↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十七話 Silentium

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

188/264

0188

「なあルティウスよ…」

「…あっ、え?な、何?」

 唐突な呼び声に、ルティウスは慌てて視線を上げる。

「お前さん、コイツは大丈夫なのか?」

 リーベルが親指で背後の車台を示す。ルティウスは馬車を見回し、自信を持って頷いた。

「あ、うん!馬車は何度か…皇都でも乗っていたからね」

 皇子であるルティウスにとって、馬車は慣れたもの。国の外へ出た事は無かったが、都市内の移動で乗った事は何度もあったから。

「……だがなぁ、こいつは荷馬車だぞ?皇族が乗るような、がっちりした奴とは違うし…揺れるぞ?」

 少しだけ脅すようにリーベルが言うと、明るい顔をしていたはずの少年は次第に表情を曇らせていく。

「え、揺れる…の?」

 思い出してしまうのは、船酔いをした時の苦しい記憶。何をしても吐き気が込み上げ、ずっとレヴィの膝枕で横になっていた時の事。

「……急に、不安になってきちゃったな」

 だが今は、あの渡し船の時とは違う。

「ご心配なく。殿下が体調を崩されたら、わたくしがどうにか致します」

 乗り物酔いへの不安を抱くルティウスの手を取り、ゼフィラが嫋やかな笑みを浮かべて宣言した。

「どうにか、って…?」

 まだ不安を払拭出来ていないルティウスが問うと、笑みを浮かべたままゼフィラはゆっくりと魔力を解き放ち、少年の身体を覆うように風の力を纏わせていく。

「え…あ、わぁっ!」

 直後、ルティウスの身体は宙に浮いていた。

「こうして浮かせてしまえば、揺れによって酔う事も無くなります」

 実演を終え、満足したようにゼフィラは魔力を霧散させる。再び地面に足を付けたルティウスは、何度も瞬きを繰り返していた。

「いや…ありがたいけど……ゼフィラの魔力、枯れない?」

 真面目に問い掛けてみるが、恋する公女の想いはただ一つの理由に帰結する。

「殿下の為に魔力を枯らすのなら、本望でございます…」

「いや駄目でしょ!」

 乗り物酔いへの具体的な解決案と思わせて、ただゼフィラが自分を犠牲にするだけという事実に、ルティウスも思わず声を荒げていた。

 だが草葉の陰からようやく帰ってきたジェロアが、青褪めた笑みを浮かべて、覇気の無い声で囁いた。

「大丈夫~……ちゃんと、揺れの少ない街道を、通るから~……」

 覚束ない足取りで御者台へと戻り、少しだけ震える腕を伸ばしてリーベルから手綱を取り返す。

「それにね…ほら、俺は交易も兼ねて付いていくからさ。荷物も結構積んでいてね…」

 そう言って、ジェロアは馬車に積まれている品物を見せるように、幌の一部を捲り上げた。

 多くの木箱が積まれており、ラテーレ村の特産品を卸しに行くというジェロアの『仕事』が本当なのだと、ルティウスは感心したように中を見回す。

「ジェロアおじさん…本当に、村長だったんだね?」

「えっ!」

 凍り付いたように、ジェロアはそのまま硬直していた。

 隣に座るリーベルは、二日酔いなど忘れたように腹を抱えて笑っている。

「…殿下を、このような馬車に…?やはり、公国から専用のものを手配するべきでしたね…」


 ルティウスには不自由のない旅を…。


 サルースからそう託されていたゼフィラは、車台の様子を確かめて、何故か青褪めた顔をしている。

「いや、ゼフィラ。俺、一応隠れてなくちゃいけないんだろ?公国の専用馬車なんて、目立っちゃうだろ!」

 手配されていなくて良かったと安堵するルティウスの背後から、レヴィまでもがズレた提案をし始める。

「ルティは私が抱えていればいい。酔うようなら、そのまま飛べばいいだろう」

「駄目に決まってんじゃん!あんたは核の傷があるんだから、無暗に力を使おうとするな!っていうかすぐ抱えようとすんなッ!」

 咄嗟に振り返ったルティウスは、レヴィを案じるが故に容赦なく怒鳴り付けた。

 賑やかになり始める空気の中で、フィデスもまた、乗り物酔い対策と称して唐突な一言を発する。

「じゃあさじゃあさ!ボクが、ずっと街道の土を整地し続けてあげよっか?揺れないように、カッチカチに♪」

 最も具体的であり、建設的な提案だとルティウスは感じていた。だがそれを良しとしない者が、たった一人だけ存在している。

「却下だ。ルティの魔力を無駄遣いする気か」

 低められた声で否とするレヴィが、待機している馬の横で自信ありげに立つフィデスを睨み付けた。

「なぁんでよ!レヴィだって、ルティ君を抱えて飛ぶなら魔力借りるんじゃん?」

「お前と一緒にするな。私はルティのために⋯」

「ボクだって、ルティ君のために考えてるんだよ!」

 突然始まる、竜神達の口論。

 決して仲が悪くはないはずの、水と土の竜が言い合う様は珍しく、それこそが一人の少年へ向ける思いの強さを表している。

 しかし当の本人であるルティウスは、深く溜め息を吐いてから、冷静に答えてしまった。

「いいよ、もう。俺、直接走るよ。鍛錬ついでに⋯」

 ルティウス自身が辿り着いた答え。

 乗り物に酔うなら、乗らなければいいだけの話。船と違い馬車ならば、横を歩く事も走る事も可能だ。

 竜神達の言い争いを止めるべく導き出した苦肉の策。同時にルティウスへ振り向くレヴィとフィデスは、反省するように視線を落とし、それ以上の言葉を紡げなくなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。