チカ 1
「若気の至り」なんて言葉でつい誤魔化したくもなるけれど、昔の僕は今よりもさらにどうしようもなく、同じく、輪を掛けてどうしようもない先輩であるシバタ君の口利きで日々を凌いでいた。
あの頃はたしか、またアイドルブームが来るとかって騒ぎ始めていた時期で、その日の僕も、売り出し中のアイドル達のイベントへ駆り出されていたっけ。
会場の楽屋が狭すぎたので急遽手配された百軒店にある空きテナントは、つい先ほどまで上へ下への大騒ぎであったが、オープン時刻を過ぎると徐々に人が減り始め、今ではひっそりと静まり返っている。物販はもちろん、私物、貴重品の類もあるので無人にするわけにもいかず、一人留守番をしているわけなのだが、こうも暇だと余計な考えが頭を擡げる。
元はバーであったのか、小洒落た一枚板のカウンターの奥には残置物であろう酒瓶が埃を被って並んでおり、チラチラ此方の様子を窺っていた。
「よせよ、こう見えても僕は仕事中なんだぜ?」
なんとか断りを入れてみるものの、しかし生来押しに弱い僕はあっさり誘惑に負け、カウンターを飛び越えて棚を物色して回る。
すると恐らくは30年。いや、もしかすればもっと年代物のバランタインを見つけたので、床の上に転がっていたショットグラスの中から程度の良い物を拾い上げ、舌なめずりしながらハンカチでそれを磨く。だが、いざテーブルについてグラスを傾けようとすると、電話の着信音がそれを遮った。
「誰だよこんな時に、間が悪い!」
苛立ちつつ携帯の液晶画面を開けば、案の定それはシバタ君であり、面倒だが仕方なしに応答ボタンを押す。
「よお。お前今、何やっているんだ?」
まさか何処かから監視しているわけでもあるまいが、後ろめたさから慌てて隠そうとした拍子にグラスを床に落として割ってしまう。
「あぁ・・・いえ、今は荷物番をしていますが、どうかしましたか?」
「おお、なんか演者の一人が「外の空気を吸ってくる」って言って外に出たっきり戻ってこないらしいんだけど、お前探してこいや」
「え、探してこいって、ここはどうするんです」
「ちょっとくらい構いやしねえだろう」
「それに探すって言ったって、どこをです?そもそも誰がいなくなったんですか」
「・・・ごちゃごちゃうるせえな。演者の誰かだよバカヤロー!とにかくもうすぐイベントは始まるんだ。イベントがコケたらギャラは出さねえし、荷物が無くなったら手前が補償しろ。話は以上だ。じゃあな」
「そんな無茶苦茶な!」
しかし僕の不平を聞く間も無く電話は一方的に切れ、話中音だけが虚しく鳴り響く。
参った。払い物の類は滞納しきっていて一刻の猶予も無いし、かと言ってこれ以上の借金を受け入れてくれるのは真っ黒な業者しかいやしない。お門違いも承知の上で天を睨みつけた僕は、上着を手に日暮の街へと駆け出す。




