通夜 2
東八道路を軽く流してから首都高に乗り、ナビの到着予定時刻を確認する。
目的地までは五十分程度で辿りつきそうだけれども、重苦しい車内の空気を鑑みるに、体感では十時間位かかりそうだ。
テンパっているのは剛志だけかと思いきや、美里もしっかりと情緒不安定になっているようで、吉岡の耳元で「吉岡君は悪くない。全然悪くないからね。だから絶対に自分を責めたりしないで。追い込んだりしないでね」と囁き続けている。
たしか彼は、自分との交際のせいで仕事を干されたチカを立ち上げたばかりの個人事務所に引き入れたはいいが、ニッチもサッチも行かなくなった挙句、一人でトンズラこいたのではなかったか。
今はまた別の若い女と一緒になって、子供も出来て幸せに暮らしてるって話だが。
そんな奴がどのツラ下げてチカの通夜へ顔を出すのかと思うが。
しかし存外、世間とはそんなものなのかも知れない。
なにせ僕は少しずれているものだからして。
以上を踏まえた上で考えると、では美里は一体どんなつもりなのだろう。
「吉岡君は悪くない」そう言えば言うほど、「お前のせいだ」「お前のせいでチカは死んだんだ!」と、そう追い詰めているように聞こえてならないのだが。
当人にしてもそれはそのようで、ただでさえ辛気臭い顔つきに陰気さも加わり、最早キングクリムゾンのアルバムジャケットのような変顔になってしまっている。
このままではいけない。
ここは一番、音楽の力を借りようではないかとオーディオに手を伸ばすが、すると、ズンチッズンチッズンチッズンチッと低音の効いた軽快なイントロが流れ出し、しばらくして、
「巣てぃるぱろるらすきっ腹るらとぅめれろられれ炉れれロろ…」
などと、文字に起こすには少々厄介なご機嫌なスキャットか聞こえてくる。
そう、僕らぐらいの年代であれば皆さまご存じ、プッチンプリンのCMでお馴染みのスキャットマンジョンが爆音でかかる。
「ちょっと何やってんのよあんた!!!こんな時にこんな曲かけて、しかも全然知らない曲じゃない。何よコレ、あの一曲だけじゃなかったの!?てかアンタ、一体どういうつもりなのよ!!!」
「いやあ・・・」
そりゃ僕だって、こんな選曲をするつもりはなかった。
せいぜいBBクィーンズの「しょげないでよBABY」でも流してやんわりと雰囲気を変えられればなと考えていたのに。
でもだからって、そんなに怒らなくてもいいではないか。
しかし、元が水戸のレディース上がりの美里にそんな言い訳は通用しない。
「不謹慎にもほどがある!」だの、
「ちょっとは考えなさいよ!」だのと語気を荒げ。
どうして不良って人種の中に、こう儀式だの礼節だのを重んじる類の奴もいるものかね。
僕と同じ落ちこぼれのクセに。
これだけ形式ばった考えが出来るのなら、もっと真っ当に生きられそうなものではなかろうか。
「じゃあ、どんな曲を掛ければいいのかな」
「え?」
「悲しい時に悲しい曲を掛けて悲しみに暮れれば、それでチカちゃんは喜んでくれるかな?」
美里の怒声が響く中、意外にも助け舟を出してくれたのは剛志だった。
もちろん、非難するでもないその疑問に解答はなく、デシベルなんてものともせずに響いた言葉は僕らの耳を貫き、胸に突き刺さる。そしてそれきり無言のまま、愉快な音を奏でる箱に揺られて、僕らは静かに進み続けた。




