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第3話 「魔王の妻の名前」

第3話 「魔王の妻の名前」


異世界から持ち帰った金貨。

アキラは現在、それを机の引き出しの奥にしまっていた。


理由は単純。

使い方が分からないからである。


「銀行に持っていったら絶対説明できないよね……」


そんなことを考えていると。

足元に見慣れた魔法陣が現れた。


「来た」


もはや少し慣れていた。


ピカァァァァァッ!!


到着。

魔王城。


「おかえりなさい!」


「ただいま?」


出迎えたのは魔王の妻だった。

最近では兵士たちも驚かなくなっている。

奥様が入口まで迎えに来るのが日常になりつつあった。


ただし。

魔王だけは慣れていない。


食堂へ向かう途中。

アキラはふと気付いた。


「そういえば」


「どうしました?」


「名前知らないかも」


「名前?」


「うん」


アキラは首を傾げる。


「僕、奥様って呼んでるけど」


「確かに」


「名前聞いてなかった」


周囲の兵士たちが固まった。

今さらである。


「そうでしたね」


魔王の妻は少し笑った。


「私はリリアナです」


「リリアナさん」


その瞬間。

周囲の空気が凍った。

兵士たち。

メイドたち。

執事たち。

全員が顔を見合わせる。


兵士A(小声)

「呼び捨てじゃないけど名前で呼んだぞ」


兵士B

「歴史上初では?」


兵士C

「首飛ばされる?」


兵士D

「いや奥様めっちゃ嬉しそう」


実際。


リリアナはかなり嬉しそうだった。


「もう一回お願いします」


「リリアナさん?」


「もう一回」


「リリアナさん」


「ふふふ♪」


ご機嫌だった。

兵士たちは理解できなかった。


その頃。


魔王の執務室。


「魔王様」


「なんだ」


「アキラ殿が奥様を名前で呼びました」


「何?」


魔王は書類を落とした。


「リリアナと?」


「はい」


「許可されたのか?」


「むしろ喜んでおります」


「なんでだ」


誰にも分からなかった。


その日の昼食。

アキラ。

リリアナ。

魔王。

三人で食事していた。

なぜか家族みたいになっている。


「リリアナさん」


「はい」


「このスープ美味しい」


「でしょう!」


「リリアナ」


「なんですか?」


魔王が呼ぶ。


「私もいるぞ」


「知ってます」


「反応の差が酷くないか?」


アキラは笑った。


魔王は最近分かったことがある。

アキラには威圧感が通用しない。


なぜなら。

天然だから。


昼食後。

城の庭園を散歩していると。


大きな黒い狼が現れた。

全長三メートル。

真っ赤な目。

見るからに危険。


兵士たちが慌てる。


「魔獣だ!」


「逃げてください!」


しかし。

アキラは近付いた。


「わぁ」


「危険です!」


「大きい犬だ」


「犬じゃありません!!」


黒狼はアキラを見つめる。

数秒。

沈黙。


そして。


尻尾を振った。

ぶんぶんぶんぶん。

ものすごい勢いだった。


「え?」


兵士たちが固まる。

アキラは頭を撫でる。


「いい子だね」


黒狼。

ごろん。

お腹を見せた。

完全降伏である。


兵士たち。


「は?」


メイドたち。


「は?」


魔王。


「は?」


リリアナ。


「ふふふ♪」

その夜。


アキラが帰る時間になった。

魔法陣が現れる。


「また来るね」


「待っています」


リリアナは少し寂しそうだった。

アキラは首を傾げる。


「リリアナさん」


「はい?」


「今度、現実世界のお菓子持ってくるよ」


「本当ですか!?」


目が輝いた。

魔王より威圧感があった。


「ポテトチップスとか」


「ぽてと?」


「チョコとか」


「ちょこ?」


「グミとか」


「ぐみ!?」


リリアナは未知のお菓子に興味津々だった。

そしてアキラは現実世界へ帰還する。


その頃。


魔王城では。


「奥様」


「なんです?」


「最近ご機嫌ですね」


メイドが言った。

リリアナは少しだけ微笑む。

そして窓の外を見ながら答えた。


「ええ」


「アキラが来てから、毎日が楽しいのです」


一方その頃。

現実世界。

アキラはスマホで検索していた。


検索ワード。


『異世界のお偉いさんに喜ばれるお菓子』


当然ながら答えは出なかった。


「うーん……」


だが彼は知らない。

次に持っていくお菓子が。

後に魔王城全体を巻き込む大事件の始まりになることを。

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