第158話 人魚族と魔王と勇者
「もうすぐ夏なんだよなあ」
うーん、と女神は神界で考え中。
ル○ェタ氏へ高額スタチャしてる人魚族。
もうそろそろ。人魚族に聞いてもいい時期なんじゃないかと思う。
ちらほらと、ル○ェタ氏の配信視聴中に『神さまくんから聞き出してくれ』と人魚族はリクエストしてる。
そもそも人魚族が決定的に神さまくんのガチアンチになった理由は“彼”なんだよね。
「人魚族には彼の封印を解いて、この世界から解放したと伝えますよ」
スッとテーブルにカフェオレを置いたルジェタさん。
「人魚族も彼と一緒にまた、とは望んでいませんから」
「そっか。そうだよね。人魚族が今も探してる彼が白鱗の巫女の不思議な鞄に入られてたとか、私でもブチ切れるよ」
「今日も配信しますね。神さまくんに自白させます。そのあとは、人魚族のリクエストに応えます」
「そうして」
わたしがあんまり考えるとジェフクタールによくないけど……。
簡単に言うと、みんなが仲良くならないとイラついてた神さまくん。
そうだ! と思いついて“世界の王”を創造したわけ。
この子は将来世界を導く王になる。
全種族の上に立つ王だってね。
これでみんな仲良くなる、じゃねえんだわ。
「王はすでにどの種族にもいるだろうよ」
「受け入れられませんよね」
「本当そう。しかもよりによって人魚族に育てさせるとかさあ」
「不可能ですよ」
「だよね。絶対無理。愛するひと以外に食べ物をあげない人魚族に他族の、しかも将来世界の王になるとかわけわからんこと言われて置いていかれた赤ちゃん育てろとか馬鹿言いやがって」
「気持ちはわかりますが落ちつきましょうフク。今日三回追加で殺しておきますから」
「はあ。神は理不尽とか言ってるレベルじゃねえわ。ふざけやがって」
人魚族が番以外に食べ物あげないことすら気づいてなかった神さまくん。
なんでちゃんと育てないの! じゃねえんだわ。人魚族だって困ってただろうよ。
「神さまくんが人魚族にやってた理不尽天罰。そっくりそのままお返しして」
「人魚化薬を飲ませますね」
「ミイラ化するまで炎天下の砂浜で干してあげて。途中で水ぶっかけてね。人魚族にやった以上に」
「落ちつきましょうフク」
「はあ……」
人魚族はそれでも魔法使ったりして育てたんだよ。赤ちゃん用に黄金の実って言う神さまくんが用意した木が海底に生えたから。黄金の実を赤ちゃんのそばに寄せるだけ、食べ物をあげるんじゃないって感じで。
神さまくんが創造した世界の王という種族? だから他族よりも少しだけ受け入れられたっぽい。
それが悲劇でもあったよね。
「結局、人魚族にお世話になってた彼が神さまくんに怒って、神さまくんは逆ギレ」
「神の愛し子。世界の救世主。世界を導く王が今度は神に反逆する魔王ですからね」
「人魚族やカノンたちが探しても見つからないはずだわ」
「人魚族が白鱗の巫女と交流をすれば封印した彼に気づく。彼もそのころには自分に逆らったことを反省しているだろうという寛大な処置、らしいですよ」
「記憶はそのまま子どもにして彼にやったこともお返しして」
「はい。賽の河原のように海水を何度も運ばせますね」
「雷落としながらね」
人魚族を助けようとする子どもだった彼が許せなかった神さまくん。
ちゃんとするように人魚族に罰を与えてるのに邪魔をしてと彼にも天罰。
「彼は世界の王でしたからね。誰にも望まれていなくとも」
「人魚族を助けようとするよね。種族特性というか、それだけじゃないから人魚族は今も彼を探してるんだろうけど」
「それでも彼はジェフクタールに不要です。存在が矛盾してますから。彼もそれはわかっていました。人魚族にメッセージを残せて満足していましたよ」
カフェオレをひとくち飲んでため息をつく。
「もうちょっと考えろよ確認しろよって何度思ったかわからないわ」
すっごくイラつく。
好きの反対は無関心じゃねえわ。復讐だわ。
目の前から消えて、ようやく無関心だわ。
「全部お返ししてね。神さまくんがジェフクタール人にやったこと」
「永遠に終わらないかもしれませんね」
「三倍返しでもスッキリしないわ」
「フクが満足するまで続けますよ」
微笑むル○ェタ氏。
はあ。いくら修行をしても、この件を思い出すと駄目だ。神さまくんが人魚族にやったこと他にもまだまだあるからね。
おまけに、ギュルヴィくんの予言を考えると冥界から逃げるために白鱗の巫女の不思議な鞄を通る予定だったみたいだからね。
神さまくんに実際にやらせましたよ。
ル○ェタさんが気づいてない振りしてたら、やりましたわ。
白鱗の巫女の不思議な鞄から出たら、鱗族じゃなくてル○ェタさんとご対面でしたけど。
ギュルヴィくんたちを殺して成り代わる。
させませんわ。
冥界よりも、そりゃあいい生活、性生活になると思ったんでしょうね。
最終目的地は森の葉族だったのか、わたしへの復讐か知りませんが。
はあ。
落ちつかねば――。
「あの子も大丈夫かな」
「別の世界で世界の王になりますよ」
「そっか」
「フクが彼につけたお名前もとても気に入ってましたよ」
「ん?」
私が彼に? お名前?
「フクが勇者に名付けるなら?」
「ゼガロイヤ」
「以前にも聞きましたよね」
「あの子のお名前だったの?」
「はい。ジェフクタールでのことはすべて忘れて、旅立ちましたよ」
その日のル○ェタお兄さんの配信は過去最高額のスタチャが人魚族から贈られたそうな。
海で迷子中の人魚族も、きっとそのうち帰ってくる。目的は彼探しでもあるから。
ゼガロイヤも世界一幸せになるといい。
翌日――。
「人魚族がふたつ目の島!?」
朝からオフクロさんのフクフォンにメッセージあり。
工務店の人魚国担当男性の橙色のカノンからでした。
<無人島ってふたつ目駄目なの?>
<ありはありだけど>
<じゃあ売るねママのキラくん島>
<ママのキラくん島なの!?>
チーン。
さ、さすがNo.1ホスト妖精。
ママは今日も朝から元気みたいです。
「……人魚国の物産店どうなったかな?」
人魚族は冒険者島のトレーニングダンジョンでお金を稼いでます。が、今はたまに来る感じなんですよね。
短期間で荒稼ぎをして、帰りに冒険者ギルドの工務店に寄って、フクエル島を充実させてたんですよ。
お金が必要じゃなくなったら、パッタリと来なくなります。
「物産店のことはリミーちゃんが張り切って工務店に相談してたけど……」
物産店に興味がある人魚族はリミーちゃんくらいなんだよね。
リミーちゃんはギラデス王に抱っこされて冒険者島に来てます。
聖地で見かける人魚族はこのふたりが一番多いです。
海流スライダーしてる人魚族はいっぱいいるんだけどね。人魚族は全体的に聖地に来てくれない。
シェジュ王くんのフクエル島が人魚族のフクエル島状態なんだわ。
というわけで聖地の物産店を見守ります。
「……開いてない」
いや、うん。
早朝だもんね。
鱗国の物産店が開店準備してるくらいですわ。
ミラクル馬車が鱗国物産店の前に停まってます。開店準備をしてるのはこじらせ村のカノン族と妖精たちですが……。
「見なかったことにしよう……」
お昼くらいに見守るべきでしたね。
ちょっと気分転換でもしようかな。
わたしも神界お弁当屋さん計画があります。オフクロさんは女神社長だけをやってるわけじゃないのだ。
というわけで!
「神界お弁当屋さん計画を進めるか」
鱗族のファヌアス王にロックオンされてる大神殿の青のカノンのこともあるしね。
お肉の匂いも嫌いなファヌアス王が自然に青のカノンを諦めるように、オフクロさんは暗躍するのであります。
ふふ、とニヤけつつ企画書を作成。
一応ルジェタさんにお話をしなければいけないので。
神界報! 連! 相! なのであります。
小さなこともしっかりと――。
そんなわけで。
「いい感じにぼったくる予定なんですね」
ルジェタさんに企画書を提出。
カノン族と妖精たちは衣食住満たされているので、神界お弁当屋さんは強気のお値段です。
「強気のお値段ですね。とてもいいですよ」
言い直した秘書くんルジェタさん。
ぼったくりでは! 決してありません!
お値段強気なだけです。
全員分毎日販売は無理、という理由もある。
お高ければさすがに毎日買おうとは思わないでしょう、マザコン連合以外。
「休日をもっと増やしましょう。それなら問題ありません」
「よっし!」
「休日を増やすんですよ」
「わかってますわかってます」
これで安心!
楽しい開店準備を進めていきます!
「フッフッフ」
オフクロさんは秘密の地下厨房を建設しました。めざといマザコン連合にお料理してるのがバレないようにするためです。大厨房だとバレるし質問責めにされますからね。
全力の女神パワーで隠蔽してる秘密の厨房なのであります。
「もっと作りおきをしておかねば」
大厨房でお料理してるときに保存用も考えて毎回大量に作ってるけど、たまご焼きとかね。そういう一品が足りてないんだよね。
なので今日はたまご焼きを作ります。
「チーズ、めんたいこ、海苔、大葉にじゃこにネギと――」
アレンジしたたまご焼きも大量に作る。
卵を割ってカチャカチャカチャカチャ。
甘いたまご焼き甘くないたまご焼き。
たまご焼きの好みってあるよねえ。
神界勢は甘いたまご焼きが人気です。
「炒り卵とそぼろ、ミニオムレツまで作るか」
炒り卵とそぼろを作りおきしておけば三色丼も手早く出来る。
あとはミニオムレツの具。
ひき肉にみじん切りにした玉ねぎと人参を入れてコネコネ……。
「ミニハンバーグもついでに作るか。あっ、ロールキャベツ。ミートローフもついでに。あとミートソース、餃子も――」
たまご焼き作りの予定が気づけばなんかいろいろ作ってしまう。
ひき肉っていろいろ作れるよねー。ついでについでにと、ついついやっちゃいますわ。
オフクロさんこういうことよくやる。
まあいいか。
「ちょっとしたデザートにまで手を出してないからセーフではありませんよ」
「ヒッ!」
「もう深夜ですが? いつまでお料理を続ける気ですか? 秘密の厨房を用意してもフクがいないと騒ぎになりますが?」
「は、はは……」
「社畜にお弁当屋さんは早かったですね」
「あああああっ!」
ビリィッ!
神界お弁当屋さんの企画書がああああッ!
「お弁当屋さんは開店禁止です」
「い、いや、ちゃんと休日も作るし!」
「その信用を私から勝ち取ったら、開店してもいいですよ」
「……おぅ」
にっこり。
秘書くんの恐ろしい微笑み。
オフクロさんの神界お弁当屋さん計画。開店出来るように頑張ります。はい。
「ちゅんちゅん」
翌朝。
神界には小鳥がいます。
シマエナガとか青い鳥とか、わたしが好きな鳥たちです。
鷹など大きい鳥には、たまにフクぬいや秘書ぬいくんが乗って移動してます。
「お食べちゅんちゅん」
窓を開けて鳥餌をぱらり。
小鳥たちのお名前はちゅんちゅんです。
「はあ」
失敗した。
昨夜? の企画書ビリィッが精神的にきてるわたしです。
ルジェタさんの信用を勝ち取れたらって、どうすればいいのやら。
確かにね。秘密の厨房に長時間いたらバレますよね。昨日はルジェタさんが誤魔化してくれたらしいですが。
「開店準備で頓挫してしまった……」
たまご焼きだけを作ることが出来なかった。
ひき肉に手を出してしまった。
社畜にお弁当屋さんはまだ早いとか言われてしまった。
企画書出したときに『休日』って何回もルジェタさんに言われていたのにやってしまった。
反省。
「今日はのんびりゲームでもするかあ」
どうすればもう社畜と思われないのかわからないからゲームします。
「のんびり村で暮らすか」
スローライフとは何なのか。
その謎を解き明かすため、オフクロさんはポチポチポチポチ。
「お花に水をあげましょう」
ポチポチポチポチ。
なんとなく、スローライフがわかってきたような気がする。
「スローライフは、釣りだな?」
だよね。
少なくともこのゲームではそうだわ。
春夏秋冬、川と海岸で釣りをして図鑑コンプ。釣ったお魚は売ってもいい。
あとは引っ越してきた住人たちとキャッキャと交流。
虫も売れるけど危険。
スローライフなら釣りだわ。
ただ、まあ……。
「わたしそんなに釣りしたことないんだよな」
子どものときにやったくらいの経験値。
バカンス島で釣りも出来るけど、釣り竿とかは釣りが好きな村に任せてます。
「スローライフ。のんびりまったり。毎日が休日でのほほんのほほん」
この調子なら、オフクロさん大丈夫じゃねーの?
スローライフ理解出来てるわ。気分もまったり。
のほほんのほほん。
「やってるのほぼカブじゃないですか」
「ヒッ!」
「基本カブで稼いでるでしょう。住人とのまったり交流よりも図鑑コンプ。なんでもう借金完済してるんです? 口先だけじゃ駄目ですからね。このままではジェフクタール人もフクの影響で社畜化しますよ」
「うおぉん……」
ゲームでスローライフ社畜脱却計画もこうして頓挫したのであった。
「一日のお弁当屋さんお料理時間を二時間厳守に出来るなら許可します」
「二時間!? それは無理でしょ」
「では開店せずに閉店ですね」
「ちょ! 待って待って! 仕込みの時間二時間じゃ無理でしょう!?」
ルジェタさんを慌てて引き止める。
「フクの本業は運営でしょう。お弁当屋さんまで本格的にしたら一日中仕事ばかりです。お弁当屋さんは短時間開店。お弁当も二時間で作れる数だけを販売。営業日は週に三日。それを守れるなら私も協力しますよ」
「お弁当二時間じゃそんなに数作れないよ」
「女神パワーを使って二時間。どれだけ自分がお弁当を作れるか自覚してます?」
「してるよ」
「出来れば毎日全員分と考えるのをやめなさい。無理のない範囲でやるならいいんですよ。デザート付きなどとも考えずに」
「でも……でもさあ……」
どうせならみんな買えるくらいの余裕が欲しい。
需要と供給で供給が多くありたい。
ミラクル食糧庫もミラクル鞄もあるし――。
「はあ」
ルジェタさんが深いため息を吐きました。
「正解はねフク」
「なに?」
「ルジェタさんも手伝ってですよ」
「……えっ? ルジェタさんお仕事いっぱいしてるじゃん!」
「私は遊びにも行きますし、毎日お昼寝して、フクが残業をしていなければ夜は八時間寝てますよ。そうでしょう?」
「う、うおぉん! 手伝ってルジェタさん!」
「はい。落ちついたら新婚旅行も忘れないでくださいね」
神界お弁当屋さん計画。
有能過ぎる従業員を雇って再始動。




