第16話「しおり」
放課後。
図書室。
夏休み前ということもあり、貸し出し希望の生徒が次々とやってくる。
「ありがとうございました。」
「また来ます。」
閉館時間になり、図書室はようやく静かになった。
「今日は忙しかったね。」
陽菜が大きく伸びをする。
「うん。」
湊も笑った。
「でも、本を借りに来る人が多いのは嬉しい。」
司書の先生が棚を見ながら言う。
「そうだ。」
「夏休み用に、手作りのしおりを配ろうと思うの。」
「せっかくだから二人も作ってみる?」
「面白そう。」
陽菜が答える。
湊もうなずいた。
色画用紙やリボン、押し花が机に並ぶ。
二人は向かい合って座り、それぞれ黙々と作り始めた。
「朝比奈くん。」
「ん?」
「意外と器用なんだね。」
「そう?」
「うん。」
湊が作っているしおりは、とてもシンプルだった。
青い画用紙に、小さな四つ葉のクローバー。
その下に、一言だけ書かれている。
『いい一日になりますように。』
陽菜は思わず読み上げる。
「……これ。」
「配る用?」
「うん。」
「借りた人が、本を閉じた時に見つけてくれたらいいなって。」
「それだけ。」
陽菜は何も言えなくなる。
(また……。)
(自分のことじゃない。)
(知らない誰かのことを考えてる。)
陽菜もしおりを作る。
少し悩んでから、ペンを走らせる。
『素敵な物語に出会えますように。』
書き終えたところで、湊がのぞき込む。
「いいね。」
「ありがとう。」
「白石さんらしい。」
「そうかな?」
「うん。」
「読む人のこと考えてる。」
その一言が、少し照れくさかった。
帰り際。
司書の先生が二人のしおりを受け取り、嬉しそうに言う。
「きっと喜ぶ子がいるわ。」
「ありがとうございます。」
翌日。
図書室。
一年生の男の子が、本を借りていく。
帰り際、しおりを見つける。
「わあ。」
「これ、入ってる!」
笑顔になって友達に見せる。
その様子を、本棚の陰から二人が見ていた。
「喜んでくれたね。」
陽菜が小さく言う。
湊はうれしそうに笑う。
「うん。」
「今日、あの子は少しだけいい日かも。」
帰り道。
陽菜はふと思う。
(私も。)
(前は、自分が嬉しいことばかり考えてた。)
(でも最近は。)
(誰かが笑ってくれると、自分まで嬉しい。)
その考えに、自分で少し驚く。
(朝比奈くんのせいだ。)
そう思うのに、嫌な気持ちは少しもしなかった。




