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世界一位の続き 〜VRMMOのLv999が現実に残ったので、ゲーム知識で東京と異世界を攻略します〜  作者: 雅龍(がりゅう)
第一部 東京・王門

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19/20

その軍勢は、俺が止める

二時間、小物を斬り続けた。


影狼、岩蜥蜴、小鬼。空から落ちてくるものを、落ちた順に片づけていく。門前通りの石畳には、片づけた数だけ、消えない身体が積み上がっていく。四十を超えたあたりで、数えるのはやめた。


星喰いは熱くしていないし、小物には天断も使わない。普通の剣と、少しの火と風だけで足りる。


足りないのは、身体のほうだった。息が上がり、汗がシャツに張りつく。Lv1000でも、二時間動き続ければ疲れる。ゲームの中では、疲労なんて表示すらなかったのに。


――悪くない。


疲れているのに、悪くない。手足の一つ一つが、ちゃんと俺の手足だった。


『レイくん、門の上』


トーマの声に見上げると、赤黒い渦の中心が裂けて、小物が落ちてきていた穴が、ゆっくりと横に広がっていく。


王門の、巨大な両開きの扉が――軋んだ。


【本接続 開始】


扉が、内側から押し開かれる。その向こうに、軍勢がいた。


鎧を着た骸骨兵。盾を構えた重装鬼。四足の獣に乗った騎兵。その後ろに、弓兵と、杖を持った魔術師。数は――数えられない。門の奥、暗がりのずっと向こうまで、隊列が続いている。


ゲームと同じ編成で、ゲームと同じ、地鳴りのような足音だった。違うのは匂いだ。鉄と、腐った土と、獣の汗。それから、地面から足の裏に伝わってくる、本物の振動。


『……レイくん』


トーマの声が、震えている。


『数、出す? 概算で』


「いらない」


俺は、星喰いを構えた。


「どうせ、全部斬る」


軍勢の先頭が門をくぐり、騎兵が五騎、獣に石畳を蹴らせて、まっすぐこちらへ突っ込んでくる。


ゲームの定石は、門の正面で迎え撃つこと。門から出てきた敵を、出てきた順に倒す。


――違う。


正面で受けたら、軍勢は俺を避けて左右に散る。散った先は門前通りの家並みだ。家の中には誰もいないが、家の裏には回廊の入口がある。教会の裏の、古井戸の横。地下を通って、避難した人たちがいる東区の、結界の内側へ抜ける道が。


だから、散らせない。


俺は門の正面から三歩右へずれて、教会へ続く路地の入口を背中で塞いだ。


騎兵が、俺のずれに合わせて進路を曲げた。全部、こっちへ来る。左側――門前通りの大通りが、がら空きになる。


大通りは、空けておいていい。その先は東区へ続いていて、東区にはユイが二重に張り直した結界柱の輪がある。小物なら、あの幕で止まる。本隊が大通りへ流れ込む前に、俺が数を減らせばいい。


騎兵の一騎目が、槍を突き出してきた。穂先の横をすり抜け、獣の前脚を斬って、崩れた騎手の首を返す刃で落とす。


二騎目と三騎目が、左右から挟みに来る。右の獣の顎の下へ潜り込み、左の騎手が槍を振り下ろす前に跳んだ。右の獣の背を踏み台にして、左の騎手の頭上へ。


斬る。


四騎目と五騎目が、仲間の死体に足を取られて止まった。止まった敵は、ただの的だ。


天断。


今日初めての、天断だった。


光が二騎をまとめて抜け、その後ろの骸骨兵の列を十体ほど削った。短止で、門の扉の手前で止める。扉の向こうには、まだ核がある。今、核に触れるわけにはいかない。


軍勢の足が、一瞬止まった。先頭の騎兵が、全部消えている。


二秒で。


――さあ、来い。


骸骨兵の列が盾を並べて前進してきて、その隙間から、弓兵の矢が雨のように降ってくる。


左手を振って、頭上に風を一枚。矢の雨は風に押されて、俺の後ろの路地の壁に刺さっていく。全部、壁だ。路地の奥へは、一本も届かない。


それから、盾の壁へ走った。


*


東区の物見櫓の上で、消防隊員の沢村は、双眼鏡を握りしめていた。


二十六歳。消防に入って四年。火事も、水害も、交通事故も見てきたし、人が死ぬところも何度か見た。でも、これは見たことがない。


門前通りの、一番狭い路地の前に、一人だけ立っている。その一人に向かって、何百という鎧の群れが、波のように押し寄せていく。


波が、砕けていた。


剣士が動くたびに、波の先頭がばらばらに崩れる。崩れた鎧が次の鎧の足を止め、止まった鎧の列を、光の線が横に払う。剣士は一歩も、路地の前から退かない。あの路地の奥の教会から、地下の回廊がこの東区の倉庫まで続いている。


「……沢村さん」


隣で、見張り班の高校生が、震える声で言った。


「あれ、勝てるんですか」


「分からない」


双眼鏡を下ろさずに正直にそう言ってから、沢村は無線のスイッチを入れた。


「物見櫓より、観測所へ。正面、敵の進路に変化。半分以上が、大通りではなく、剣士の方へ向かっています。大通りへ流れた小物は、少数。東区の結界で止まっています」


『観測所、了解。……沢村さん、ありがとう。その情報、すごく助かる』


トーマの声だった。


勝てるかは分からない。でも、あの剣士が何をしようとしているのかは分かる。なら、自分の仕事は、それを正確に伝えることだ。


沢村は、双眼鏡を握り直した。


*


骸骨兵を何体斬ったか、重装鬼を何体倒したかも、もう分からない。ただ、門前通りの石畳の上に、敵の数より少しだけ多い数の空白ができている。


軍勢の流れが、変わった。押し寄せてきていた波が門の前で割れ、左右に分かれて後ろへ下がっていく。その真ん中を、一体だけ、歩いてくるものがいる。


二メートル半。黒鉄の全身鎧。兜の隙間から、青い光が二つ。手には、身の丈を超える長柄の槍。


門の将。


ゲームで、二百回倒した相手だった。


【レベル:1001】


戦いの途中で、表示が一つ、変わっていた。


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