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それはレヴィを含めた四体の竜が、神を冠する存在へと成って間もない頃。
世界の均衡を司る四属性の神々に力の半分を譲渡され、けれど生来の稀有な力と混ざり合い、精緻な制御を得意とするはずのレヴィでさえ全貌を測りかねていた。
そうして思案する白き竜は、今日もまた人の身を取り地上へと降り立つ。
翼と角を魔法で隠し、人間の姿に擬態した水の竜が向かうのは、見渡す限りの広漠とした大地。
「⋯ここならば問題無いだろう」
万が一に備え、広範囲に渡る結界を展開させるべく、左手を頭上に掲げる。周囲の環境へ与える被害を懸念し、その手に込めた魔力を軽く解き放てば、国ひとつを覆えるほどの巨大な蒼い輝きが閃光のように広がっていく。
そうして準備を整えたレヴィが次に行ったのは、地中を網目状に走る水脈への干渉。
その場に片膝を着き、地面へと右手を向ける。無尽蔵の力を秘めた世界の根を辿るように意識を集中させれば、乾いた平原が静かにひび割れ、そこから轟音とともに大量の水が噴き出し始めていた。
「⋯⋯神の力と言っても、この程度か?」
神を冠する前までは、ここまで精緻に水脈の力を操る事は出来なかった。以前は荒々しい力技に頼るしか無かった水脈への干渉も、ただの水竜でしかなかった頃に比べて格段に容易く感じた。
しかしそれでも、ただ神としての『制約』が増えただけで、本質的な力の変化はない。そう冷静に判断し落胆しかけていた時、上空から見知った気配が降下してくる事に気付く。
「レヴィ~!なぁにしてんだよ~!」
黄金色の鱗と角を持ち、大地を司る土竜のフィデスが叫びながら降りてくる。
人への擬態も忘れて飛んできたのか、フィデスはまだ巨大な竜の姿のまま。
その場に立ち上がり、地上に降り立ったフィデスの顔を見上げる。竜の姿でありながらどこか焦った様子の知り合いは、現れるなりレヴィへと文句の言葉を吐き連ねていた。
「地脈がバカみたいに揺れたから何事かと思ったらさ、こんな所で何してんだよ?」
そうして長い首を擡げつつちらりと振り向いた先に広がっていたのは、天を突くほどの巨大な水柱が轟音を鳴り響かせながら噴き出し続け、乾いていた大地を濡らすどころか、侵食し始めていく光景だった。
「アァーッ!ちょっと!いきなりこんなところに湖でも造る気?」
「⋯やかましい。少し、力を試していただけだ」
慌てるフィデスが視線を戻し、レヴィを『見下ろす』。そして気付く。
「あっ!しまった、このまんま来ちゃった!」
人間の世に、竜のまま降りてしまった事を。
呆れたように深い溜め息を吐くレヴィの眼前で、黄金色の竜は光り輝き、やがて収縮すると人の形を象っていく。
見慣れた竜の姿から変化し現れたのは、身長の高い女の姿をしたフィデス。
「⋯またその姿か」
永きを生きる竜は、人の身への変化を容易く叶える。この時既に、千の時をゆうに超える生を持つレヴィとフィデスもまた然り。容姿は思いのままで、けれど長命な竜は皆、ある特定の『気に入った容姿』落ち着きがちだった。
「いいだろぉ?ボクはこの姿が気に入ってるんだから!」
そうしてレヴィの一言に反論しながら、水柱が立ち上る場所へゆっくりと振り返る。どうしたものかと、苦笑を浮かべるフィデスの判断は早く、解決策のひとつとしてその力を解き放った。
土の竜でありながら神を冠したフィデスは、大地に足を付けていれば即座に地脈への干渉が叶う。細長い腕を伸ばし水柱が噴き出す割れた地面へ手を翳すと、彼女の意思に従うように徐々に陥没を始めた。
「このまんまだと水浸しになっちゃうからねっ!仕方ないから、またボクが後始末をしてあげよう!」
「余計な真似を⋯⋯」
不機嫌な声で呟くも、古き友の力で事なきを得た事態は一度や二度ではない。それほどまでに、かつてのレヴィが持つ力は強大であり、その制御はあまりにも大雑把なものだった。
二体の竜が見守る中、地中から噴き出し周囲を水没させかねないほどに広がり続けていた水溜まりは、窪んだ地面へと吸い込まれるように流れ込み、やがて本物の湖へと変わっていく。
「大きさはこんなモンかな⋯あとは、あの地割れをどうにかして⋯っと」
国ひとつが収まりそうなほどの巨大な湖。その湖底で今も口を開けている、レヴィが穿った亀裂を塞ぐように大地を細やかに操り、噴き出し続ける地下水の量を調整していく。
そうして出来上がったのは、常に湖底から清浄な地下水が湧き出し循環を続ける、大陸有数の広大さを誇る湖だった。




