第1話 再会
登場人物の紹介
結城早紀:サキ
正義感の強いギャル。リンとは小学校時代の同級生。
リンを妹みたいに可愛がっている。
私立齋藤学園高校2年。文化祭実行委員でもある。お化けが嫌い。
斉藤凛:リン
小学校時代は、引っ込み思案の女の子。
サキの背中に隠れてもじもじしているような子供だった。サキにあこがれていた。
小学校の卒業式の翌日から姿を消してしまう。
4年後駅のホームでサキと再会。サキとは別の高校に通っているらしい。
ユキ:
サキが中学生の時に知り合い、サキをギャルに仕立てた張本人。
冷ややかで頭脳明晰。
容赦なく照りつける朝の陽光を浴びて、サキは駅のホームへの階段を駆け降りた。
(・・・セーフ)
幸い、列車の気配はまだない。ダイヤが乱れているのだろうか。
サキは、額に滲む汗を、手の甲でそっと押さえた。
時間をかけて仕上げた『武装』――『勝負メイク』が崩れるのは、死ぬより嫌だった。
*** サキ 高校2年 初夏 ***
ふんわりと甘いミルクティーベージュの巻き髪に、鋭く跳ね上げたアイライン。
ブルーのカラコンに合わせた、チョーカーの青い石が陽光をはね返す。
指先は、静かで深い青から夕日の輝きを閉じ込めた赤へと移ろう、グラデーションのネイル。
短く巻かれたスカートから覗くルーズソックスのたるみ具合に至るまで、頭のてっぺんから足元まで、一切の妥協を許さない。
それが、気合の入ったギャル-サキという少女だった。
一息ついて隣のホームに目をやると、見覚えのある横顔を見つけた。
(あれは・・・ユキじゃん!ちょ~久しぶりなんですけど~)
自分をギャルに仕立て上げた『師匠』である憧れの親友。その姿を見つけ、サキの口元が自然に緩む。
(ん?・・・いつものユキとずいぶん様子が違うじゃん?)
いつもならば周囲の空気を塗り替えるほどの圧倒的なオーラを纏っていたユキ。
しかし今日は、どこか幼さを残した、自信なげな佇まいでセーラー服に身を包んでいる、どこにでもいる『普通』の女子高生だった。
カバンには、遠目にも赤く光る石のキーホルダーが揺れているのが見えた。
「ユキ、おは〜!一瞬誰か分かんなかったし。ナチュラルも普通に可愛くてウケるんだけど!」
違和感を無視して、久々に会う友達に親愛の情を込めて、ポンと肩を叩いた。
少女は、ゆっくりと振り向き、サキを見て穏やかな微笑を浮かべ、
「サキちゃん、おはよう!」
柔らかで、静かな声で応えた。
「・・・どうしたの?今まで私に、そんな風に声をかけてくれたことなかったじゃない。」
(あちゃ・・・、やっちゃった!人違いだ・・・)
「ごめん、マジですみません!今日ちょっと目バグってて・・・。人違いです、失礼しました!・・・って、えっ!?え~~~!!リン?」
目の前の少女の顔を、もう一度よく見る。
記憶の奥に沈んでいた輪郭が、ゆっくり浮かび上がってくる。
確かに目の前の少女は・・・小学校の卒業以来、4年もの間会っていなかった幼馴染、リンだった。
「もー、何言ってんの。私だよ、リン。」
少女は小さく笑い、小首を少し傾げ、左手の細い指先で自分のほほを撫でる。
「サキちゃんは今日もメイクばっちりだね。『今日もしっかり盛れてんじゃん!』・・・で合ってた?」
その言い方はぎこちなく、少し恥ずかしそうだった。
戸惑いを隠せないまま、サキは言葉を絞り出した。
「え・・・リン?私達、めちゃくちゃ、ってか、・・・4年ぶり・・・だよ・・・ね・・・?」
(小学校の卒業式以来なのに・・・自分が『ギャル』やってるなんて、リンが知るはずもないのに・・・)
「そうだっけ?・・・そんなに久しぶりだったかな?」
無邪気なリンの言葉は、サキを混乱させる。
「ねえサキちゃん、その・・・ユキって誰?そんなに私に似ていたの?」
無邪気な問いかけに、サキは背中に冷たいものを感じた。
「う、うん。リンをそのままギャルにした感じ・・・っていうか、二人ともスタイル良すぎ!後ろ姿じゃマジで区別つかないって!」
サキは笑って誤魔化した。自分の動揺を悟られないように。
下り電車が、地響きを立てながらホームへ滑り込んできた。
「あ、電車来た。また連絡するね!あ、これ私の新しい連絡先。」
癖があるが美しい文字で書かれたメモ。それを手渡し、リンは軽やかに手を振り、吸い込まれるように車両へと乗り込んでいった。
ホームに取り残されたサキは、遠ざかる銀色の車体を見つめたまま立ち尽くすのだった。
(そういえば・・・ユキとこの前会ったのって、いつだっけ・・・)




