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「⋯⋯ね、コレさぁ~」
ようやく一人座りをさせて身を離し、その場に立つレヴィの耳に、再びルティウスの無邪気な声が届く。
何かに興味を持ったような一言は、瞬間的にレヴィへ嫌な予感を抱かせていた。
「きれいな、きんいろだよねぇ~⋯」
いつの間にか、ルティウスの手にはあの『ルナリス・ヴォランテ』と思しき、高い透明度を誇る黄金色の酒が満たされたグラスがあった。
ルティウスにとって危険極まりない酒を持ち込んだジェロアは、既に別のブランデーを飲み漁り泥酔している。同等に酒乱なリーベルもまた、ジェロアの向かいに座ってゲラゲラと笑いルティウスから意識を外していた。
無責任な⋯!と、横目で見ながら軽く舌打ちを鳴らしす。状況を混沌とさせた元凶である男達への制裁を心に決めながらも、レヴィはルティウスへと視線を戻す。
「⋯コレさぁ、レヴィの目みたいに、きれいだよねぇ⋯」
ゆらりと持ち上げたグラス越しにレヴィの表情を見つめて、嬉しそうにルティウスは呟いた。
その瞬間、脳裏に過去の記憶が蘇り、レヴィはその場に固まってしまう。けれど金色の酒を飲もうとする姿を目の当たりにして、咄嗟にルティウスの腕を掴みグラスを奪い取った。
「⋯あっ!レヴィ~、何すんだよぉ~」
感傷に浸る間もなく、グラスを死守するようにルティウスから遠ざけ、レヴィは苦渋の決断を下した。
「お前にこの酒はまだ早い」
上体を屈めて至近距離で蒼い瞳を見つめながら宣言し、奪い取った酒を再びルティウスの手が伸びるよりも早く一気に飲み干す。
「あぁ~っ!」
残念そうに嘆きの声を漏らすルティウスをよそに、レヴィは瞬間的に表情を顰めた。
広がる蜜の甘い香りと、手間暇を掛けたのだと存分に伝わる芳醇な後味。悪くはない⋯そう感じるよりも先に、酒としての強さは先程飲んだブランデーの比ではないと瞬時に察した。
「⋯お前、こんなものを飲んだのか⋯?」
上体を支えるようにテーブルへ手を着いてから、すぐ側の空いている椅子へと崩れるように腰を下ろす。
「レヴィさん、大丈夫です?」
椅子に座り額を押さえながら項垂れるレヴィへ声を掛けるも、そんなウェンティへ応じるだけの余裕は無い。
「これは駄目だ⋯ルティに、こんな酒は早すぎる⋯⋯」
フィデスのように噎せる事はなくとも、レヴィでさえ軽い目眩を覚えるほどの強さ。飲み方を誤らなければ美味だと分かるものの、ルティウスはこれを原液のまま飲み干している。
「⋯⋯へへっ、レヴィぃ~」
名を呼ばれちらりと視線を向ければ、甘えるような声でレヴィを呼び、だらしなく表情を緩めたルティウスの眼差しと交差した。
そして悟る。
ルティウスが、またもや泥酔していると。
「⋯ウェンティ、この場の始末は任せるぞ」
言いながら足元を確かめるように椅子から立ち上がり、尚も果実酒のグラスを空けようとしているルティウスへと手を差し伸べる。
「ルティ、来い」
有無を言わさぬ声音で呼ぶと、嬉しそうに瞳を細めるルティウスは差し伸べられた手を取りもせず大きな身体へと飛び込んだ。
「⋯ルティウス君、ダメそうですね」
受け止めた小さなルティウスの身体を即座に両腕で抱きかかえ、苦笑しつつもどこか楽しそうなウェンティへと返す。
「⋯明日の朝、ルティは今夜の事を覚えていないぞ」
ベラニスで酔った時も、前夜の記憶を無くしていた。あの時よりも酷い酔い方をしている以上、覚えていないどころか叔父のリーベル同様の二日酔いに苛まれる可能性もあるだろう。
「⋯レヴィぃ~、まぁだ飲めるよぉ~⋯⋯」
首元にしがみつきながらも譫言のように呟く声を無視して、抱き上げて支えている小さな背中をポンポンと優しく撫でた。
「部屋に戻ってルティを休ませる⋯」
「その方が良いでしょうね。レヴィ様も、後ことはお気になさらずお休み下さい」
泥酔しレヴィへとしがみつくルティウスを見上げるゼフィラもまた、微笑みを浮かべながら応えた。
そして果実酒を注ぎ足したグラスを口に付けるフィデスも、二人の様子を見上げて笑うように緋色の瞳を細める。
「レヴィってば、そうしてるとルティ君のお兄ちゃんとかお父さんみたいだねっ」
「⋯⋯⋯は?」
至極楽しそうに感じたままを言うフィデスを、レヴィはじろりと睨んだ。
何かを考えるように少しだけ沈黙してから、しがみついたままのルティウスを抱えてレヴィは食堂を後にした。




