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慌ただしく身支度を終えたルティウスと共に、レヴィを伴い宿の外へと向かう。玄関扉を開け放つと、まさに出発間際だった。ウェンティが見送られる形で一人、少しだけ離れた位置に立っていた。
「良かった、間に合った⋯!」
少しだけ息を切らしながら姿を現すルティウスを見て、ウェンティは表情を綻ばせて弾かれたように駆け寄った。
「⋯ルティウス君!」
小走りに駆けるその姿は、まるで幼い少女のよう。だが、見た目は当てにならない。、ルティウスよりも遥かに歳上のウェンティは、年下の少年を間近に見上げて微笑みを浮かべた。
「サルース君が言っていた通りね。やっぱり、ルティウス君には白が似合っているわ」
亡き母が魔法付与を施した状態で遺し、そこにレヴィが多くの魔法付与を施してくれた白い服。宿の主人が丁寧に洗ってくれたのか、くすみ一つ見当たらない。その大切な服を褒められて、ルティウスは照れくさそうに微笑みながら、素直に喜びを伝えた。
「そう言ってもらえると、この服を用意してくれた母様も、きっと喜ぶと思うよ」
和やかな空気の中、ウェンティは穏やかな表情のまま、隣に立つレヴィへと視線を向けた。大きな銀色の瞳は、僅かに細められている。
「レヴィさん、貴方の状況については、アール様にもお伝え致します。よろしいですね?」
それは確認ではなく、決定事項の宣告だった。問われたレヴィは僅かに表情を引き締める。
「好きにすればいい」
拒んだところで無意味と分かっている。レヴィはそれ以上何も答えなかった。
レヴィからの応諾と捉えたウェンティは、苦笑しながらも再びルティウスへと視線を戻し、現況を話し始めた「ノービリアへの潜入については、今も首都でセレーナちゃんと⋯そろそろサルース君も動いてくれてる頃だと思うわ」
「兄様達が⋯?」
こくりと頷くウェンティの反応に、ルティウスは蒼い瞳を輝かせた。目的の一つとしていた兄との再会も、ノービリアへ向かえば叶うかもしれない。その事実に、期待から自然と笑みが零れていた。
ルティウスにとっての朗報を伝え、ウェンティは満足げに微笑む。だが、すぐに視線を妹のゼフィラへと向け、表情を真剣なものへと変える。
「ゼフィラちゃん、ルティウス君の事、頼むわね」
そのまま立ち去ると思っていたが、ウェンティはまだ動かなかった。高い位置にあるレヴィの顔を見つめ、じっと黙り込んでいる。
首を傾げるルティウスを他所に、レヴィは視線に気付き、金色の瞳を少しだけ細めた。
「⋯何か、話があるんだろう?」
レヴィは察したように、そっとルティウスの肩に手を置いた。そして、少しだけ距離を取るように歩き出す。そんなレヴィに続いて、ウェンティもまた無言でレヴィの後を追った。
二人を見送るルティウスは、不思議そうに目を細めた。
「⋯どうしたんだろう、あの二人?」
秘密の話をしていると悟ったが、レヴィなら後から教えてくれるという信頼がある。だから追いかけようとも、深く追求したいとも思わなかった。
気持ちを切り替え、ルティウスは辺りを見回す。フィデスはおろか、リーベルの姿さえも見当たらない。あれだけ世話になったウェンティの出立だ、特にフィデスは必ず見送りに来るはず…。
不在を不思議に思い周囲を見回していると、傍らに立つゼフィラがクスッと笑い、ゆっくりと口を開いた。
「フィデス様達は、所用で早朝から外しておりますわ」
「そうなの?叔父様も?」
ルティウスの驚きに、ゼフィラは表情を崩さないまま小さく首肯する。そして、事の経緯を話し始める。
「ノービリア⋯いえ、その手前の商業都市メルカトスへ、今日中に移動すべきと、昨晩話し合いがございました」
自分達が食堂へ向かう前、あの酒宴が巻き起こるまでの間に、多くの事が決定していた。ルティウスは置いてけぼりな気分になりながらも、表情は変えずに続く言葉を待った。
「それで今朝方から、ジェロア様とリーベル様が馬車の手配に向かわれ、二日酔いで体調を崩されているお二人に付き添う形で、フィデス様も出掛けております」
「あぁ⋯⋯なるほど⋯」
ようやく合点がいき、ルティウスは呆れたように息を吐いた。
昨晩の記憶は多少曖昧だが、二人がずっと飲み続けていた姿だけは鮮明だった。特に叔父のリーベルに至っては、二日酔いなど日常茶飯事。その友であるジェロアも同じなのだろうと、苦笑を浮かべながら諦めていた。




