第二二話 回顧
「待たせたな。」
食事をいただき、ロビーのソファーで座っていると、ルックさんが帰ってきた。
「ちょっと色々難しくてな。整理するのに時間が掛かったのだよ。」
「そうですか。」
でしょうね。自分でも言ってて無理がある所多かったし。
「うむ。それで結果を伝えたいのだが準備はよいか?」
「はい。お願いします。」
僕は不合格でも構わないが、この間は嫌だな。
「おめでとう。アレン君。合格だ。5階へ移動する権利を与える。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「5階に行くかね?」
「はい。お願いします。」
「うむ。5階には私も同行する。」
そう言って、早速5階に移動した。4階は2時間程しか滞在していない。
自動扉が開く。
そこには見慣れた同じ作りのフロアに、これまでの受付が勢ぞろいしていた。
アンナさん、タールさん、リリさん、それと一緒に来たルックさんとロビーの周りに集まった。
「5階は皆さんで受付ですか?」
皆が目線を合わせた後、代表してアンナさんが話だした。
「いいえ、私だけです。他の方はアレンさんに興味を持ってきました。ともあれ、4階迄お疲れ様でございました。」
「いえいえ、貴重な経験をさせていただきました。」
アンナさんは分厚い書類を手に持っている。どうやら何か説明したいようだ。
「5階迄来られたアレンさんに、ちょっと状況を説明させていただきますね。」
「状況ですか?何か変化があるという事でしょうか?」
ここから先はとても厳しくなるという事であれば、迷わず田舎に帰りたい。
「変化というよりも、試験が終了しましたので、今後の事を説明させて頂きます。」
「え?」
「水上の塔は2~4階迄の3フロアが一つの認定試験となっており、総合的に合否判定が行われます。」
「はい?」
「そしてあなたは見事合格されました。アレン=ハート様。おめでとうございます。」
「ありがとうございます?」
とりあえずお礼を言ってみたものの、頭の整理が追いついていない。つまりこれから何が起こるのだろうか?
「これからの事が気になっていると思いますが、今後の予定の前に、学習して頂かなくてはならない事があります。」
「はい。学習ですか?」
「そうです。こちらがその資料になります。」
そういってアンナさんが手に抱えている資料が、ドサリという音と共に机に置かれる。
「まさか・・・これ全部?」
「さすが、試験合格者。鋭い洞察力ですね。テストもあります。」
洞察力とか関係ないと思うんだ。
「この資料には何が書いてあるのですか?」
「至極簡単にいうと、学習の要綱は2つです。1つはこの塔の成り立ち。もう1つは強さの理解です。」
「成り立ちは分かりますが、強さの理解とはなんでしょう?」
「アレンさんならきっとご理解いただけるはずです。一言では言えないので、学習しながらお伝えしたいですね。」
「そうですか・・・・。」
資料の厚さに気がめいるな。文字読めてほんとによかった。
「それでは準備が整いましたら、始めさせていただきます。3階出たときから休憩されてませんよね?」
「はい。このままでも少しなら大丈夫ですが、この資料の厚さを見たら、休憩が欲しくなりました。」
「それでは雑談と食事でもしながら休憩にしましょう。」
そう言って休憩室に移動した。
相変わらず美味しそうなものが並んでいる。今日はバイキング形式らしい。
・・あれは一階で食べた料理だ。・・あれは見たこと無いかな。などと食べ物に目移りしていると、取り分け用の小皿にあふれんばかりに料理を乗せたタールがやってきた。
「2階ではお疲れだったな。俺はあの時点で合格を確信したぜ!」
「その際にはお世話になりました。」
「何も世話してねえけどな。とにかく期待の星だ!これから頑張ってくれよ?」
「期待の星?」
そこはかとなく、嫌な予感がする。危険察知用のアンテナが反応している。
「そうだ!あとから説明があるがお前は特別強くなれる。」
「そうなんですか?実感ありませんけど?」
「はっは!あとからのお楽しみだ。詳しい事はアンナに聞け!」
「根拠がよくわからないので、何とも言えませんね。ですが、友との約束があるので出来る限り頑張ってみますよ。」
「ほう?友か!故郷に残してきたのか?」
「いえ、一緒にこの塔まできました。レオといいます。」
「レオ・・?そいつは無鉄砲で大飯食らいの上、お調子者か?」
間違いなくその人です。色々失礼な事を言っていたら、代わりに謝罪いたします。
「そうですね。身長は180cm位です。」
「おお、覚えているぞ。」
「彼は無事合格できたのでしょうか?」
「それは言えない事は知っているだろう。外で会えば分かるさ。」
「そうですが・・・・気になりますね・・・」
「だろうな、だがこの話は終わりだ。めんどくさい勉強が待ってるが、アレンなら問題ないだろう。頑張ってくれ。」
「ありがとうございます。」
そう言ってタールはテーブルに去って行った。
自分も合わせて料理を適当に取って、席につき食事をとろうとした時、リリさんがやってきた。
「合格おめでとうございます。相席いいでしょうか?」
「もちろんです。どうぞ。」
あいかわらず綺麗な人だ。アンナさんは才色兼備、リリさんはアイドルという感じだな。
「パーティー試験で完全合格がでたので、もう少し難易度を上げようと思います。」
そんな事を言いながら、柔らかい笑顔を湛えている。
「・・・・」
お互い笑顔だが、意味合いが全く違う。
リリさんは新しい迷宮を楽しそうに考えて笑っているが、自分のはただ固まって絶句しているだけだ。
あれ以上の難易度にしたら、生きて脱出する事が難しくなると思う。間違いない。
「そこで、ちょっとお知恵をお借りしたいのです。」
「私がですか?」
「そうですよ?完全合格したのはあなただけですから。」
僕の方が性格悪いって言ってるように聞こえるのは被害妄想でしょうか?
「・・・・僕は、後から来る人に恨まれないでしょうか?」
「そこは安心できると思います。試験を恨む事しかできないような人は、大体不合格でしょう?」
「そうですか・・・」
じゃあ自分も不合格だな、とは口が裂けても言える雰囲気ではない事は、皆に了承して貰いたい。
「何かアイデアはないでしょうか?」
リリさんは前のめりに聞いてくる。近いです。レオなら死んでます。
「そうですね、では、逆に時間を延ばしたり、取れる可能性のあるリングを増やすのはどうでしょうか?」
「どういうことでしょう?」
腑に落ちないのか、リリさんが訪ねてくる。
「あまりにも、試験に「必要なパーツ」がピッタリなんですよ。あの迷宮に対する必要人員と経験、各職種の能力、そして時間。だから、最後は未だ使っていないパーツ、ルートさんの土系魔法はどこで使うべきなのか考えていたんです。」
「成程ですね・・・・」
リリさんは感心しているようだ。少しだけ気分がいいな。
「なので、「余剰のパーツ」を逆に何個か与えてあげれば、分かりにくくなるとは思いますけどね。」
「此処まで来るともう流石としか言えません。尊敬します。」
笑顔のリリさんが更に前のめりになる。レオなら昇天しています。
「その尊敬はあまりこう・・・向けてほしいと思わないというか・・・」
ちょっと引き気味に答える。心なしかリリさんは残念そうだ。
そんな微妙な空気の中、ルックさんがやってきた。
「私も、会話に混ぜて貰えないかね?」
「あ、私はそろそろ失礼します。お時間ありがとうございました。」
そういってルックさんと交代する形でリリさんが席を立とうとする。
「すまないな。」
「いえ、お気になさらず。最後にアレンさん。」
「なんでしょうか?」
「アドバイスありがとうございました。またお時間がありましたら是非。」
そう言ってリリさんは飲み物を取りに去って行った。彼女なりにミッションに対して一生懸命になっている結果、あの迷宮が出来たのだと信じたい。
「アレン君も邪魔してすまないな。」
「邪魔ではありませんよ。どうぞ。」
そういって座ってもらうように促し、座ってもらう。
「ちょっと責任者と話をしてきてな。本当は禁止なのだが、試験の内容について少し話したい。」
「僕に話して問題ないのでしょうか?」
「普通であれば問題だがな。今回は特別という事だ。正直に言って、合格判定を出したのは私ではない。」
ルックさんは難しそうな顔をより一層難しそうにしている。見ていて疲れます。
とらえ方によっては落ちてもおかしくない回答だったが、常識的とは言い難い内容だったからかな?
「では誰が?」
「結果的に採点したのはその責任者になる。そもそも先程アンナが言っていたように、試験の合否は3フロアの合計点だ。」
「覚えています。」
「その内の私のフロアだけ、点数をつけることができなかった。そこで責任者が代行して採点した訳だ。」
「そうなんですか。」
その責任者も前衛的な考えする人なんですね。間違いなく皆さん苦労してますね。
「うむ。そこで私なりに腹落ちさせるため、追加の質問を責任者に許可を取ってきた。今まで許可は下りたことがなかったが、最高点での合格者がでた時点で内容が変わるため、問題なしとなった。」
「はあ。左様ですか。」
「そこでだ。アレン君に質問したい。4階でも聞いたが、試験の本質はなんだったと思う?」
「本質ですか?人格が破綻していないかとか、頭が悪くないとか人物判定でしょうか?」
「茶化してくれるな。それも確かに間違っていないがアレン君は理解していただろう?」
「理解できているかどうかはわかりませんが、何となく思ったことはあります。」
「話して貰えないだろうか?頼む。」
そういってルックさんが頭を下げた。
「ちょっと!話しますよ!頭を上げてください。」
「ありがとう。」
ルックさんが頭を上げる。僕はため息をつく。
「4階の試験で問われている事は、勇者の力を得た人間が、物事を解決する時に勇者の力をどのように使うかという事だと仮定しました。」
「そうだ。それが正解だ。それこそが題意であるのに、アレン君、君はその力を使っていない。何故かね?」
やっぱりその質問くるよね。
話が長くなる事を覚悟して、会話を切り出す。
「その問いに対する答えは、1階の測定と2~3階での試験も考慮する必要があります。」
ルックさんの他に皆が聞き耳を立てている。話しづらい。
「まず、1階の測定ですが、塔に登れば勇者の力を手に入れられる事が分かっているのに、何故測定する必要があったのでしょうか?」
「それは、2~3階の試験の難易度を決めるためよ。」
アンナさんが、話に割りこんで来た。
「いきなりそれを質問されそうになったから、話を打ち切ってしまったわ。」
そういえば、レオが質問したタイミングで打ち切ったな。
「はい、疑問はそこから持っていました。そして2階では事件に対する解決力を求められました。」
「なかなかできねえけどな。カネナリの赤を倒して金が手に入るってなりゃ普通浮かれるんだが。」
今度はタールさんだ。
「僕は変わっているのでしょうか・・・・。」
軽く落ち込む。いつもレオに変わり者と言われていたからなぁ・・・。
「いや、そういう訳じゃない。勇者は用心深くなければいけないからな。失敗したら次が無い事が多い。」
「慰めてもらってありがとうございます。そして3階では、パーティーの調和と機転が求められました。」
「そうですね。協調性は力を持ったものにとって、非常に大事な事だからです。」
リリさんも興味があるらしい。
「結果、2階と3階で、求められたものは突出した力ではない別のものでした。逆に個人の力を使ってしまうと、うまくいかないように誘導されていたと思います。そして、4階に至っています。その流れで勇者の力を振りかざす事が必要な問題が出るでしょうか?」
ルックは納得がいったようだ。何度も頷いている。
「うむ。理解できた。ありがとう。」
「いえ、どういたしまして。題意に合うかは分かりませんでしたが、添えるように努力したつもりです。」
「そうか。それでは、今後の学習とテストも頑張ってもらいたい。」
そういって一旦解散となった。
皆がそれぞれスッキリした顔をして休憩室から出て行った。
「はぁ・・なんか疲れたな・・・」
僕の他には、ため息と旬を逃した冷め切った料理だけが、この部屋に残る事を選んだのだった。




