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ThebesWorldOnline  作者: 海村
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第38回 「はじまらにゃー」


 西門から出て、感慨深く王都ヴァルハラを振り返る。


 大きな街だ。

 何しろこの街一つで、現実の俺の住む地方都市より広いくらいなのだ。


 俺は、今度は今から進もうとしている道の先を眺める。

 じゃあ、この次の中間地点のかけらも見えない街道はどこまで続いているのか。

 この作られた世界(TWO)はどこまで広いんだろう。


 誰が、どうやって、とか考えるのは無粋なのか。


 しかし、これはゲームだ。

 ゲームのはずなんだ。


 俺は今ヘッドセット型のビデオモニターを装着して・・・いるよな?


 俺の身体はある程度操作が複雑ながら、ゲームパッドで操作している。直感的な部分をかなりオートでやってくれる為、同じ操作方法でプレイしているはずの他のプレイヤーも、皆動きが自然だ。


 オートエモーショナルコントロール。

 嘘がつけない表情による感情表現システム。

 1週間前、俺がマナを不安にさせたくなくて"無理矢理笑おうとした"とき、マナは何も言わなかったけど、俺はいったいどんな顔してたんだろうな。とか、ふと思う。


 セカンドライフ。第二の人生。


 その通りだよくそったれ(・・・・・)


 まるで蜜の味がする麻薬。

 俺はもう、この生活から離れられそうにない。


 離れられないなら、いっそいつか考えた様に全感覚型の機材を買うことも検討してみようか。だってそうすれば──


 俺の横を小走りにかけて、マナが俺を追い抜いてゆく。


 そしてくるっと振り向くのだ。


 反転する勢いに、あの綺麗な白銀の髪が広がるのが好きだ。


 長くしたスカートがなびくのが好きだ。


 そして俺にだけ見せてくれる笑顔。


 その頬に──全感型にさえなれば──触れられるというのなら。



「どしたの?ユージン。早く行こう?」



 言葉に──VR空間でおかしな話だが──現実に引き戻される。


 苦笑。

 しているんだろう。

 多分。今。そんな気分だ。



 頭を振って冷静になる。

 "お前に触りたいから全感覚型の機材買うわ"とかそれこそ"ネカマキモチワルイ"以上の破壊力だろう。


 これはゲームだ。


 ゲームなんだ。


 マナのキャラクターの裏側には、漢字で書ける名前の誰かがいて、俺と同じような男として日常を生活しているんだろう。

 お前に触りたい。だなんて言われて、迷惑でないはずがない。


 あれ、なんか、ドライに考えてしまうと。

 人見知りが「頼る柱」と同伴を求める対価に、愛嬌を振りまいて提供する?

 俺たちの今の状況って、そういう事だろうか。


 そう思うとなんだか自分のやっていることが、モヒカン野郎のジョーンズと大差ない気がして、ひどく自己嫌悪に陥った。


「ゆーじん?」

「ん?ああすまん。なにせバーチャルとはいえ1か月近く"住んだ"街だからさ。色々感慨もあってな」


 言外に"そうだね"・・・と。

 頷き合って、マナと並んで歩きだす。



 さぁ。

                    ぁぁぁぁぁぁ~~。


 此処から冒険が。

                    ぁぁぁぁぁぁぁぁ~~。


 はじまr


「あああああああああってくれよおおおおおおおっ!!」

「ぴゃ!」

「ぐぇ!」


 ぱっかーん。


 突如街の方からひどい速度で走ってきた何かに、思いっきり体当たりをされて、俺とマナはボーリングのピンみたいに盛大に吹っ飛んだ。


「な、なにが・・」


 視点が大きく変わって、混乱したが、よくよく周囲を確認すると自分とマナを繋ぐようにして俺たちにギューッとしがみついている人影。


「え、おやっさん?」

「くぁwせdrftgyふじこlp!!」


 なにやら泣きわめきながら俺たちにしがみ付いているのは、あのマリーの様だった。


「お、おやっさん。どうしたんだ?」

「ひどいじゃないか!青年!」


 顔を上げたマリーはなんだかマンガみたいに涙でぐしゃぐしゃにした顔で訴える。


「ケンたろーから聞いたよ!ヴァルハラを離れるならおれっちにも一言言ってくれよォ!!泣きながら抱きしめ合ったじゃないか!おれっちと青年の仲ってそんなものだttへぷぅ!!」

「ええいこの口は、いちいちボケないと会話もできんのかぁぁっ!」


 誤解を生む方向にしか転ばない物言いを掌で物理的に塞ぎ、一喝する。




「ちぇー。寂しいと思ったのはほんとなんだもんよー」


 拗ねた顔のマリーに俺たちはヤレヤレとため息。


「あーその、何も言わずに来たのは悪かったけど、別にもう会えないってわけじゃないんだからさ。そりゃこの規模だから長旅にはなるかもしれないけど」


 たしかに、同じゲーム内とはいえ、この規模だ。言われてみれば、おやっさんたちとは、もしかしたら今を逃せば何週間も会えないかもしれない。

 何も言わずってのは、考えなしだったかもしれないと、少し反省する。


「おれっちだって、自分もつれてけとか無粋なこと言わないよ!? じゃあさ。じゃあ、せめてこれを持っていってくれよォ」


 マリーがそう言うや──



─マリーシア さんからフレンド申請を受けました。 Y/N


 俺とマナは顔を見合わせ──


─フレンド申請を承諾しました。


 ──心からの笑顔でそれに答えた。



 それから。



【フレンドカード】

Name :マリーシア

Job  :屠龍の勇者(ドラゴンバスター)

Lv   :70

Login:ログイン中(おれっち今日も参上!)

Memo :ゆうしゃまりーしあちゃんだぞー。

      わるいやつはゆるさないかんなー。

      ぶっころがしちゃうかんなー。



「「勇者ァァァァァァァァァァァァァァ!?」」


 俺たちはそろって素っ頓狂な声を上げるしかなかった。




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