第二七話 神の間へ
「おはようございます。」
誰が居るわけでもない部屋で挨拶するのは、もう癖になっている。
今回の目覚めでは、特にリリさんが駆けつけるわけでもなく、平穏なものだった。
急な目眩に襲われて倒れた事を思い出し、自分の体を確認していると、しばらくしてから面白い違和感に気がつく。
その違和感はポジティブなもので、僕の気分を高揚させた。
赤との戦いの後には感じなかった成長の実感、とでも言えばいいのだろうか?
視界も頭も冴え、体の内側からみなぎる何かがある。
そんな不思議な感覚を楽しみながら、着替えを済ませていると、物音で僕が起きたのが分かったのだろう、リリさんがやってきた。
「お体の調子はいかがですか?」
「ご心配おかけしてすみません。今は問題ありません、ただ急に倒れたのは初めてだったので、ちょっと不安になってました。」
「それについては心配しなくて大丈夫ですよ。急激に存在値を取り込んだ事による一時的な現象です。」
そういうのは事前に聞くことは叶わなかったのだろうか?
まあそれはいいとして、強くなったと考えるのが妥当だろう。
「そうですか。赤スライムを一杯倒した時には、あまり感じなかったのですが?」
「はい、赤スライムと深紅スライムでは存在値の桁が違いますので。深紅スライムを倒した際は、相当な負荷になるはずです。」
存在値の取り込みを負担に感じるほど、僕と深紅スライムの間に存在値の開きがあったという事か。そして試練のレベル1と2の間にもそれだけ開きがあるということだ。
「これからもずっと深紅スライムを倒すと、僕も倒れるのでしょうか?」
「いえ、おそらく最初の一匹だけだと思います。」
「最初の一匹だけ?」
「ええ、今までのアレンさんと深紅スライムの存在値の差が大きかったので、吸収する量が多かったのです。今後は存在値の吸収は緩やかなものになるはずなので、だんだん楽になるでしょう。理論上は・・・」
そうか、理論か。俺が人体実験1号だもんな。
「わかりました。人造人間への道を邁進したいと思います。」
「その意気で頑張りましょう!次からの戦闘も、もう少し楽になると思いますから。」
だめだ。皮肉も通じない。
~~~~~~ 三週間後 ~~~~~~~
普通に深紅スライムを倒す事ができるようになった。
・・・・・・・・剣で。
あれから、2匹目は1匹目の半分位の時間で倒すことができた。
勿論、魔法を使っての遠距離からの攻撃であったが、死を感じる事は少なかった。
10匹目を経過した辺りから、相手のスピードについていけるようになり、20匹目を経過する時には既に僕の方が早くなっていた。
スピードが上回った所で、リリさんがサポートに回り、有事の際にしか手を出さなくなった。
いくら深紅が知能が高いとはいえ、正面切っての殴り合いになれば、選択肢はスライムのそれと同じだった。
「もうそろそろ終わりが近づいてますね。」
リリさんが深紅であったプールを見ながら呟く。
「やっとですか・・・でもそんなに名残惜しくはありませんよ。」
深紅のスライムを切り裂きながら、そんな軽口を叩く。
「まだ早いですが、次はレベル3ですね!」
「慎んでお断り致します。」
即答。
次こそ死ぬ。
「なぜですか?!」
そんな慌てて止めても無駄だ。
それに、これ以上人の道を外れる必要がどこにあるのか?
寧ろレベル3の試練に進むと思っている事に驚く。
「そもそも僕がこの塔に来たのは、友人の為です。それに、これ以上の圧倒的な強さは必要ありません。」
そんな目で見ないで欲しい。怖いものは怖い。
「そうですか。大変残念です。」
「ご期待に添えず、申し訳ありません。」
「いえ、ご自身で決められた事であれば、尊重させていただきます。」
明らかに残念そうなリリさんに心を痛めつつ、自分の保身を完了する。
そうこうしている内に、最後の深紅スライムに別れを告げる事になった。
「お疲れ様でした。」
赤の時同様、プールサイドに近づいてみると「これで敵なし」と書かれている。
・・・・・・。
いろいろなものを失ったけどな。
「大変お世話になりました。」
「いえいえ、アレンさんもよく乗り越えてくれました。とりあえず、休憩しましょう!」
そういって休憩室に向かう。休憩室には既に休憩の用意がしてくれてあった。
頂いた飲み物とお茶請けを味わいながら今後の事を確認する。
「これからどうすればいいでしょうか?」
「はい、まずは一階で能力測定を行います・・・というのがいつもの流れなのですが、水上の塔の責任者が少し話したいと言っていますので、アレンさんが宜しければ、ご案内させていただく予定になっています。」
修了証書でも頂けるのだろうか?それとも途中で塔を降りる嫌味でも言われるのかな?
「わかりました。いいですよ。僕も会ってみたいし。」
「ありがとうございます。それでは後ほどご案内します。」
しばらく休憩を堪能した後、責任者専用フロアに案内された。
何時ものように、階段を登っただけであるが、8階では無いらしい。
流石にここはホテルのロビーの作りとは異なっていた。
扉を開けると、廊下が奥に続いており、つきあたりに部屋が一つあるだけだった。
床は黒く、材質は分からない。床の端から明かりが照らされ、間接的にフロアが照らされており、神秘さの中に小粋さが増している。
壁には人が戦っている絵や、何かを捧げている絵が描かれており、ざっと見ると、人類の歴史に見える。
一言で表すなら「神の間」だ。
そんなフロアを進み、唯一の扉の前に誘導された。
「こちらが、最高責任者室です。」




