第89回 「「ユージンが悪い!」」
「ごめ・・・ごめん・・なさい」
どういうわけか、その場に立ち尽くして、ただただ涙をこぼすマナ。
ああもう、これ絶対また何か勘違いしてる。
すれ違ってる。
何かお察ししたら、悪い方へ悪い方へと。
こいつの悪い癖だ。
何やら事の成り行きを伺っていたアシュリーと、いつのまにか目を覚ましていた(アシュリーの拳で気絶していた)ガーヴェンが揃って俺を指差し。
「「ユージンが悪い!」」
「ああもう、煽んないで下さいよ!」
いきなり外野に徹し始めた二人に、とりあえず突っ込みを入れつつ、マナを刺激しない様にそっと近づく。
今度はどんな勘違いをしているんだろう。
アシュリーとの会話を聞かれていて、俺の不義理を責めている?
それじゃ"ごめんなさい"の説明がつかないよな。
そもそも実際のところのオレたちは、それを責められるような関係でも・・。
いや、決定的なところを逃げてるにしたって、それはズルい言い訳だな。
ああもう。ああ。もう。
「無理!」
そう言った瞬間、何か否定的なニュアンスでも感じたのか、またもマナがびくりと肩を揺らす。だが、俺から逃げようとするそれを捕まえて、マナの顔を覗き込む。
「マナ。ごめん!」
その小さな肩を両手でつかんで、ただ正直に。
誠実に。そして言葉に。だ。
「何がごめんなのかわからない。なんで泣いてんのかわからない。でも、お前の事泣かせたくないよ」
「ユ、ユージン」
「教えてくれ。なんで泣いてるんだ。俺、またなんかやらかしたかな?」
そういうと、マナはハッとした様に顔を上げ、眼を見開く。
「ち、違――ユージンは悪くない!」
そう言って否定する。
しかし、ならなんで泣いているのか。と。
かくして、マナはぽつりぽつりと語り始める。
「ログインして、メールチェックしてたら、ユージンのレベルがすっごい上がってるのに気が付いて」
「なんか無茶でもしてるんじゃないかって、心配になって。それで、急いで追いかけようと思って基地の入り口まで来たら、ユージンが他の人と仲良さそうに話してて」
「あれ、もしかしてこの人たちとレベル上げしてたのかな? だとしたら、なんで僕は誘ってもらえないんだろう? もしかして――」
「――もしかして、僕があんまり頼りなくて愛想尽かされちゃったのかな? 他の人と一緒の方が良いのかな? ・・って」
「そんな風に思ったら、悲しくて。・・・悲しくて」
すん。
と、鼻を啜りながら、そんなことを吐露するのだ。
――頼りない、だって?
俺は。
ええと。俺は。
とりあえず目を覆って、天を仰いだ。
◇◆◇◆◇
「ええっ!?」
全て説明されたマナは口に手をやって絶句。
後ろではすっかり外野になったアシュリーとガーヴェンが腹を抱えて笑い転げている。くそ。あとで覚えてろ?
「だから――つまり――」
俺が"へたくそ"な所為で、魔術師で在りながら、しかもかつこの世界ではか弱い女の子の姿のマナに劣等感を感じていて。
でも"守る"って言った手前、せめて近接戦闘でくらいマナより強くなりたくて。
それには彼女に"内緒"でレベルを上げなきゃいけなくて。
でも、それを見つけたマナは、"僕が頼りないから、一緒に連れてってくれなかったの?"ときたもんだ。
もう、なけなしの"男のプライド"ってやつはメッタメタのズッタズタで。
これ以上お前が頼れる奴になっちまったら、俺の立つ瀬は――
「――どこなのかと」
正直、俺も困り果てた顔で。仰々しい身振り手振りで。
「いやぁ、わかる。わかるぞ、ユージン。男ならカッコいいとこの一つくらい見せたいって思うよなぁ。どうせなら、サプライズでばばーんとサ」
ひとしきり笑い転げた後、何やら深く頷いているのはガーヴェン。
「あら、それで女の子泣かせてたら意味ないわよ」
俺の行動へ共感するガーヴェンに、アシュリーが噛みつく。
「しかし、男にもプライドってやつがですね」
「女の涙より優先されるプライドなんてないわよ。そんなもん犬のエサにでもしときなさいよ」
ヤメテ!俺のライフはもうゼロよォッ!
後ろで噛みつき合う二人にそんな感想を抱くばかりだが、まぁしかし。
「あ、あの、ユージン・・・?」
心底申し訳なさそうに、縮こまりながら上目遣いに俺を見上げるマナに。
溜息を一つ。そしてその綺麗な髪をひと撫で。
「色々不服はあるんだけど、サ」
そこでもう一度言葉を切って、精いっぱいの優しい気持ちで笑顔を作って。
マナに笑いかける。
「アシュリーの言う通りなんだよな。多分」
後ろから "そりゃないぜユージン!?" だの "あら分かってるじゃないの" だの囃し立てるギャラリーは一旦置いといて。
「"守る"って言ったけど。"傍にいる"とも言った・・・。結局、お前を泣かせてたんじゃ、何にも意味がないんだ。その・・・ごめんな」
「僕の方こそ、ごめん。そんなに追い詰めてたなんて・・・その、自分のが強いだなんて、そんな意識全然なくてッ」
どちらからともなく、苦笑して。
「やっぱり俺達、"言葉"にしないと・・・だな」
「そ、そうだね」
そこで、一度アシュリーたちを振り返り、目くばせする。
二人とも意図を読み取ってくれたようで、溜息を吐きながらも、身を起こす。
「それじゃ、一緒にレベル上げ、しようか」
「うん!」
まだ眼尻に涙の残る顔で、マナは微笑んだ。
笑ってくれたんだ。
なら、それでいいじゃないか。
俺の劣等感など、安い。本当に、安いプライドだ。
いつの間にか基地の正面ゲートまで移動していた、アシュリーとガーヴェンに急かされて、俺たちはもう一度レベル上げに向かうのだった。
今度こそ、"一緒"に。
基地のゲートを潜るとき。
アシュリーに、そっと耳打ちされる。
「――安心したわ」
「えっ?」
驚いて、思わずそんな声を漏らす。
振り返った先のアシュリーは、何だか寂しそうな、悔しそうなっていうか、よくわからない表情をしていた。
「最初から先の茶番を見せてくれれば、誰も付け入る隙があるなんて思わないわよ。貴方たち」
「え」
「まぁ、それ言ったら最初の宿屋のシーンでも見せつけてくれてたわよねェ。でもあんときはアンタ達喧嘩してたし、まだ行けるかなー、なんて。さ」
戸惑う俺を、あっさり置き去りにして、アシュリーは先に行ってしまう。
「それって――」
どういう意味?
それにその顔は・・・。
アシュリー?




