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世界一位の続き 〜VRMMOのLv999が現実に残ったので、ゲーム知識で東京と異世界を攻略します〜  作者: 雅龍(がりゅう)
第一部 東京・王門

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5/19

技の終わりを変えてみる

夜の九時を回っても、地図の赤い点は消えなかった。


避難所になった区民センターの前で、俺とユイは一時間だけ休むことにした。乾パンをかじりながら、配られた毛布の端に座る。電車は止まり、道路は救急車と消防車で埋まっていて、テレビの中では、世界中の都市で似たような映像が流れている。ニューヨーク。ソウル。ロンドン。


どこも、全部が壊れているわけじゃない。駅一つ、公園一つ、交差点一つ。そういう単位で、向こうの何かが滲み出している。


「レイ」


ユイが毛布から顔を出した。


「天断、さっき撃った時さ」


「うん」


「舗装、二十メートルくらい削れてた」


「……見てた?」


「見てた。あれ、奥に人がいたらどうなってた?」


分かっている。撃った瞬間、手応えより先に、刃の先がどこまで届くかを考えた。考えて、あの角度なら誰もいないと判断したし、その判断は合っていた。


でも、毎回、奥が空いている保証はない。ゲームの天断は、放ったら最後まで飛ぶ。射程は決まっていて、止める操作はない。


「止められるか、試したい」


「どこで」


俺は地図の、灰色の区画を指す。再開発で立ち退きが終わった、更地と空きビルの並ぶ一角で、赤い点が一つだけぽつんと光っている。


「ここ。人がいない。たぶん小物が一匹」


「たぶん」


「行けば分かる」


ユイは毛布をたたんだ。


「私も試したいことある。行く」


更地には、フェンスと雑草と、潰れた自販機がある。赤い点の正体は、膝の高さほどの岩蜥蜴が三匹。ゲームでは初心者が最初に倒す、尻尾の硬いトカゲだ。


「三匹いたよ。たぶん一匹って言ったのに」


「たぶんって言った」


「言い訳が早い」


一匹目は、普通に斬った。二匹目で、試す。


天断を放つ。ただし、刃から光が離れた直後に、自分の中の流れを――握る。剣を振り切るのではなく、振り終わりの手首で、出ていく魔力の尻尾をつかむ感覚。


光が、蜥蜴の三歩手前で弾けて散った。蜥蜴は無傷で、ぽかんとこっちを見ている。


「止まりすぎ」


「止まりすぎたな」


「三歩手前で止まってどうするの」


「今のは練習だ。今のは」


もう一度。今度は、握るのをわずかに遅らせる。刃が蜥蜴の身体を抜けて、その一歩奥で、ふっと消える感触があった。


蜥蜴が二つに分かれた。その後ろの雑草は、一本も揺れていない。


「……あ」


「おお」


ユイが身を乗り出す横で、俺は自分の手を見る。ゲームでは、どれだけやってもできなかった。発動したら最後まで決まった通りに飛ぶ、そういう仕様だった。ここでは、最後まで自分で触れる。


【技能派生:天断・短止】


視界の端に、小さな表示が出た。


「名前ついた」


「何て」


「短止」


「そのまんまだ」


「分かりやすいのはいいことだろ」


心臓がうるさい。新しいスキルツリーが、目の前で一本、勝手に生えた。


もっと試したい。もっと短く。もっと鋭く。止める位置を、刃先から一センチで――


「レイ。顔」


「顔?」


「ゲームで新ボス見つけた時の顔してる」


「してない」


「してる。口が半開き」


閉じた。


三匹目の蜥蜴が、俺たちの言い合いの隙に逃げようとしている。それも短止で斬ると、今度は狙った場所の三十センチ奥で消えた。まだ荒い。でも、つかんだ。


「ユイの試したいことは?」


「これ」


ユイが手を上げると、いつもの結界が更地に一枚立った。ゲームでは、張ったら固定。位置を変えるには、一度消して張り直すしかなかった。


彼女はその端を見つめて、指を少しだけ動かす。


結界の右端が、きし、と音を立てて――手前へ一歩分、折れた。


「……動いた」


「動いたな」


「張ったまま、動いた」


ユイの目が、さっきの俺と同じになっている。


「ユイ。顔」


「うるさい」


彼女は結界の端を、また動かした。今度は奥へ、それから上へ。消さずに、形だけを変えていく。


「これ、すごいよ。張り直さなくていいなら、避難の途中で通路の幅を変えられる。人が詰まったら広げて、魔物が来たら狭めて」


「仮設の動線を、本番中に変えられるわけだ」


「そう。そうなの。搬入口を開けたまま、客の動線を……ごめん、仕事の話」


「いいよ。分かる」


分かる。俺にも、今のが仕事の話じゃなく、ユイが一番好きな種類の話だということくらいは。


更地のフェンスにもたれて、二人で少し休んだ。夜風が冷たく、遠くでサイレンが鳴り続けている。


「私たちだけかな、これ」


「何が」


「技が変わるの。レベル上限がないのも」


「たぶん違う」


俺は、さっきから視界の端にちらついている通知を開いた。フレンド一覧のオンラインの表示に、何十人もの名前が今もつながっている。


「ゲームでできなかったことが、ここではできる。俺だけの特典じゃなくて、そういう世界になったんだろ」


「じゃあ、みんな強くなれる」


「なれる。俺も負けないけど」


「出た」


「事実だろ」


ユイが小さく笑って、それから真面目な顔に戻る。


「戦えない人のほうが、多いよ」


「ああ」


さっき角材を運んでくれた男性は、レベル一だった。避難所にいた人たちの大半も、たぶんそうだ。俺たちは強くなれる。でも、それで全員を守れるわけじゃない。


全員のところへは、行けない。


「……行けないなら、知ってることを渡すか」


「渡す?」


「攻略情報。灰猟犬は外周を回るから、建物の角に寄るな、とか。装甲竜は額じゃなくて首。そういうの」


「それ、レイが全部書くの?」


「まさか。俺の文章、致命的に分かりにくいって評判だろ」


「自覚あったんだ」


「お前が三年言い続けたからな」


俺はフレンド一覧の中から、一つの名前を選んだ。


【TOMA】


攻略サイトの管理人。情報屋。俺の攻略動画を勝手に切り抜いて、勝手に解説を付けて、勝手に再生数を稼いでいた男。


文章だけは、俺の百倍分かりやすい。


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