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勇者の塔  作者: 正十郎
21/30

第二一話 なんちゃって民主主義


そして4階。


テーブルトークで合否がきまるらしい。試験官はルックさんだ。


「これから、君の置かれている状況を箇条書きで説明していく。全ての条件からお金の使い方と君のとる行動、考え方を教えてくれ。制限時間は私が話し終わってから一時間だ。それとその一時間の間には私に質問もしてもらってかまわない。一時間後、答えを聞く。」


「はい。」


「一つ目、戦争があったばかりで、治安が乱れている町がある。領主が倒れたため、領主代行を依頼するための書類を持った宰相が、君の元を訪ねてきた。」


「二つ目、領主代行の期限は、二週間だ。」


「三つ目、領主代行は町からでる事は出来ないが、町の中は自由に移動する事ができる。」


「四つ目、町には、奴隷商が横行している。その奴隷商に不法に捕まり、奴隷に落とされたものがいる。」


「五つ目、町には、収入が得られず、高利貸しから借金をし、返すためには命で返すしかないものがいる。」


「六つ目、町には、病気の母を抱え、母の薬を買うことが出来ず、体を売って日銭を稼いでいる少女がいる。」


「七つ目、町には、浮浪者があふれている。」


「八つ目、領主代行を務めるに当たり、君は一億の特別予算を執行する事ができる。」


「以上だ。この状況で、領主代行として、君の取るべき行動、考え、一億の予算の使い道を教えてくれ。」


そう言って、ルックはテーブルの上の砂時計を返した。


「質問してもいいですか?」


「うむ。問題ない。」


「領主代行は、領主と全く同じ権限があるのでしょうか?あと、依頼された理由は何故ですか?」


「そうだ。全く同じであると仮定してよい。依頼された理由は、君が勇者の力を得ているからだ。」


「そうですか。その前提でお聞きします。」


「お金の使い方、考え方、行動を示せと仰ってますが、それは何に対してでしょうか?」


ルックは少し楽しそうに答えた。


「何に対してとはどういうことかね?」


「例えば、私の目的は何なんでしょうか?貴方の質問には目的が抜けています。領主に対してよい代行をすればよいのですか?」


「それは君が判断する事だ。」


「それとも、民に対してよい政治を行えばよいのですか?」


ルックはさらに楽しそうに答えた。


「それも君が判断する事だ。」


「それは賭けですね。では私の価値観で回答させていただきます。」


「それでよいとも。」


おそらく後者が正解なのだろう。レオの場合は前者を想定すらしていないと思う。


そんな条件を念頭に、考えを纏める。丁度時間の4分の3程度が経過した。


「じゃあ、回答する前に私が今からいう前提が異なっていたら、教えてください。」


「いいとも。」


「一つ目、領主からの代行依頼自体の依頼元は不明、但し、宰相以上。加えて領主は倒れていない可能性もある。」


ルックの眉毛が上がる。食いついた顔だ。


「二つ目、領主代行の期限は、期限が有限である事を示せればよく、特に理由はない。」


「三つ目、領主代行の移動範囲の制限があるのは、外的要因を除外するため。」


「四つ目、町には、違法な手段で利益を得ているものがいる。」


「五つ目、町には、適法な手段で生活しているものもいる。」


「六つ目、町には、違法な手段で生活しているものもいる。」


「七つ目、町には、適法な手段で利益を得ることができないものが多い。」


「八つ目、一億の特別予算は大金だが、そのまま町を活況とするには不足し、工夫して使う必要がある。」


ルックはさらに楽しそうにしている。僕の言わんとしている事は期待に添えているのだろうか。


「正しい。」


「此処まではそのまま条件を読み替えただけですから。」


「そうか?要件を端的に纏めるのは中々これで難しいのだがな。」


お世辞はスルーだ。絶対に一泡吹かせてみせる。


「ええ。続けます。」


「いいだろう。」


「ここからは条件を単独でなく、複数使って推論します。というより、凄く簡単に纏めます。」


「ほう。」


「戦争のため、経済が崩壊。つられて政治も崩壊。治安が乱れて復興の目途が立たない。これが現状。」


「うむ。」


「で、この状態での最高権力者になったら、私が何をするか?これが質問。条件は一億の金を使える事。」


「そうだな。」


「つまり、私が問われているのは、最高権力者の間に、経済を復興させ、政治を立て直し、治安を良くして、戦争を避けられる基盤を作成する方法。」


ルックは静かに聞いている。


「そして、その手段の正当性を判定しようとしている。」


ルックはわずかに目を見開いた。恐らく題意として遠くないものなのだろう。


「最後の問いには答えられない。だがその他は正しい。」


そういって一つ呼吸を置き、再度口を開く。


「では、君の取る行動、なぜそう考えたか。金の使い道を教えてくれ。」


「私の取る行動は、借金です。」



「は?」



ルックさんは驚きの顔を隠せないようだ。少し間があいて会話が続く。


「なぜ、そう考えた?」


「導入と維持の観点から行動を決めました。まず、直接の原因である戦争を避けるためには敵より強くある必要があります。」


「うむ。」


「強くあるには外向けの軍隊が必要で軍隊の維持には金がかかる。つまり、税収が必要であるということです。そして税収を得るための経済基盤を作るには、何もない所からですと政治主導の公共事業を行う必要があると思います。加えて治安を良くするには内向けの軍隊が必要になるでしょう。」


「外向けの軍と内向けの軍か。メモを取るのでしばし待ってくれ。」


そう言ってメモを取っている。


「続けてくれ。」


「軍は傭兵などの人材を使う。これで外向きの軍隊と内向きの軍隊を作る。物資については無いのだから他国から仕入れる他ないですね。此処までが導入ですね。」


「ふむ。質問点は後で聞いた方が効率がよさそうだ。」


ルックさんのメモが2枚目に移行する。


「問題はそれをするための金をどのように行うかですが、結論から言うと、領民に借金する事にします。つまり、紙幣を刷ります。」


「金の使い道は?」


「一億はこの紙幣を作る費用に充てる予定です。加えて、作成した軍によって不当に利益を得ていた者を取り締まり、領地に懲罰金を払わせます。」


「では、少し質問させて貰おう。」


そういってルックは体を少し前傾させた。


「金を刷ったら、金の価値が下がるだろう。つまり紙切れになる。そんな金でどうやって経済基盤を作るのか?」


「経済基盤に必要なのは、安定した政治と外貨の獲得能力と考えます。どんなに金を刷っても、領地内外でその金が交換、利用できていれば問題ありません。つまり領地として外貨を稼げれば、多少の金の価値の低下は問題ないと考えます。まあ、多少領内の物価は上がるでしょうが。」


「どのように外貨を手に入れるのかね?」


「最初は土地を担保に、敵対していない国から借ります。」


「それでは土地を取られて、終わりなのではないかね?」


その質問はもっともだが、回答は用意してある。


「そしてその金で大規模工場を作ります。人手はありそうですから。各個人商店が作成しているようなものを一手に引き受け作成して商店に卸します。それも国外の。人件費は元々浮浪者を雇うのですから、安いに決まっています。つまり、大量に安い人件費で物を作るのですから、価格で負けようがない。つまり売れる。初期投資として国外から買わなくてはならない物資は借りた外貨で払います。」


「政治については?」


「今まで言ったことを行う為には、今までのように領主が王として君臨し、好き勝手をやっていたのではできません。さらに戦争が起こった原因も、攻められたにせよ攻めたにせよ、政治にあると思います。強い国を作れなかったから自国が争いの場になるような戦争が起こるのです。」


「具体的にはどのようにするのかね?」


「政治を行う権利と義務を、領主から、民の選抜者での合議体に移譲します。」


ルックが目を見開いた。そりゃそうだ。常識じゃないんだから。


「民の選抜者とは何かね?」


「例えば村長ですね。村長は領主と違い、村民によって、その時一番相応しいものが抜擢されます。そもそも領主から認められた役職ではないので、世襲制がありません。その村長を集めて、政治を多数決で決定させます。そうすれば、全体としてよい方向に向かうはずです。何より、政治の帰結が自己に帰ってくる訳ですから、よい政治を行うでしょう。」


「領主はどうなるのかね?」


「領地の象徴になってもらいます。実権はありませんが、代表者である事に変わりはありません。尚且つ合議体の決定には従ってもらいます。おそらく何かの事情があって領主代行を頼むのでしょうが、その間に行政に関する権限が全く無くなっているわけです。ビックリですね。」


ルックさんは難しそうな顔で、頭を掻いている。


「なんか的を得ているようではあるが想像が難しいな。」


「いやぁ、それほどでも。」


「それに、この短時間でその回答がでる事が驚きだ。どのような環境で育てばそんな考えを持つに至るのか?」


「田舎の農家で兄弟は二人です。」


一気にルックさんの目が平らになった。僕とおそろいだ。


「ふっ、詮索はすまいよ。ではすぐ戻るので、しばしお待ち頂こう。」


その後、休憩所と食事の案内をされ、ルックは扉の奥に去って行った。





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