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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十六話 Fabula

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 ラテーレ村での、今後の方針を決めるべく行われた話し合いが終わった頃。

 順に散っていったジェロアとリーベル、フィデスに公女姉妹の女性陣も居なくなったがらんとした広い食堂のテーブルで、ルティウスはまだ悲愴を表情に浮かべて突っ伏している。

「⋯ルティ、部屋へ戻るぞ」

 なかなか動こうとしないルティウスを待ってみるが、既にそれなりの時間が経過している。窓の外の明るい日差しは、ゆっくりと傾き始めていた。

「⋯⋯レヴィぃ~」

「どうした?」

 テーブルに頭を置いたまま隣のレヴィを振り向くルティウスの目は、どこか悲しそうに細められていた。その表情には、まるで戦いを終えた後のような疲労が滲んでいる。

「⋯俺、そんなに女の子っぽいのか?」

「急にどうした⋯?」

 こうして落ち込んでいるのが、女装が決定される原因となった自身の容姿のせいだと、既に二度目のレヴィも察してしまう。内心に浮かび上がる問いへの答えは、口に出す事が憚られ僅かに視線を逸らした。

「深く言及はしないでおこう⋯」

 答えをはぐらかし、優しく頭を撫でるだけに留めた。白く長い指先が柔らかな緋色の髪を梳くように動き、けれど不満を露わにする蒼い瞳がレヴィをじろりと睨み上げた。

「くそぅ⋯レヴィはいいよな。背も高いし、顔も綺麗だし、腕も立つし⋯」

 僻みの言葉を並べるルティウスの表情は、見慣れた不貞腐れ顔になっている。その様子を見て、レヴィは少しだけ口元を緩めた。

「それに比べて俺は⋯ゼフィラよりも小さくて、どこ行っても女の子に間違われて⋯鍛えてみても筋肉はほとんど付かないし⋯何だよこの差⋯⋯はぁ⋯⋯」

 再び女装させられるという絶望が、ルティウスを卑屈にさせてしまったようだ。呆れつつも微笑ましく思い、口の端が自然と上がってしまう。レヴィは、そんなルティウスの頭をもう一度優しく撫でた。

「私がこの顔でお前のような背の低さだったら、どうだったと思う?」

 唐突に発せられた『もしも』の話。背の低さを引き合いに出されて一瞬だけ苛立ったが、レヴィの顔を見上げてぼんやりと、少し小さなレヴィを想像してみる。

「⋯⋯絶対美人じゃん⋯なんだよ自慢かよ?」

 褒めているようだが、やはり僻みの対象になるらしく文句を言い始めた。けれど少しだけ興味を抱いた様子に、笑みを浮かべるレヴィはルティウスの頭を撫でながら衝撃的な真実を告げる。

「いずれ封印が解かれたら、見せてやろうか?」

「……え、どういう事?」

 何を言っているのか理解出来ないといった表情で大きな瞳を見開くルティウスが、突っ伏していたテーブルから頭を上げてレヴィを見上げる。

「以前、フィデスの時にも言っただろう。人の身を取った竜の外見など当てにならん…と」

「…あ~、うん。何かそんな事、言ってたような気もする」

 記憶を辿るように視線を泳がせるルティウスを見下ろし、少年にとっては驚くべき秘密が明かされた。

「我ら竜が人の身を取る際、その容姿は自在だ」

「えっ!」

「私が今のこの姿でいるのは、動きやすく都合が良いからだ。昔のフィデスに至っては、今のような少女ではなくゼフィラよりも背の高い女の姿をしていたぞ」

 驚きすぎたのか、口を開いたままじっとレヴィを見上げて固まってしまった。

 軽く息を吐き、ぽんぽんと頭を撫でてやれば我に返ったルティウスが飛びついてくる。

「じゃあ本当に、もしかしたら俺より小さいレヴィなんてのも、見られるのか?」

「可能だ。まぁ……封印された状態では、そこまで自由は利かないがな」

 少年の好奇心を刺激して立ち直らせるというレヴィの作戦が功を奏したのか、落ち込み続けていたルティウスは元気を取り戻し両手を握り締めて何かを呟き始めた。

「…つまり、いつも見下ろされてた俺がレヴィを見下ろしてやれるかもしれないって事で……うん、よしっ!」

 落ち込んでいた姿は消え去り、やる気を漲らせる少年はその場に立ち上がると、座ったままのレヴィを見下ろして力強く宣言した。

「封印の前に、まずはあんたの核の傷を治さなきゃだし…!こうしちゃいられない。ちゃんと練習するよ!」

 詳細を掴めたわけではない『星の雫』を扱うにしても、魔力制御が疎かなままで上手くいくはずもない事は、ルティウス自身も考え至った現実。

 出発までの間に少しでも上達を目指すべく、練習を再開するつもりだろう。察したレヴィも立ち上がり、ルティウスのやる気に満ちた一言へと応えた。

「ならばまずは、水滴の維持くらいは容易くこなしてもらおうか」

 鋭い指摘に表情を歪ませ言葉に詰まるものの、その程度で折れるほどか弱くない事は既に分かっている。

「…い、いつかレヴィより上手くなって、びっくりさせてやるんだからな!」

 負けず嫌いな性格が発揮され、大言壮語を吐き捨てるルティウスに思わず笑みが浮かんだ。

「期待して待っていよう」

 随分と低い位置にある頭を軽く撫でてから、レヴィは部屋へ戻るべく食堂を出る。その隣に並ぶルティウスも共に部屋へと戻り、やはり上手くいかない地道な練習に唸り声をあげる事になった。


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