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「⋯⋯⋯⋯」
事態が収束し、無言のままばつが悪そうに視線を逸らすレヴィへと勢いよく詰め寄って、フィデスは再び文句の台詞を投げ掛けた。
「レヴィ、キミはボクらなんかよりもずっと強い力を持ってるんだからね?きちんと制御しなきゃ、世界を湖だらけにしちゃうぞ?ボクがいつでも後始末してあげられるとは限らないんだからね!」
腰まで伸びた金に近い茶髪を揺らめかせながら、フィデスよりも背の高い人型のレヴィへと説教を垂れる。僅かな動揺を滲ませて視線を逸らすが、レヴィの表情はあまり変わらない。
「⋯滅びなければ別に良いだろう」
特別な力と役割を与えられようと、自身はただ一介の水竜に過ぎない。人の営みに影響を及ぼさなければそれで良いという、それこそ大雑把な思考を持っている。
しかしレヴィよりも早くから人間の世界に触れているフィデスは、そんなレヴィを叱るように言葉を続ける。
「⋯あのねぇ、人間達はたくましいけど、そこまで器用でもないんだよ?ボクらが無闇に力を使ってこんな風に地形を変えまくってたら、順応しきれなくなっちゃうでしょ?」
「⋯⋯適応しない人間達に、合わせろと?」
「そうだよっ!」
見た目だけは妙齢の女。けれど子供の少女のように腰に手を当てて、僅かにふんぞり返り断言するフィデスに説かれ、レヴィもその考えを改めようとしていく。
時折、気まぐれに降り立つ人間の街。不器用に生き、不自由だらけの暮らしの中でも、彼らは適応していき快適さを求めていた。けれどそこへ至るまでに要する時は長く、フィデスの言葉を裏付ける光景をレヴィも思い出す。
「⋯そう、だな。全く人間とは、不便な生き物だな」
「理解したかい?」
自分達が神を冠する存在へと至ったきっかけでもある、南東の街ベラニスを巡る防衛戦。レヴィの奮戦により世界そのものを沈めようと暴走した弟竜オストラを、どうにか遠い沖合の海底へと押し返した一件。
あの時もまた、気まぐれに降り立ち少なからず愛着を抱いた人間達が、水底に沈む事を良しとしなかったがため。
視線を出来上がったばかりの広い湖へと向けて、まだ若い⋯と言っても既に二千年を超えている⋯レヴィは金色の瞳にある決意を滲ませていた。
「ならば理解するために、世界を巡ってみるか⋯」
長く世にありながら、まだ知らぬ事は多い。
「⋯えっ、レヴィ⋯⋯今度はどこで何をやらかす気?」
「⋯さぁな」
嫌な予感を拭えず不安げな表情のフィデスを尻目に、レヴィは周囲に張り巡らせていた結界を解除した。同時にその身へ光を纏わせ、やがて元の白き水竜の姿へと戻っていく。
海を思わせる淡い蒼色の四翼と、同じ色の輝きを帯びる角。深海すらも流れるような移動を可能とするしなやかな体躯は、竜ならではの巨大さを誇りながらも美しい造形をした、けれど弟竜オストラと瓜二つの白竜である。
「ちょっとレヴィ?竜に戻ってドコ行く気だよ?」
反対にまだ人の姿のままで喚くフィデスを、鋭い金色の瞳を細めて見下ろす。
「⋯南の島では、日照りによって人が水に飢えていると、あの赤い竜が言っていたな」
それは防衛戦以降、関わるようになった炎竜イグニアの話。
炎と水、対極の属性にあるためか気が合う事もなく、度々衝突していた赤と白の竜。今でこそ争う事も無くなったが、未だ確執は残り続けている。
「えっ、イグニアのとこ行くの?何しに?」
レヴィが本気を出してしまえば、大陸とは異なり限られた面積しかない島など容易く水没させかねない。それがレヴィと仲の悪い炎竜の領域ともなれば、遠慮も無しに力を解き放つ可能性を否定しきれなかった。
「⋯案ずるな、島を沈めはしない。ただ⋯あの地を潤し、赤い竜に恩を売るのも悪くない⋯」
言いながら四枚の翼を強く羽搏かせ、空中へと舞い上がる。大陸の南西部に位置するこの場所からなら、飛べばそう遠くもない。
「ちょっ、待ちなよレヴィッ!あぁ~もう、そうやって自信満々な時のレヴィは、絶対にやらかすじゃんっ!」
後を追うように光を纏い、即座に黄金色の竜へと戻るフィデスもまた、二枚の翼を羽搏かせて空へと飛び上がる。
「⋯来るな。必要無い」
ぶっきらぼうに言い捨てて、レヴィは南の空に向けて飛び去った。慌てて追い掛けるフィデスでは、本気のレヴィの速度に追いつけるはずもなかったけれど。
「⋯バッカ!あぁもう⋯島の人間達が沈む前に、レヴィを止めなきゃあ~!」
その後、ようやくフィデスが南の島へ辿り着いた時には、確かに日照りによる水不足は解消されていた。
空からは雨を降らせ、地中からはまたもや水柱を噴き上がらせている。島の形成と生態系に多大な影響を及ぼす中央の火山さえも冷やしかねないほどの水の勢い。その光景にフィデスは思わず息を飲んだ。
当然のように怒り狂った炎竜イグニアがレヴィへ抗議するも、あの古き友が素直に謝罪などするはずもなく⋯。
島から少し離れた洋上で、白き水竜と赤き炎竜による激しい喧嘩は七日にも渡って繰り広げられた。水不足は解消されたものの、島への人の往来も途絶え経済に大打撃を与えた⋯という伝説は、現在もイグニアが守護する南の島国、フラーマ王国に脈々と継がれ続けている。




