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世界一位の続き 〜VRMMOのLv999が現実に残ったので、ゲーム知識で東京と異世界を攻略します〜  作者: 雅龍(がりゅう)
第一部 東京・王門

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23/26

ゲームになかった攻略結果

門をくぐると、空気が重くなった。


扉の内側は、天井が見えないほど高い、巨大な円形の広間だった。壁一面に古い文字のような紋様が刻まれていて、その溝を、青白い光が脈打ちながら流れている。


広間の中央に、核があった。


人の背丈ほどの青い水晶の塊が、宙に浮いてゆっくり回っている。そこから何十本もの光の糸が、四方へ伸びている。広間の壁へ、床へ、そして門の扉の方へ。扉へ向かう糸の中に、一本だけ、腕ほども太いものがある。


本線だ。核と門をつなぎ、門を開かせ続けている、一番太い流れ。


さっきまで将につながっていた六本の糸が、その核へ光を送り返している。核はそれを全部飲み込んで膨らみ、溜めきれなくなったら、一番太い出口の本線へ一度に吐き出す。ゲームで門前通りを吹き飛ばしたのは、たぶんそれだ。


【臨界まで 3秒】


『レイくん、一つ未確認!』


トーマの声だ。


『職人街の三番目の路地、エルナさんが窯の確認に戻ってる! まだ、出てきた報告がない!』


――エルナ。


職人街は門のすぐ外で、本線が暴れれば真っ先に吹き飛ぶ。


確認を待つか。待っても、臨界は待たない。


【臨界まで 2秒】


待たない。


ユイの通路は、もう開いている。溢れた流れを、門の外ではなく採石場へ曲げる道だ。曲げてしまえば、職人街には何も届かない。


エルナの確認は、エルナがやる。俺は、俺の仕事をする。


本線の脇に立った。門の扉まで、十歩。刃を構える。


【臨界まで 0秒】


核が、吐き出した。


溜め込んだ全部が、門へ向かって本線へなだれ込む。蜥蜴の霧とは比べ物にならない太さだ。


一秒。吐き出された光が、本線の中で暴れて広がる。


二秒目。広がった光が、門へ向かって一本の奔流にまとまる。


その、外縁。


星喰いの刃を、添えた。


光が、刃の中へ流れ込んでくる。


――熱い。


蜥蜴の時とは、比べ物にならない。刃が一瞬で白く光り、柄が焼けた鉄みたいに熱くなる。手のひらの皮が焼ける音が、した気がした。


離すな。


喰うのは外側だけで、全部じゃない。外側を喰われた分、本体の流れが刃を避けようとして――


曲がった。


奔流が門の扉の手前で、ぐにゃりと進路を変える。右へ、広間の右の壁へ。


壁の一点に、ユイの結界がある。薄い光の膜が、壁に穴を開けるように張られていて、その向こうに光の筒が――通路が、外へ伸びている。奔流は、その膜に吸い込まれていく。通路の中を光が走り、門の外、城壁の上を越えて、東の空へ。採石場の方角へ。


『来た!』


ユイの声。


『受けてる! 流れてる! ……重い、けど、持つ!』


奔流の尻尾が、膜の向こうへ消えた。吐き出しきった核は、周りの細い糸から次の分を吸い上げて、もう一度ゆっくり膨らみ始めている。


俺は、星喰いを本線から離した。


刃が白く燃えていて、もうこれ以上は喰えない。柄を握る手も震えている。でも、本線が残っている限り、核はまた門へ力を送り続ける。


切る。


天断。


喰った分の魔力が、刃の中で暴れている。それを、乗せる。全部じゃない。短止で、本線の太さぶんだけ。本線の向こうにある門の扉には、触れない。


放った。


握った。


光が、本線を断ち切った直後に消えた。


――一センチ。


本線が、二つに分かれた。


核の側の断面から、光がゆっくりとしぼんでいく。核の回転が遅くなり、膨らんでいた水晶が縮んでいく。門の側の断面からは、光が外へ散っていく。


扉が、軋んだ。


閉じるのか。


いや。扉は、開いたまま止まった。


【本接続 強制拡大を停止】


【接続状態:安定】


核が門を無理やり押し広げる力は、もうない。開いてしまった門は開いたまま暴れるのをやめて、ただの――扉になった。


通れる。両側から。


俺は、その場に膝をついた。


星喰いを床に突き立てて、柄から手を離すと、手のひらが真っ赤で、皮が剥けかけている。刃はまだ白く光っているが、少しずつ、暗い色に戻り始めていた。


――耐えた。


俺の剣は、割れなかった。


『レイ』


ユイの声だ。


『採石場、全部受けた。底に、光の柱が立ってる。……あと、閉じ込めてた騎兵、全部消えた』


「……そうか」


『巻き込んじゃった』


「魔物だろ。いいよ」


『うん』


それから、トーマの声。


『エルナさんから報告! 職人街、無事! 窯の火、落とした! 陶工のおじいさんの窯、割れてない!』


――間に合ってた。


エルナは、エルナの仕事をした。


床に座り込んだまま、天井を見上げる。天井はまだ見えないが、壁の紋様を流れる光は、さっきより穏やかになっている。


【レベル:1003】


表示が、一つ、増えていた。


門の外へ出ると、空はもう夜で、赤黒い雲は消えていた。門前通りは静かで、石畳の上に軍勢の残骸が転がり、家々の窓は全部閉まっている。


でも、家は、全部、立っていた。


パン屋の看板も、ちゃんと店の上に掛かっている。麦の穂と、丸いパンの絵。ゲームでは、瓦礫の中に落ちていた看板だ。


それが、門のすぐ外で、夜風に揺れている。


俺は、その前でしばらく立っていた。


ファンファーレは、鳴らなかった。


代わりに、通りの向こうから足音が聞こえてくる。最初は一つ、それからいくつも。教会の方から、回廊の出口から、東区の方から。


住民たちが、戻ってきていた。


ランプを持って、子どもの手を引いて、荷物を背負って。自分の家の前で立ち止まり、扉に手をかけて――開ける。扉が開く音が、通りのあちこちから聞こえてくる。


ハンナが、パン屋の前に来た。看板を見上げてから扉を開け、中を覗き込んで、窯の方を見て、振り返る。


「窯、無事だよ!」


誰に言ったのか分からない、大きな声だった。その声を聞いて、通りの何人かが泣きながら笑っている。マルクが母親の横から、店の中に駆け込んでいく。


それから、門の方から別の足音が来た。門の内側の広間に、昨日までなかった出口が一つ、開いている。本接続がつないだ先――中央公園の北の広場だ。暴れるのをやめた門は、リーベルと東京をまっすぐつなぐ通り道になっていた。


その出口から、宮坂さんの消防隊が救急箱と担架を持って、門をくぐってくる。その後ろに、佐伯さんと、三浦さんと、運搬班の人たち。三浦さんはパン屋の看板を見上げて、口元を押さえた。


門をくぐってきた人たちと、リーベルの住民たちが、門前通りの真ん中で混ざり始める。言葉は、たぶん通じていない。翻訳支援の表示が、あちこちで瞬いている。


でも、担架を運ぶ手と、扉を開ける手は、同じだった。


ユイが、通りの向こうから歩いてくる。


肩で息をして、髪がぼさぼさだ。採石場から走ってきたらしい。俺の前で止まって、まず俺の手を見た。


「手」


「焼けた」


「見せて」


ユイは俺の手のひらを、自分の両手で包むように持って、じっと見る。


「……回復薬は? 持ってたよね」


「四本ある。人に使う前に、自分で試すつもりだった」


「じゃあ、今。飲みなさい」


一本飲むと、手のひらの赤みがゆっくり引いていく。皮が戻り、痛みが消える。この身体でも、ちゃんと効く。


でも、疲れは消えない。肩の重さも、足のだるさも、そのままだ。


傷は治る。疲れは、治らない。ゲームとは、違う。


「レイ」


ユイが、俺の手を離さないまま言った。


「勝ったね」


「勝った」


「街、残ったね」


「残った」


ユイは、パン屋の看板を見上げた。


「ゲームで、何回もここが壊れるの、見てたんでしょ」


「見てた」


「今日は?」


店の方を見ると、扉の開いたパン屋の中で、ハンナが窯の前にしゃがんで、何かを話しかけている。たぶん、窯に。


「今日は、残った」


それしか、言えなかった。


ユイは、それ以上何も聞かない。ただ、俺の手をもう一度だけぎゅっと握って、離した。


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