第十八話 深紅
「何でも?」
「そう書いてあるのう。そうは言っても常識の範囲内じゃろうけどな。国のお偉いさん程度になら成れるかもしれんな。」
「そうか。」
そういって俺は興味のない振りをする。ひょっとしたら勇者の塔に再挑戦できるかもしれない。
ぐっと興味が惹かれるが、アレンの警戒網を避けなければならない。
「絶対ダメだからね。」
既にバレている。こいつの探知機は10km先のネズミも見逃さない。
「わかってるよ。無理はしないさ。」
「無理とかいう前に死ぬからね。」
こうなったアレンはもうブレることはない。話題を変えて誤魔化そう。
「食料が無い今、もう宿屋待機しか選択肢がないんだ。明日旨い食肉でも狩りにいこうぜ。」
「しかたないな。森には行かないからね。」
「わかってるよシツコイな。」
そういって町長にお礼と別れを告げ、宿に戻って休む事にした。
帰る途中、酒場でお酒と保存のきかなそうな食料を頂いた。
宿について、特にやる事はない。早速アレンと二人で酒を飲んだ。
アレンは酒が大層お気に召したようだ。
ガバガバ飲んで、俺にも進めてくる。
「アハハー、レオも飲みなよー。」
「飲んでるって。自分のペースで飲むからいいよ。飲みすぎには気をつけろよ。」
そういって俺も飲む。酒の入っていないジュースを。
その後もアレンは結構な量を飲んでいた。底なしかこいつは。
しばらく経つと、アレンの様子が変わり始めた。
「なんかちょっと、調子が悪い。」
「飲みすぎだ。」
やはりアレンは飲みすぎで気分が悪くなったらしい。
直ぐにトイレと部屋を往復し始めた。
「気持ち悪い。世界が回る。レオが3人いる。」
「大丈夫か?」
大丈夫じゃない事は見ればわかるが一応確認だ。
「僕が死んだら、実家の母に僕はあなたの本当の子供ではありませんと伝えてください。」
「自分で伝えろよ。そもそもだが普通逆だろ。」
アレンはふらふらとベットに移動した。
「ごめん、もう寝るよ。」
「わかった。おやすみ。」
「おやすみ。」
その日は、そのまま就寝した。
翌日。
そこには見事な二日酔いを体現したアレンがいた。
「水。」
「はいよ。」
焦点の定まっていない目でコップを受け取り、水を飲んでいる。
「トイレ。」
「それは持って来れない。」
今度は地面を這って、トイレに移動している。気持ちは分かるが見ていて痛々しい。
そんなアレンに食料を調達してくる事を伝え、外に出た。
もちろん行先は、深紅のいる森だ。
「何があっても、お前のせいじゃないからな。」
そう独り言を残して、昨日依頼を受ける時に見た深紅のでる森へ向かった。
「このあたりだと思うんだが・・・・・」
辺りを見回す。なかなか見つからないものなんだな。
赤がでる時は、周りがうるさくなるから分かり易いもんなんだと思ってた。
探している内に、依頼にあった例の薬草を見つけたので、ポケットにしまっておく。
しばらく探して森を彷徨うと、猛烈な悪寒が走った。
剣を抜き、身構える。
岩の影から、深紅の魔物がゆっくり現れた。
「人間め・・・我の眷属を襲い、尚足りないか・・・」
「誰だっ?」
それは、禍々しい赤い瘴気を纏い、大きな狼の形をしていた。瘴気が濃すぎて、向こう側を見ることができない。
知らない魔物だが分かる。こいつはヤバい。本能レベルで負けている。
「死ね。」
有無を言わさず深紅狼が飛びかかってきた。死を予感すると時間の流れが遅くなるってじいさんが言ってたが本当なんだな。
本来ならば知覚もできないスピードなんだろう。
狼の爪が冷たい空気を裂きながら振ってくる様を、俺は何もできずに見ていた。
それは、爪が俺の体に届く直前の瞬間だった。
何かが俺の横を、狼の爪を上回るスピードで走り抜けた。
そして世界の速度が元に戻る。
「ぐぎゃあああああああ!」
深紅狼の叫び声が響く。
瘴気が消えていくと共に、狼が袈裟切りに一刀両断されている姿が見えた。
そして。
その向こうに立っていたのは、悲しそうな顔のアレンだった。




