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今日、何かいいことあった?  作者: なごやかたろう


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11/30

第11話「おはよう」

七月。

朝の校門。

夏の日差しはまだ柔らかく、登校する生徒たちの笑い声が響いている。

陽菜は校門の前で立ち止まった。

少し先を、朝比奈湊が歩いている。

友達と話しながら、ゆっくりと校舎へ向かっていた。

(……。)

いつもなら、そのまま少し離れて歩く。

でも今日は、少しだけ違った。

(せっかくだし……。)

少しだけ歩幅を速める。

距離が縮まる。

あと数歩。

あと二歩。

心臓が少しだけ速くなる。

(おはようって言うだけ。)

(それだけなのに。)


「朝比奈くん。」


湊が振り返る。


「あ、おはよう、白石さん。」


いつもと同じ笑顔。


「おはよう。」


その一言だけ。

それだけなのに、陽菜の胸の中は少しだけ温かくなった。



教室へ向かう途中。


「今日は暑くなりそうだね。」

「天気予報で三十二度って言ってた。」

「もう夏だね。」


ほんの一分ほどの会話。

話題は天気だけ。

それでも、気まずさはなかった。

教室の前で、


「じゃあ、また放課後。」

「うん。」


二人はそれぞれの教室へ入っていく。



昼休み。

陽菜は友達の美咲とお弁当を食べていた。


「なんか今日、機嫌よくない?」

「そう?」

「うん。」

「朝から鼻歌歌いそうな顔してる。」

「そんな顔してた?」

「してた。」


陽菜は少し笑う。

(そんなに分かりやすかったかな。)



放課後。

図書室。

返却された本を棚へ戻していると、一冊の文庫本が目に入る。

『今日は、いい日だった。』

というタイトルだった。


「この本。」


湊が隣からのぞき込む。


「読んだことある?」

「まだ。」

「面白い?」

「派手な話じゃないけど。」

「読み終わると、誰かに会いたくなる本。」


陽菜はその言葉に少し笑う。


「朝比奈くん、そういう本好きだよね。」

「うん。」

「元気になる本も好きだけど。」

「『今日は悪くなかったな』って思える本が好き。」


その言葉は、第一部で聞いた言葉とどこか重なっていた。



帰り道。

別れ際。

「また明日。」

「また明日。」


湊は手を軽く上げて歩いていく。

陽菜も歩き出す。

そして、ふと気づく。

("また明日"って。)

(前から言ってたっけ。)

思い返す。

前までは、

「じゃあね。」

とか、

「お疲れさま。」

だった気がする。

でも今日は、

「また明日。」

それが少しだけ嬉しかった。



家に帰る。

制服をハンガーに掛けながら、小さく笑う。

朝は、

「おはよう。」

帰りは、

「また明日。」

たったそれだけ。

それだけなのに、一日が少しだけ明るくなった気がした。

ベッドに腰掛けて、小さくつぶやく。


「……今日も、いい日だった。」

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