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世界一位の続き 〜VRMMOのLv999が現実に残ったので、ゲーム知識で東京と異世界を攻略します〜  作者: 雅龍(がりゅう)
第一部 東京・王門

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18/19

王門攻略、開始

四日目の朝は、晴れていた。それが、少しだけ腹立たしい。


空はこんなに青いのに、西の空にそびえる王門の上だけ、赤黒い雲が渦を巻いている。昨夜より、ずっと濃い。


【本接続予測まで 9時間02分】


東区の倉庫の前に集まったのは、二十人くらいだった。俺とユイ。エルナと、リーベル騎士団の騎士が六人。宮坂さんの消防隊から志願した八人と、佐伯さん。それから、トーマが窓口で集めた運搬班と見張り班が数人。


ハンナの名前を知っていた人も、そこにいた。四十代くらいの、眼鏡をかけた女性で、三浦さんという。ゲームでは生産職で、門前通りの裏に工房を構えていたらしい。


「ハンナさんの店、本当にあったんですね」


門前通りの方を見る三浦さんの目が、潤んでいる。


「私、ゲームで、毎朝あの店の前を通って工房に行ってたんです。窓の中で、誰かがパンを焼いてる影が見えて。……一度だけ、店の前で、お腹すいたなって呟いたら、窓が開いて、パンを一個くれたことがあって」


「それ、NPCが?」


「ゲームのイベントだと思ってました。でも、あのパン、ハンナさんの名前が書いた紙で包んであったんです」


――ぐるぐる桶と、同じだ。トーマのリストに、もう一行増える。


「よし。確認する」


ユイが、手書きの紙を持って前に出た。昨夜、彼女が三時間かけて作った今日の段取り表で、展示会の進行表みたいに、時刻と担当と場所がびっしり並んでいる。


午前九時、職人街の搬送開始。エルナと騎士団に、運搬班の三浦さんと佐伯さんがつく。十一時、宮坂さんの隊が門前通りを一軒ずつ回って、残っている人がいないか最終確認をする。宮坂さん本人はここにいなくて、こちら側の指揮所から無線で隊員に指示を出している。午後二時、ユイが回廊の横道の入口を結界で塞いで、第二避難先を作る。


「午後四時。門の二時間前。小物が湧き始める想定。全員、門前通りから撤収。門の正面に残るのは、レイだけ」


ユイの声は、そこで一瞬だけ止まって、それから続いた。


「午後六時前後。本接続。軍勢が出てくる。レイが正面で押さえる。私は門の横、採石場への通路の起点で待機。エルナさんは東区で住民の誘導。トーマさんは、こっち側から全体の状況を確認して、無線で伝える」


紙から顔を上げて、ユイが見回す。


「何か、質問ある?」


誰も手を上げない中、佐伯さんがぽつりと言った。


「……すげえ、きっちりしてんな。何の仕事だっけ」


「展示会の、制作進行です」


「展示会って、こんなに大変なのか」


「竜は出ないですけど、締め切りは出ます」


何人かが笑って、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。


――ユイ、こういうの、うまいな。


「じゃあ、解散。各自、持ち場へ」


エルナが騎士たちを連れて職人街へ向かい、佐伯さんと三浦さんがそれに続く。消防隊員は門前通りへ、見張り班はあちこちの屋根へ散っていって、倉庫の前には、俺とユイだけが残った。


「レイは、午後四時まで何するの」


「門前通りの魔物を、片っ端から減らす。本番までに数を減らしておけば、それだけ楽になる」


「無茶しないでね」


「しない。今日は、星喰いを熱くしすぎないようにする」


ユイは少しだけ安心した顔をして、段取り表をもう一度見た。


「レイ。私、展示会の本番の朝って、いつも吐きそうになるの」


「……今も?」


「今も」


ユイの指先が、紙の端を握りしめている。


何か気の利いたことを言おうとしたが、何も出てこない。だから、代わりに言った。


「俺は、ゲームの大会の決勝の朝、毎回トイレに三回行ってた。ルークとの決勝の時は、四回」


ユイが、顔を上げる。


「……そんなに緊張してたの?」


「してた。一位なんて、毎回ぎりぎりだったんだよ。周りからは余裕そうに見えたらしいけど」


ユイが、ふっと笑った。


「知らなかった」


「誰にも言ってないからな」


「なんで今言うの」


「お前が吐きそうって言ったから」


ユイは紙をたたんでポケットにしまうと、俺の顔を見た。


「じゃあ、今日は、何回?」


「まだ一回。午後に、たぶんもう一回行く」


ユイが、声を出して笑う。今日初めての、ちゃんとした笑い声だった。


――午前十一時。


門前通りの最終確認が終わった。残っている人は、ゼロ。


――午後一時。


職人街の四十人のうち、三十六人が東区に着いた。残りの四人は炉の火を落とすのに手間取っていて、エルナが、残って待つと無線で伝えてきた。


――午後二時。


ユイが、回廊の横道の入口に結界を張り終えた。


――午後三時四十分。


職人街の最後の四人が回廊に入り、エルナがその後ろについた。


――午後四時。


門の上の雲が、裂けた。


赤黒い渦の中心から、小さな影がぽつ、ぽつと落ちてくる。小物の湧きが、始まった。


『こちら観測所。門前通り、全員撤収を確認。……レイくん、正面、一人だよ』


「分かってる」


門前通りの真ん中に立つと、目の前に、ゲームで何百回も見上げた王門がそびえていた。それが今、本物の石と、本物の鉄と、本物の赤い空を背負って、俺を見下ろしている。


星喰いを、抜いた。


【本接続予測まで 1時間58分】


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