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今日、何かいいことあった?  作者: なごやかたろう


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15/31

第15話「お返し」

放課後。

図書室。

本棚の整理も終わり、閉館まであと十分。


「白石さん。」


本を並べていた湊が、小さな紙袋を差し出した。


「これ。」

「え?」


中をのぞくと、小さなクッキーが入っていた。

学校近くの商店街で売っている、素朴な焼き菓子だ。


「この前のお返し。」


陽菜は思わず笑う。


「まだ覚えてたの?」

「うん。」

「お返しするって言ったし。」

「でも、気にしなくてよかったのに。」


湊は首を横に振る。


「気にしてないよ。」

「ただ。」


少し照れくさそうに笑う。


「白石さんが喜ぶかなって思って。」



陽菜は袋を受け取りながら、小さく息をのむ。

("借りを返す"じゃない。)

(私が喜ぶかどうかを考んだんだ。)

そのことが、なんだか嬉しかった。



帰り道。

商店街を歩く。


「このクッキー、好きなの?」


陽菜が聞く。


「うん。」

「でも。」

「前に白石さんが、『甘すぎないお菓子が好き』って言ってたから。」

「だからこれにした。」


陽菜は立ち止まる。


「……覚えてたの?」

「うん。」

「この前話してたでしょ。」


まるで当たり前のような返事。

でも、その"当たり前"が陽菜には特別だった。



少し歩いてから、陽菜が笑う。


「これじゃ、お返しになってないよ。」

「え?」

「私の方が、もっと嬉しくなっちゃった。」


湊は困ったように笑う。


「それなら。」

「成功かな。」


二人は顔を見合わせて笑った。



駅で別れる。

電車の中。

陽菜は紙袋を開ける。

クッキーが二枚。

その下に、小さなメモが一枚入っていた。

『勉強の合間にどうぞ。』

それだけ。

名前もない。

飾った言葉もない。

でも、その一言に、陽菜は思わず笑ってしまう。

(こういうところなんだよな……。)



その夜。

勉強を始める前に、一枚だけクッキーを食べる。

甘すぎず、少しだけバターの香りがする。

思わず、

「おいしい。」

と声が漏れた。

勉強を始める前に、スマートフォンを手に取る。

少し迷ってから、メッセージを送る。

『クッキー、おいしかったよ。ありがとう。』

数分後。

返信が届く。

『よかった。じゃあ今日は成功。』

それだけ。

スタンプもない。

長文でもない。

なのに。

陽菜は何度もその一文を読み返してしまう。



ベッドに入る。

今日、何が一番嬉しかっただろう。

クッキー?

メモ?

「成功かな。」という笑顔?

どれも違う気がした。

一番嬉しかったのは、

「自分のことを覚えていてくれた」

その事実だった。

(……今日も。)

(朝比奈くんのおかげで、いい日だった。)

そう思いながら、静かに目を閉じた。

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