。」


二人で歩き始める。



「さっきの子。」


陽菜が聞く。


「近所の子?」

「うん。」

「公園で何回か会ってね。」

「野球好きなんだ。」

「だから、ときどき遊ぶ。」

「そうなんだ。」


少し間が空く。


「子ども、好きなの?」


湊は少しだけ考えた。


「好き。」

「でも。」


少し照れたように笑う。


「俺のこと覚えててくれるからかな。」

「え?」

「『湊くん!』って呼んでくれるでしょ。」

「それが嬉しい。」



陽菜は少し驚く。


「そんな理由?」

「うん。」


湊は笑う。


「人ってさ。」

「名前を呼んでもらえるだけで、なんだか嬉しくならない?」



商店街を歩きながら、陽菜は考える。

(この人は。)

(人を喜ばせるのが好きなんじゃない。)

(人とつながることが好きなんだ。)



駅で別れる。


「じゃあ、また夏休み明け。」

「うん。」

「よい夏休み。」

「朝比奈くんも。」



電車の窓に映る自分を見ながら、陽菜は小さく笑う。

(私は。)

(最近、ちゃんと『朝比奈くん』って呼んでる。)

そういえば。

最初は「朝比奈さん」だった。

その変化に、今さら気づく。

そして、ふと思う。

(もし。)

(名前を呼ぶだけで嬉しいなら。)

(私はもっと、呼びたくなる。)

窓の外には、夏の青空が広がっていた。

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