第二八話 御見通し
「失礼します。」
リリさんと別れ、責任者専用室という仰々しい名前の部屋に入る。
黒を基調とした高級そうなテーブルとサイドテーブルを構えて、男が一人こちらを向いて座っていた。
「おお、来たか。俺がこの塔を作ったトールマンだ。よろしくな。生まれはコトノ国だ。」
責任者がトールマンその人!?・・さりげなくいい男だな。年は自分よりちょっと上だろうか?なんか計算が合わないな。
「アレンです。生まれはシマダ国です。よろしくお願いします。」
これだけ見せられた後では、話をするのも緊張する。そんな緊張を察したかトールマンがにやりと笑う。
「どうだ?凄い技術だと思わないか?」
「はい。分からない事だらけです!凄いですね。さすが天才だと思いました。」
「いやいや、俺は天才じゃないよ。この技術の根幹は先代から元々あったものさ。俺はちょっと物知りで応用が利いただけだ。」
先代?って事はトールマンって複数いるのかな?流石にその若さであの種類の発明をするのは不可能だと思うのだけど。
「先代ですか?」
「ああ、トールマンは世襲制だからな。先代に指名された奴が名前と重苦しい使命を引き継ぐのさ。」
世襲制という事は、何代目かの名前をこの人が継いだんだな。
取りあえず重そうだ。僕ならパスしたい。
挨拶が終わってトールマンが席を立つ。サイドテーブルからグラスを二つ用意した。
「ああ、なんか飲む?俺は酒だが。」
随分フランクな人だな。悪い感じはしないけど。
「僕もお酒でお願いします。」
さぞかし美味しいお酒なのだろうと勝手に予想する。続けてトールマンが話す。
「それから試験結果見せてもらったよ。優秀だな。ほぼ満点だ。」
「何もでないですよ?」
頑張って自宅で育てた野菜位だ。
「そうか?色々秘密が出るんじゃないの?」
「実は農家です。」
本当に農家だしな。
トールマンが拍手しながら話す。
「それは凄い。この成績で農家とは。」
「ありがとうございます。」
「さて、それはこの世界の農家なのかな?」
あまりに突拍子もなかったので、一瞬の間が開いてしまった。
「それ以外に何かあるのですか?」
ニヤッとトールマンが笑って言葉を続ける。
「そう?例えば違う世界とか?」
時が止まる。まさか・・・
「そんな驚くなよ。まさか移界したのが自分だけだと?」
「ナンノコトデショウカ?」
挙動不審も甚だしい。表情が凍ってしまう。
「顔に出すぎだろ。何もしないから素直に認めろよ。」
「ナンノコンキョガアッテ?」
「アレンのテストの結果見たけど、2階で音波を上手く使ってたろ。4階じゃあ奴隷のいるこの世界で民主主義語りやがって。アホか。ルックが理解できるわけないだろが。この世界はまだそんな進んでねえよ。」
「・・・・・・」
「ちなみに俺も異世界人だった。」
「!!」
トールマンが異世界人という驚愕の事実。
思い返せば、此処までオーバーテクノロジーのオンパレードを見ていると、その方が納得がいく。
暫く考えた後、この人に言う分には特段問題がなさそうだったので、素直に認める事にした。
そう、僕はこの世界ではない日本という国で生活していた記憶がある。あまりにも鮮明に記憶が残っているから、それは事実か僕が余程狂っているかだ。
あるとき、気が付いたらこの世界に生を受けていた。本当は、この体は違う人の魂が入る器だったのかもしれない。
「不条理は自分だけでいいと思っていました。」
「まあ、俺もそうさ。何かしらの理由でこの世界と「そこ」は繋がっている。俺は金持ちの息子だったからよかったけど。あ、あと異世界人のよしみで敬語はやめようぜ。」
そう言って自傷気味みに笑う。トールマンがいうように、異世界人なら尚更疑問に思う事がある。
「なんでこんな塔を?」
「まぁ異世界人ホイホイだな。」
「人を虫みたいにいうの止めて貰えますか?」
「実際に引っかかったじゃないか。」
引っかかったんじゃない。引っかけられたんだ。
「まさか異世界人が待ってると思わないでしょ。」
「それもそうだな。ほんとのとこは、退屈しのぎだ。」
ふむ、よろしい戦争だ。深紅との戦いで得た存在値の力を見せてやる。
「そうだ、試したい事があったんだ。君に向かって全力で魔法をぶっ放すから避けてみてくれ。」
「この部屋が壊れるのでやめて貰えると助かるな。」
そういってトールマンは美味しそうなお酒を差し出してきた。
・・・なにこれウマイ。からかわれた対価か。
「・・・・・疲れるな。真面目に話してよ。与える力の対価に何を求めてるの?」
アルコール成分の高い溜息をついてトールマンを見る。
「真面目だけど。まぁ副次的な目的としては,世界のバランスを保つ事かな。それと必要に応じてこちらからの依頼を受けてもらうことだ。」
やっぱり普通にそれっぽい目的があるんじゃないか。
「世界のバランスを保つって?」
「魔物、魔獣と人間のバランスだ。国と国じゃあない。」
なるほど、どちらかの絶滅を防ぐみたいな意味なのかな?
「なんの利点があるの?」
「基本、存在値の奪いあいだからな。どちらか一方に偏らないようにしないと、大変な事になるのさ。何しろ世界は「底の丸いグラス」だからな。」
そういえば、テストの時に覚えたな。偏らせたら零れるって事か。
「じゃあ、普通に生活すれば良くて、時々魔物倒せばいいの?」
「ああ、基本一般では狩ることができない、強い魔物を倒して欲しい。それと今回は個別の依頼として人間の回収もある。」
「人間の回収?」
「ああ、マリー=ルーとウォルク=キングを塔に連れ帰ってきて貰いたい。」
「それは聞いたことがある名前だね。」
そう、その名前はアンナさんからの講義で聞いた僕の先輩、つまり勇者の先輩に当たる。
「それで、その二人を回収して、新たにレベル2権限を与えようと思う。」
「それはまたどうして?」
重刑の執行宣告は可能な限りお断りしたい。
「最近この世界がことさら不安定になっている。今まで「深紅」なんて出なかった地域に「深紅」がでたり、弱かった魔物が強くなったりしてる。原因はまだよくわから んがな。とにかく分かっている事は「深紅」を抑える事ができる人材、軍隊がより多く必要って事だ。」
「なるほど。」
「今までは、ぽっとでても赤までだったんだが・・・」
「確かに、深紅は話にしか聞いたことない。」
それこそ深紅討伐のために軍隊や英雄と呼ばれている人が戦った事を話に聞く位だ。
幸いな事に、遭遇したことは無い。
「と、いう訳だ。よろしく頼まれてくれないだろうか?」
返事をする前に、ずっと気になっていた事があった。
「その前に聞いてもいいかな?一般の人で深紅に勝てる人はいないの?」
「タイマンはどうだろうな?一般の個人の戦力は把握していない。だが数年に一度の大戦で生き残った奴とかなら、全く可能性がないわけじゃない・・・・かも知れない。だが、基本は複数人、有利な状況、嵌め手で勝つはずだ。」
「そうなんだ。」
可能性はゼロじゃないんだな。
「ああ、それにスライム以外の深紅に対して、アレンが必ず勝てる保証もできない。分かっていると思うが、戦う時の条件で優劣は簡単にひっくり変わる。深紅と初めて戦った時の恐怖は決して忘れるな。大事な物の為にだけ戦え。」
なんか、急にいい人に見えたが錯覚だろうか?
「わかった。なんにせよ深紅には慎重に当たるよ。」
「ああ、で頼めるのか?」
色々考えたが、深紅が跋扈する世界でまともに生活できると思えない。今の世界で自分を大切にしてくれている皆も自分の手の届く範囲なら、守りたいとも思える。
「前向きに検討するから話を聞かせて貰える?」
「ありがとう、助かるよ。特別にその二人と会話する際には秘密は必要ない。レベル2を受ける意思があるかどうか確認してくれ。」
「うん。マリー=ルーとウォルク=キングはどこにいるの?」
探すための情報を整理しよう。
「定期報告によると、マリーはヴィオールの刑務所で依頼遂行中、ウォルクはリールダートの町にいるらしい。」
「ごめん、わからない。どこにあるの?」
目の前でトールマンが絶句している。
「アレン、ヴィオールもリールダートも結構有名だ。というか、自分の知らない土地に生まれたら、まず地理を確認したいと思わなかったか?」
「確認したくても、確認するものが無かったんだよ。」
「余程の田舎なのか・・・?まあいい。地図は渡すつもりだったからな。」
そういって地図を取り出してきた。各場所の説明を受ける。
ヴィオールはシマダ国を2000キロ程南に突っ切った所で、リールダートの町はヴィオールから更に2000キロ西にいった所であるらしい。
「帰り道の延長線上にあるね。連れてくるまで、凄く時間かかると思うけど。」
「今迄の君ならな。だが今は身体能力は飛躍的に上がっているはずだ。そんな時間もかかるまいよ。」
「友人と一緒に帰る約束をしてるんだ。」
残念だが、この試験はレオの不得意分野だ。試験に合格はできていないだろう。純粋な心の持ち主には、この塔は荷が重い。恐らくまだ近場の村か近辺で僕を待っているに違いない。
「・・・その友人は同じタイミングで試験を受けたレオ=ドクトル君か?」
「そうだけど?」
「そうか、折角だから、時間を調節して同じタイミングで塔から出してあげよう。だが、可能な限り早く二人と落ち合ってくれ。」
時間調節まで可能なのか。と冷静になったが、よくよく考えれば出来ない方が不思議だな。四次元乗りこなしてるし。
「わかった。報酬とかはあるの?」
「勿論だ。金銭だが、成功報酬5000万でどうだろう?」
「すごい金額だね、急に信用できなくなったよ。」
人を連れてくるだけで、5000万とか冗談にも程がある。
「そうなのか?君の村から此処まで、一般の人だと2年位かかるだろう。そこから更にリールダート迄1年程かかるはずだ。その往復分さ。」
「・・・・本人達が嫌だと言ったら?」
そもそも、レベル2試験を受けたいと思うかどうかは聞いてみないと分からない。場合によっては、都合で受けられなかったりするかも知れない。
「一応、定期報告で近況については理解できているつもりだが、本人達が確かに無理だという可能性はあるな。薄いと思うが・・・。」
「そうしたら無理には連れて来ないよ?」
トールマンは考えているようだ。顎に手を当てて眉間に皺を寄せている。
「うーむ。そういう事であれば致し方なしと言いたい所だが、もし何かの都合で彼らが手が離せない場合は、アレンも協力して解決してやってくれ。」
「それは構わないけど・・・・」
「費用については特価で上乗せするので、期待してもらいたい。」
そんな形で細部を詰めていき、概ねの条件は決定した。
「じゃあよろしく頼むよ。想定外の事態が発生した際には、定期報告に緊急と添えてくれ。そうすれば私が何かあったと理解できる。」
「知らせが届くまでに時間かかるんじゃ?」
「緊急の場合だけ、特殊な方法があるのさ。まあ狼煙と光の反射を使った原始的な方法だがな。」
なるほど、狼煙で注目させてモールス信号みたいなもので内容を伝えるのか。
「わかった、何かあれば定期報告で伝えるよ。」
「ああ、帰りに1階で自分の力がどれ程のものになったか確認してから行ってくれ。試験内容は最初と同じだ。」
それからアンナさんが迎えに来て、塔の一階で再測定を行った。
結果について、ドン引きした事は言うまでもない。
異世界転生のタグ付けたくなかった・・・・




