第一六話 噂の英雄
「残念だが、 レオ君は不合格だ。一階に繋ぐので塔を降りるように。」
「なんだって?!どうしてだ?理由を教えてくれ!」
立ち上がって問い詰める恰好になってしまった。
「それを説明すると思うかい?」
はい、そうですかと諦める事ができない。今までの試験は問題なくクリアできて、こんな訳の分からない問題で不合格など、納得できるはず無かった。
「全て説明されないのは分かっているが、遥々ここまで来て、納得のいかないまま帰れない。理由の破片だけでも、教えてくれないか?」
「残念だが説明する事は叶わない。」
その後も何度かお願いしたが、退くことはなさそうなので諦めるしかなかった。
人生の希望を失って、視界が真っ黒になる。
それから、塔を出るまでの事は覚えていない。
ただ、失意の中で黙々と受け答えの何が問題だったのかを考えていた。
しばらく考えに耽っていると、聞き慣れた声に呼び戻された。
「よかった!死んでない!」
振り向くと、そこには、アレンが立っていた。
丁度、塔から出てきた所のようだ。アレンも今出てきたってことは俺と同じ「不合格」なんだろう。
「俺が死ぬかよ。お前のほうが心配だったさ。」
お互いに色々察した所で、帰る話になった。どうせ塔の中の事は規約で喋れない。
酷い寒さと氷の世界はここに来たときと違って酷く軽薄に感じた。
「またこれ帰るのか・・しんどいなぁ。」
「確かに。でも行きと帰りで違うことがある。」
ちょっとアレンが逞しくなっているように感じる。懐に手を入れながら、
「ふっ。塔に来た成果の一部を見せる時が来たようだ。」
「まさか!?」
アレンは勇者の力を得たというのか?!
そう言ってアレンは懐から美味しそうな弁当を取り出した。
「後で食べよう。」
やはり、気のせいだったようだ。
帰り道、氷の大地をようやく抜けた俺達は、行きでも泊まった北ムルカス国サーサ地方のサギサ宿場町に一泊する事になった。
到着した町は、喧騒に包まれていた。人が出たり入ったり、忙しそうだ。そんなに大きな町ではないのだが。
丁度宿場町に入る手続きのため、並んでいた列でお隣だった商人に噂話を聞いてみる事にした。
「何事だ?慌ただしいな。」
「ああ、近くの森に深紅が出ちまったらしい。今討伐隊が組織されてる。」
「深紅か、噂だけは聞いたことがあるな。何分田舎出身なんで経験がないんだ。」
「今、街中じゃあ深紅に生死を問わずで懸賞金が掛けられてるよ。ハンターを集めてるらしい。」
「へぇ、いくらなんだ?」
「まさか、いかないよね?」
身の危険を感じたのか、アレンが割り込んできた。
「いや、聞くだけだ。どんな奴かもわからないのに行っても死ぬだけだろ。そんなにアホじゃないぞ。」
そういって商人に向き直る。
「金額は確か一人1千万だったかな?」
「ひゅー!10年遊んで暮らせるな!」
アレンがカッと目を見開いて言った。
「見えた!行ったら死ぬ。金額を頭数で割らないとか、10人参加したら、依頼主1億出すんですよね?そのレベルの敵って事ですよね?」
「そうだな。まともな奴は行かないよ。ただ、今あの英雄を隣地方から呼んでるんだ。その人が行ってくれるらしい。」
「あの英雄?」
「そう!あのリトラン=ウォーカーだ!すげえだろ!」
「「誰?」」
「知らねえのかよ!まあいろんな噂があるから、聞きたきゃ酒場でもいけ。じゃあな。」
そう言って親切な商人は去っていった。何か入用なものがあったらあの人から買おう。
興味が湧いた俺は、宿を取った後、アレンを連れて酒場に繰り出した。
「ハンターっぽい奴見つけて、英雄の事聞いてみようぜ!」
「そんなお金はありません!僕ら路銀も怪しいだろ。」
「いや、手に入れた経緯は言えないが、あるよ。お前ないの?」
「ないよ。」
「じゃあ奢るから付き合えよ!」
そう言って酒場の中に入り、カウンターの男に酒を二人分頼む。一気に飲むと意識が飛ぶので、一口づつ味わって飲む。
そうやってチビチビ飲みながら、英雄の事を聞くために、知ってそうな人がいないか店内を見回す。
アレンがこっそり2杯目を注文しに行った。飲めたのか。だが既に足取りが怪しいぞ。
すると、ちょっと年上だろう無骨な剣を帯剣した人が酒場に入ってきたので聞いてみる事にした。
「今この町に来てる英雄って知ってますか?」
一応、聞く立場なので慣れない敬語で聞いてみた。
「ん?ああ、まあな。」
アタリ!知ってる人だ。
「その人の事教えてくれ!英雄ってどんな人なんだ?」
もう敬語は忘れた。
「その英雄の名前はリトラン=ウォーカーだよな?」
「そうだ、そんな名前だった。」
「知らねえのかよ!ははは、気さくないい奴だぞ。人類最強って言われてるな。」
いい奴なのか!ひょっとしたら強くなる方法とか教えてくれるかな?
「そうなのか!何やって英雄って呼ばれてるんだ?」
「戦争で勝った国の傭兵だっただけだ。負けてたら英雄じゃなくて反逆者だったな。」
「知り合いなのか?」
「もちろんだ。誰よりもよく知ってるさ。」
アレンが俺をつついている。
聞きたいことがあったら、自分で聞け。そう思って無視をする。
「そいつ、強いのか?何やって強くなったのかな?勇者の塔登ったのかな?」
「強い部類には入るだろう。人類最強って言われている位だからな。傭兵だから戦って強くなったんだろ。勇者の塔の話については知らないな。」
「そうか。実戦か。」
勇者の塔にもう登れない以上、強さを手に入れるには、やはり実践で強くなるしかない。
心の中で新たに決意を固めていると今度は逆に話しかけられた。
「お前名前は?」
「レオだ。レオ=ドクトル。やりたい事を探して旅してるんだ。」
「そうか、レオ。あまり焦らず探すのがいいだろう。少々レオはせっかちなようだ。」
そんな会話にアレンが入ってきた。
「煩くしてしまってすみませんでした。もう撤収しますので、楽しんで下さい。」
「なんだよ、アレンまだ話してるだろ。」
「疲れてると思うよ?」
そういってアレンは目の前の男を見た。前の男は軽く笑い、
「すまないな。ひと段落したら、ここで飲んでるから君達も一緒に飲もう。」
「ありがとうございます。」
そういって俺はアレンに連れられ、宿屋に帰る事になった。




