第二五話 レベルの差
嵌められた。
綺麗に嵌められた。
「やはり、此処で塔を降りようと思います。」
棄権の意思を伝えるが、リリさんはステキな笑顔に戻り、きっぱり拒絶された。
「残念ですが、塔を登る事を宣言してしまったので、もう無理です。」
「そこを何とか曲げていただけないかと、思う所存でございます。」
「7階につきました。こちらにどうぞ。」
どうやら僕の声は、彼女の鼓膜を振動させる事ができなかったらしい。
レベル3は絶対に拒否するという意思を固めつつ、ロビーのソファーに案内された。
「それでは、7階の内容について、説明させていただきます。」
「わかりました。」
人間いつか死ぬときは死ぬ。人間万事塞翁が馬。人生楽ありゃ苦もあるさ。
よし、諦めた。今まで諦めた物の中で一番大きなものだった気がする。
「基本的に行う事は6階と変わりません。ご想像の通り、深紅スライムの討伐です。しかしながら、方法が異なります。」
「どんな方法なんですか?」
嫌な予感しかしない。
「魔法で討伐して頂きます。深紅と普通に戦えるだけの存在値を得るまでになりますが。」
「スライムは魔法耐性があると思うのですが・・・」
「はい、ですが近距離では間違いなく瞬殺されますし、遠距離で吐かれる毒も結構な速度で飛んできますので、方法的には超遠距離からの魔法による狙撃になります。」
わざわざ耐性のある魔法で攻めないとならないほど、力に差があるという事なのだろう。
「深紅を倒せる回数を撃てるかどうかと、その間逃げ切れるかどうかがとっても心配なのですが。」
「アレンさんの魔力は6階の訓練で大体8倍程度になっているはずです。」
「そんなに増えているのですか?」
「はい。1階で測定した、アレンさんの魔術力は270Pでした。つまり今は270×8=2160の威力があります。深紅の耐久力は8000で抵抗値が50%なので、直撃8発で倒すことが可能です。」
うん、絶対無理。
「確実に間を詰められて、毒の餌食になるか、取り込まれる自信があります。」
残念ではあるが、できないものはできないのだ。
「毒に関しては、私が露払いします。接近されたら、私が足止めしますので全力で距離をとってください。」
「凄く頼もしいのですが、リリさんは深紅を倒せるのですか?」
「7階の管理者はハザードに備えて、深紅を単独で倒せる所まで強くなる必要があります。ですので問題ありません。」
強すぎだろ。下手な事言って怒らせなくてよかった。ただ・・
「8発か・・・・ホントにギリギリです。打ち切れるかどうかもわかりません。」
「最悪不足した場合は、私が倒します。ただ、それをすると存在値の吸収効率がとても悪いため、可能な限り頑張ってください。」
「その他、気を付けたほうがいいことはあるでしょうか?」
「深紅の一番恐ろしい点は、高い知能を持っている事です。当然、予想できない行動をとったりしますので、アレンさんが強くなるまでは、生き残る事を第一優先事項としてください。私のフォローが拙かった場合はすみません、先に謝っておきます。」
「大丈夫です。そういう場合には、文句は出ませんよ。枕には立つかもしれませんが。」
「それもごもっともですね、ではそろそろ行きましょうか。」
そういって運動場に移動する。
身分証をかざして扉を開けた先には、もう見たくない深紅のプールがあった。
「それでは、準備をお願いします。」
「わかりました。いきます。」
覚悟を決めて、魔法を構築する。
魔力を凝縮させ、さらに圧縮する。最初の一発目のは全力でお見舞いしてやる。
今までとは比べものにならない程の高エネルギーだ。すでに後はキャストするだけの状態になっている。
「準備できました!」
「では一匹出します。私はアレンさんとスライムの射線上でアレンさんよりにいます。私にはそれ当てないでくださいね!」
「努力します!」
それから一匹の深紅のスライムが放たれた。
同時に魔法をキャストする。
今まで聞いたことのない、激しい光と音と共に、深紅スライムに着弾する。
「よし!」
深紅スライムがこちらに動き出した。速い!陸上だと遅いんじゃないのか?!
「まだ一発目!続けて!」
リリさんから檄が飛ぶ。
再度、魔法を構築。
深紅スライムの移動速度が思ったより速い。すでに深紅スライムとの距離は半分に縮まっている。
構築完了、キャスト!
そして着弾!2発目!よくわからないが深紅スライムから怒りを感じる。なんか赤黒いオーラを纏いだした。
すると射程距離に入ったのか、深紅スライムが体液を飛ばしてきた。
「GUBAAAAA!!!」
凄いスピードだ!まずい、狙いが正確だ。
「私に任せて!」
リリさんが間に入り、魔法で体液を蒸発させる。
「距離をとって!」
リリさんから端的な指示が飛ぶ。
円を描きながら移動し、距離をとりながら魔法を構築。そしてキャスト。3発目の着弾だ。
死を感じている局面だからか、思った程連発が辛くない。威力だけでなく、回数の限界も底上げされているのか?
同じパターンで4発目、5発目とターン制であるかのように、①深紅スライムが体液飛ばす、②リリさんが弾く、③僕の攻撃が着弾④スライムが距離を詰める。⑤逃げるを繰り返す。
このままならイケると思ったが、そんなには甘くないようだ。深紅スライムが距離を詰めて、接近戦を選択した。
距離を詰められすぎると、魔法を撃つことができない。そうこうしているうちに、狭い所に追い詰められた。
「アレンさんは射線を保ちながら逆サイドへ!行きます!」
「わかりました!」
男性的には大変申し訳ないが、丁度リリさんを盾にする形で、場所のある方向に転換を行う。
「そのまま距離を取って!それまで食い止めます!」
バックダッシュで距離を取る。リリさんが体を張ってスライムの進行を止めている。
距離をとって、魔法を構築する。
「(距離が)取れました!、離れて下さい!」
「了解!」
凄いスピードでリリさんが移動した。今ちょっと見えなかったんですけど。
キャスト!着弾。6発目!構わず凄い勢いで深紅スライムが距離を詰めてくる。
「もう一度距離を!」
今度は後ろが空いているので再度バックダッシュして魔法を構築する。ちょっと深紅スライムとの距離が短いかと思ったが、構築が完了したので、キャストに移る。
「行きます!」
そう宣言した所で、スライムが体を震わせた。
「まだ近い!・・・まずい!」
リリさんがダッシュで深紅スライムとの距離を詰めた。
深紅スライムとリリさんとの距離が近いため、魔法をその場にキャストする事ができない。
正確にはキャストした魔法は上空に飛んでいった。
リリさんの態度に異変を感じた僕は、その場から距離を取ろうとする。
その瞬間、深紅スライムが[分裂]した。
「うそお!」
分裂した片方の深紅スライムAはリリさんが対応しており、もう一方の深紅スライムBは、盾を失った僕に全力で向ってきている。
スピード的に、もう魔法は間に合わない。
剣を取り出し、対峙する。赤黒いオーラが見れば見るほど禍々しい。
「おおおおおおおおお!」
迎え撃つ以外選択肢はない。
深紅スライムBとの距離がほぼ0になり、自棄になった僕は剣を振り上げて全力切りつけた。
そんな僕の全力も虚しく、切りつけられた深紅スライムBは何事も無かったように、エサ(僕)を取り込んだ。
足掻く事もできず、あまりの衝撃と全身に走る激痛で、僕は強制的に意識を絶たれる事になった。
第二八話までは書いてあります。
此処まで駄文をお読みくださり、まことにありがとうございます。




