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宿の食堂に集まった七人は、それぞれが神妙な面持ちを浮かべていた。侍女に扮した事もあるからか慣れた手つきで紅茶を淹れるゼフィラがカップを配り終えたところで、静かにジェロアが語り始める。
「まず改めて。俺はジェロア。リーベルとは、いわゆる幼馴染みたいなものでね。こいつが世界を旅した時も、魔道士として一緒に行動してたんだよ」
ゼフィラが用意した紅茶を飲みながら切り出すジェロアの言葉を、誰もが固唾を飲んで待っていた。
「ゆうべ、リーベルが急に俺の所に来てね、相談されたんだ。魔法的なダメージをどうにかする方法は無いか⋯ってさ」
事も無げに告げられたその事実に、視線はリーベルへと集中する。注目を浴びたリーベルはどこか居心地悪そうに頭を掻いているが、ぽつりと呟くように意図を話した。
「⋯魔力だ何だって言われても、俺はさっぱりだからな。だったら、詳しい奴に聞いた方が良いだろうって思ってよ」
「この村に俺が居るって、きっと遅れて思い出したんだろ?相変わらず脳筋だよなリーベルって」
「うるせぇ!」
否定出来る要素が無いのか、リーベルは不機嫌そうに悪態をついてジェロアから視線を逸らしていた。旧友の慣れ親しんだ反応に軽く笑うジェロアだが、すぐに笑みを消し本題へと入る。
「まぁそんな訳でね。そこで俺がリーベルに提示したのが『星の雫』という秘宝なんだけど…どんなものか知ってる人はいるかな?」
確かめるように視線を巡らせてみるが、誰もが沈黙している。ウェンティとゼフィラは心当たりでもあるのか記憶を辿るような素振りを見せているが、確信は持てないようで黙り込んでいる。
けれど一人だけ、口を開く者が居た。
『星の雫は神がもたらした奇跡。星の根と繋がり生命を潤す。選ばれし者の御許にて育み、されどその輝きは等しき贄を欲し、やがて望む者に神秘なる恩寵を与えん』
誰もが予想だにしていなかった。
「……マジかよ⋯⋯甥っ子君、全文を知っていたのかい?」
口を開き、声に出したのは他でもないルティウスだった。
だが誰よりも驚いたのは、語ったはずのルティウス本人。
「…え?いや……何でだろう。頭の中に、言葉が浮かんできて………」
見た事も聞いた事もない名前、それにまつわる詳細と、どこか不穏な警告と思しき文言が含まれた伝承の一節。どうして言えてしまったのかと考えるが、答えは一つしかない。
「…奴の影響か」
隣に座るレヴィが、真剣な目をルティウスへと向けている。
見慣れた金色の瞳は、その知識を与えてくれた者を思い起こさせるが、知っている事への漠然とした恐怖すらも心に浮かんだ。
「オストラからもらった知識の中に、きっとあったんだと思う」
自身の魔力の核を守護するべく内に宿るオストラの思念。彼から与えられた知識はそれこそ数千という年月の蓄積でもあり、古の秘宝についてオストラが知っていたとしても不思議ではない。
そしてルティウスが話した伝承の全文を聞いたウェンティとフィデス、そして『星の雫』について切り出したジェロアもが表情を曇らせて何かを考え込んでいた。
「⋯⋯その伝承が載った古い文献は、公国の書庫に収蔵されていたと思います。ですが⋯──」
途中で言い淀むウェンティの一言に頷くジェロアも、追随するように推測を語る。
「あぁ、俺がその文献を目にしたのも、ヴェネトス公国で禁書とされてしまう直前だったんだ」
既に『星の雫』についての記述は、おいそれと見られるものではなくなったという現実があった。そして表情を曇らせたまま考え込むフィデスが顔を上げて、最も懸念される点に触れた。
「等しき贄ってさ⋯⋯何だろうね?」
示された秘宝は、伝承の通りであれば確かにレヴィの核の傷を元に戻せるだけの力が秘められているのだろう。けれど対価が必要となれば、『星の雫』を探す事が正解とは言えなくなる。
「星の根は、根源のコトだと思うんだ。でも、何かと引き換えに力をくれるって⋯そういう意味だよね?」
ゼフィラも、そしてウェンティもが辿り着いていた解釈。
そして⋯──。
「これはボクの予想だけどね、『星の雫』は根源と繋がれるルティ君にしか扱えない。だけどその対価は、ルティ君が望んだものと同じモノ⋯⋯⋯」
ルティウスが根源との接続を可能としている事を、ジェロアはまだ聞かされていないはずだった。しかし疑問を抱いた様子もなく聞いている友の姿に、リーベルは無言で首を傾げる。
それはゼフィラも同様で、僅かな警戒の念を滲ませる瞳でジェロアの言動を注視していた。
だがルティウスは一人、既に心の中では確固たる決意を抱いてしまっている。
「ねぇ、ジェロアおじさん」
「おっ、おじ⋯⋯⋯」
相変わらず「おじさん」呼びに絶望の色を滲ませるジェロアだが、すぐにも気を取り直して、恋しき人の忘れ形見へと向き直る。
「その『星の雫』ってのがあれば、レヴィを治せるかもしれない⋯そのために、この話をしに来てくれたんだよね?」
母の好物だった焼き菓子を届けに来ただけではない事は、ルティウスも当然察している。レヴィの状態を知った叔父が、旧友を頼った翌日に訪れたという事実。返事を待たずとも正解なのだろうと気付けた。
問われたジェロアはルティウスと、その隣に座る特殊な魔力を持つ保護者の姿を交互に見遣り、微笑みを浮かべていた。




