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今日、何かいいことあった?  作者: なごやかたろう


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17/31

第17話「読んだら教えて」

夏休みまで、あと一週間。

昼休み。

図書室には、新しく入った本が数冊並べられていた。


「新刊だ。」


湊が少し嬉しそうに近づく。


「どれどれ……。」


背表紙を眺めながら、一冊の文庫本を手に取る。


「これ、面白そう。」


表紙には、青空の下を歩く高校生のイラスト。

陽菜も横からのぞき込む。


「恋愛小説?」

「たぶん。」

「読むの?」

「うん。」


ページをぱらぱらとめくりながら笑う。


「外れでも、それはそれで面白いし。」


「読み終わったら。」


陽菜が何気なく言う。


「感想、教えて。」


湊は少し驚いてから笑う。


「いいよ。」

「でも。」

「白石さんも読んでみる?」

「うん。」

「朝比奈くんが面白いって言ったら読む。」

「責任重大だな。」


二人で笑う。



数日後。

放課後。

図書室。

湊は返却カウンターに、その本を置いた。


「読み終わった。」

「どうだった?」


陽菜が少し身を乗り出す。


「派手な話じゃなかった。」

「うん。」

「でも。」

「最後の一文が好きだった。」

「どんな?」


湊は少し考えてから答える。


「『誰かと過ごした普通の日は、あとから特別な一日になる。』」


陽菜は静かにその言葉を聞いていた。



「読んでみる?」

「うん。」

「貸して。」


湊は本を差し出す。


「ゆっくりでいいから。」

「ありがとう。」


本を受け取る瞬間。

二人の指先がほんの少しだけ触れる。


「……。」

「……。」


一瞬だけ目が合う。

どちらともなく、少し照れて笑う。



一週間後。

夏休み前最後の図書委員。


「読み終わった?」


湊が聞く。


「うん。」

「どうだった?」


陽菜は少し考えてから笑う。


「朝比奈くんが好きそうな話だった。」

「でしょ。」

「うん。」

「あとね。」

「最後の一文。」

「私も好き。」


二人は顔を見合わせて笑った。

本の感想は、それ以上話さなかった。

でも、「同じところが好きだった」というだけで十分だった。



帰り道。

夕焼けに染まる通学路。

陽菜は思う。

(同じ本を読んで。)

(同じところで笑って。)

(同じところが好きだった。)

そんなことが、なんだか嬉しい。

恋人でもない。

特別な約束をしたわけでもない。

でも。

「読んだら教えて。」

その約束は、ちゃんと守られた。

そのことが、胸の奥をぽっと温かくした。

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