第17話「読んだら教えて」
夏休みまで、あと一週間。
昼休み。
図書室には、新しく入った本が数冊並べられていた。
「新刊だ。」
湊が少し嬉しそうに近づく。
「どれどれ……。」
背表紙を眺めながら、一冊の文庫本を手に取る。
「これ、面白そう。」
表紙には、青空の下を歩く高校生のイラスト。
陽菜も横からのぞき込む。
「恋愛小説?」
「たぶん。」
「読むの?」
「うん。」
ページをぱらぱらとめくりながら笑う。
「外れでも、それはそれで面白いし。」
「読み終わったら。」
陽菜が何気なく言う。
「感想、教えて。」
湊は少し驚いてから笑う。
「いいよ。」
「でも。」
「白石さんも読んでみる?」
「うん。」
「朝比奈くんが面白いって言ったら読む。」
「責任重大だな。」
二人で笑う。
数日後。
放課後。
図書室。
湊は返却カウンターに、その本を置いた。
「読み終わった。」
「どうだった?」
陽菜が少し身を乗り出す。
「派手な話じゃなかった。」
「うん。」
「でも。」
「最後の一文が好きだった。」
「どんな?」
湊は少し考えてから答える。
「『誰かと過ごした普通の日は、あとから特別な一日になる。』」
陽菜は静かにその言葉を聞いていた。
「読んでみる?」
「うん。」
「貸して。」
湊は本を差し出す。
「ゆっくりでいいから。」
「ありがとう。」
本を受け取る瞬間。
二人の指先がほんの少しだけ触れる。
「……。」
「……。」
一瞬だけ目が合う。
どちらともなく、少し照れて笑う。
一週間後。
夏休み前最後の図書委員。
「読み終わった?」
湊が聞く。
「うん。」
「どうだった?」
陽菜は少し考えてから笑う。
「朝比奈くんが好きそうな話だった。」
「でしょ。」
「うん。」
「あとね。」
「最後の一文。」
「私も好き。」
二人は顔を見合わせて笑った。
本の感想は、それ以上話さなかった。
でも、「同じところが好きだった」というだけで十分だった。
帰り道。
夕焼けに染まる通学路。
陽菜は思う。
(同じ本を読んで。)
(同じところで笑って。)
(同じところが好きだった。)
そんなことが、なんだか嬉しい。
恋人でもない。
特別な約束をしたわけでもない。
でも。
「読んだら教えて。」
その約束は、ちゃんと守られた。
そのことが、胸の奥をぽっと温かくした。




