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第9話 「少しだけ静かな日常」

第9話 「少しだけ静かな日常」


気が付くと。

アキラは自分の部屋にいた。

見慣れた天井。

見慣れた机。

見慣れたカーテン。


「帰ってきたんだなぁ」


部屋はいつも通りだった。

何も変わっていない。

なのに。

少しだけ広く感じた。

アキラはベッドに腰掛ける。


いつもなら。

数日もすれば魔法陣が現れる。


「アキラ!」


リリアナの声が聞こえて。


「こんにちは」


そんなやり取りが始まる。

でも。

今回は違う。

大魔導師の話では。

境界が安定するまで往来は禁止。


つまり。

しばらく会えない。


フッとアキラは窓の外を見た。

異世界の紫色の空とは違う。


挿絵(By みてみん)


「元気かな」

ふと呟く。


今頃 リリアナは何をしているのだろう。

お茶会だろうか。

それとも。

ポテトチップスを食べているだろうか。


「たぶん食べてるなぁ」


想像したら笑ってしまった。

きっと魔王も横にいる。


「リリアナ、それは今日三袋目だぞ」


「まだ二袋目です!」


「誤差だ」


そんな会話をしていそうだった。

翌日。

アキラは近所のスーパーへ行った。

牛乳。

パン。

卵。

いつもの買い物。


平和だった。

本当に平和だった。


すると。


お菓子売り場が目に入る。

ポテトチップス。

アキラは立ち止まった。


数秒後。

一袋手に取る。

そして。


「リリアナさん好きそう」


思わず笑った。

気付けば買い物かごの中に入っていた。

完全に癖になっていた。

その日の夜。

アキラは一人でポテトチップスを食べていた。


パリッ。


「うん」


パリッ。


「美味しい」


パリッ。


「……」


少しだけ静かだった。


異世界では。

ポテトチップス一袋で会議が始まった。

チョコレート一箱でお祭りになった。


今思うと。

本当に変な人たちだった。

でも。

楽しかった。

とても。

その時。

スマホが鳴る。


ソウマからだった。


『暇か?』


『暇だよ』


『飯行くぞ』


『分かった』


相変わらず雑だった。

でも。

少しありがたかった。


翌日。

ファミレス。

ソウマはハンバーグを食べながら言った。


「なんか元気ないな」


「そう?」


「長年の付き合いだぞ」


バレていた。

アキラは少し笑う。


「友達としばらく会えなくなったんだ」


「なるほど」


ソウマは納得したように頷く。


「遠くに行ったのか」


「かなり遠いかな」


異世界なので間違ってはいない。


「そっか」


ソウマは深く聞かなかった。

その代わり。

ポテトを一本差し出した。


「食うか」


「食べる」


もぐもぐ。


「うまい」


「だろ」


なんだか少し元気が出た。


帰宅後。

アキラは机の引き出しを開けた。

中には。

最初にもらった手紙。

金貨。

そして


リリアナが書いてくれたメモ。

『また来なさい』

少しだけ不器用な文字。


アキラはそれを眺める。

そして。

「また行くよ」

誰もいない部屋でそう呟いた。

返事はない。


でも。

なぜか。

いつかまた会える気がした。

そんな気がした。


その頃。

異世界。

魔王城。


リリアナはソファでぐったりしていた。


「元気を出してください奥様」


執事が言う。


「無理です……」


「まだ三日目です」


「もう三日です……」


重症だった。

魔王はそんな妻を見てため息をつく。

そして。

地下倉庫からポテトチップスを持ってきた。


「ほら」


「!」


一瞬で復活した。


「あなた!」


「機嫌を直せ」


「はい!」


単純だった。


だが。

ポテトチップスを食べながら。

リリアナもまた。

同じことを考えていた。


「また会いたいですね」


静かな声だった。

魔王は少しだけ笑う。


「ああ」


「きっとまた会える」


そう言って。

二人は夜空を見上げた。


現実世界と異世界。

離れていても。

同じ月が浮かんでいた。

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