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世界一位の続き 〜VRMMOのLv999が現実に残ったので、ゲーム知識で東京と異世界を攻略します〜  作者: 雅龍(がりゅう)
第一部 東京・王門

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3/20

相棒とは、初対面

「……レイ?」


「ほかに、こんな所でその呼び方するやついる?」


「いたら困る」


ユイがこっちを見た。けれど顔を確かめるより先に、彼女の視線は俺の背後へ滑っていく。


「左奥に二。手前三。屋根の上に一」


「屋根は見えてなかった。助かる」


「奥の二匹、そっちに出す?」


「出して。手前は俺が先に散らす」


それで打ち合わせは終わった。四年分の省略が、そのまま通じる。


結界の左端が、ほんの少し開いた。手前の灰猟犬がこちらへ頭を向け、剣を見ている。人間より硬い牙で、普通の刃なら噛んで止めてしまう連中だ。


星喰いの切っ先を下げ、空いた左手の指を鳴らす。火の粒が一つ獣の鼻先で弾けて、反射で顔が引いた。その一拍で間合いへ入り、魔力を乗せた刃を横へ払って、首の根元を断つ。


倒れた一匹を飛び越えて、二匹目が来た。倒れた味方を壁にして相手の足を止めさせる、群れの癖だ。


止まらない。


跳んでくる腹の下へ潜って突き上げ、そのまま獣の身体を横へ払って、陰から来た三匹目の進路を塞ぐ。踏みとどまった三匹目の前脚の下を風で払うと、爪が舗装を滑って身体が浮き、そこを斬った。


「屋根!」


ユイの声と同時に、看板の上から影が落ちてくる。見ないまま振り上げると、刃の上を重さが通り過ぎて、二つになって後ろに落ちた。


「……今の見ないで斬ったの?」


「声で位置は分かった。お前の『屋根』は、だいたい斜め後ろ四十五度だろ」


「それ四年前の話」


「今もそうだったじゃん」


「そうだけど腹立つ」


結界の向こうから、奥の二匹が並んで走ってきた。


ユイは人のいる側じゃなく、俺と本屋の外壁の間に壁を立て直していた。通路ができて、その先は閉じた搬入口になっている。俺が一歩横へ動けば、二匹とも同じ線に並ぶ形だ。


追われながら笑っていた夜も、負けて文句を言い合った夜も、こうして場所をもらってきた。


一歩、横へ踏む。


「後ろ閉めて」


「どっちの?」


「あ、俺の。入口側」


「先に言って!」


光の壁が背後に立って、二匹の逃げ道が一本だけになる。


振った。


天断。


細い斬撃が二匹をまとめて抜け、その奥の舗装に長い溝を刻んだ。砂埃の向こうに目を凝らしても、新しい影はない。


「六。終わり」


「……裏、増えてない。今のところ」


ユイは息をついたが、それでも結界は消さなかった。俺が外を一回りして戻るまで、人のいる側は閉じたままだった。


戻ると、彼女は駅員と話していた。西の通りへ出す。途中で止まらない。広い道に出たら、向こうの誘導に従う。それだけ決めて、壁の一部を開ける。


人が流れ出ていった。足元ばかり見る人、何度も振り返る人、こちらに声をかけかけて連れに腕を引かれる人。剣を見て立ち止まった子どもを、父親が慌てて抱き上げる。


「あ、ありがとうございます」


俺が頷いて剣を鞘へ戻すと、父親の顔が少しだけ緩んだ。


最後の一人が角を曲がったところで、ユイが結界を消した。急に、駅前が広くなる。


「あー……重かった」


彼女が肩を回した。その仕草で、俺はようやく彼女の顔をちゃんと見た。アバターより頬が柔らかくて、眉の端が少し上がっていて、目は思ったより大きい。


彼女も俺を見上げて、何か言いかけて、口を閉じた。


「何」


「いや。……ほんとにいたんだなって」


「それ、俺も思った」


どちらからともなく笑った。大きな笑いじゃない。詰めていた息の行き先が、やっと見つかったみたいな短いやつだ。


「黒髪なんだ」


「そっちも銀髪じゃないだろ」


「会社に銀髪で行くのはちょっとね」


「俺も剣持って通勤したことはないな」


ユイの視線が、俺のシャツの裂け目に落ちた。角がかすめたところだ。


「今日はしてるじゃん」


「帰りだよ。帰宅中」


「そこ?」


今度はさっきより普通に笑えた。


彼女の右手が、小さく震えていた。俺が見たのに気づくと、ぎゅっと握って、開く。


「長く張ってたから。もう平気」


「座ろう。俺も水がほしい。さっき炒飯をぶちまけた」


「炒飯?」


「夕飯だったんだよ。竜に踏まれた」


「かわいそう。炒飯が」


「俺は?」


「レイは勝ったじゃん」


近くの低い花壇に、少し間を空けて並んで座った。


近い。ゲームでも、焚き火の前で何時間も隣に座ったことはある。でも今は、彼女が息を整える音まで聞こえる。


剣を置く場所に迷っていると、ユイが空いている側を指さした。


「そっち。人が通らないほう」


「ああ」


置いたものの、妙にぎこちない。さっき六匹を相手にした時のほうが、よほど自然に動けていた。


「さっきの『後ろ』」


ユイが前を向いたまま言った。


「私の後ろだったら、人がいたからね」


「悪い。角度変えてくれた時点で、同じ絵を見てると思った」


「見てたけど。次は、どっちの後ろかだけ言って」


「分かった」


四年前もこうだった。言いすぎず、言わなさすぎず、次で直す。


ユイの目が、鞘に移る。


「星喰いもあるんだ」


「いつもの剣だった。所持品の一番上」


「持ってると、やっぱりレイだね」


剣があって助かった。彼女が先に声をかけてくれて、もっと助かった。ただ、そういうのを口にすると今は変に聞こえそうで、代わりに土曜の話をした。


「本当は、昼飯からだったよな」


「そう。自己紹介から」


「順番、間違えたな」


「六匹倒してから名乗る人、初めて会った」


ユイが背筋を伸ばしたので、つられて俺も伸ばす。


「朝倉結衣です。ゲームではユイ。……知ってるか」


「黒瀬蓮。ゲームではレイ。よろしく」


「よろしく」


握手はしなかった。二人とも、手が土と埃で真っ黒だったから。


それから、ユイがぽつりと言った。


「レイ、思ってたより背高い」


「アバターと同じくらいにしてたけど」


「アバターは見上げなかったから」


意味を考えているうちに、彼女の携帯電話が震えた。俺のも、ほぼ同時に。なのに画面は暗いままで、代わりに目の前へ青い枠が開いた。


【管理AIからの通信要求】


ユイの顔から、笑いが消える。


「レイにも来てる?」


「ああ」


通信を開く前に、周りを見た。避難した人は通りの向こうへ出ているし、剣は手の届くところにある。


それから、開いた。


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